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2007年12月 2日 (日)

芥川龍之介とMozart

DS文学全集で芥川龍之介『或阿呆の一生』を読んだ。かつて熱心に芥川を新潮文庫で買い集めて読んだが、この絶筆となった短い自叙伝は読んだ記憶がなかった。

芥川は、ぼんやりとした不安を抱えて、斎藤茂吉から処方された睡眠薬で自殺したという。(これは、茂吉の長男の斎藤茂太の著作ではなく、茂吉の次男北杜夫の著作で読んだ記憶がある)。

さて、『或阿呆の一生』を読むと、晩年の彼が発狂の恐怖に捉えられていたことが分かるような気がする。(実母が発狂したという。)

この41「病」という章に、不眠症、胃酸過多、胃アトニイ、乾性肋膜炎、神経衰弱、慢性結膜炎、脳疲労・・・・・・ と病名が連ねられている。その彼は、ある日カツフエで蓄音機から流れて来る音楽に耳を傾けている。それは彼の心もちに妙にしみ渡る音楽だった。音楽が終わってからレコオドのラベルをしらべてみたところ「Magic Flute ----- Mozart」とあった。「彼は咄嗟に了解した。十戒を破つたモツツアルト(ママ)はやはり苦しんだのに違ひなかった。しかしよもや彼のやうに、・・・・・・彼は頭を垂れたまま、静かに彼の卓子(テエブル)へ帰つて行つた。」  

これは、1927年、芥川が自殺の年に書かれ、死後公表された一種の自叙伝だが、35歳で病死したモーツァルトの最晩年の作品(このことを芥川は知っていたかどうか)を同じ35歳で自殺した芥川に妙にしみ渡る音楽であったことが不思議な暗合のように思われた。

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