ベーム/VPOの『田園』
クリスマスと『田園』が関係があるというと強弁のようだが、実は"PASTORAL"田園曲という題名自体が、それを示しているのだという。J.S.バッハの『クリスマス・オラトリオ』の第2部の第1曲(通しでは第10曲)は、シンフォニアという題名だが、別名 パストラーレ 8分の12拍子 であり、ヘンデルの『メサイア』では、第12曲 Pifa (田園曲)が 別名Sinfonia pastorale となっている。Pastoral 羊飼い(牧羊者)の曲つまり、聖なる羊飼い=イエス・キリストということになるのだろう。 6拍子系ということでは、この田園のフィナーレの『牧人の歌、嵐の後の喜ばしい感謝に満ちた気持ち』もその系譜に連なるということらしい。
ベートーヴェンは、恐らくヘンデルの『メサイア』は、モーツァルトが古典派様式のオーケストレーションに編曲したほどなので、その注文主ヴァン・スヴィーテンを通じて知っていたことと思う。この交響曲の構想に、Sinfonia pastorale が影響しなかったと言うのは考えがたい。
参考:国立音楽大学音楽研究所〈ベートーヴェン研究部門〉 (トップページ。2006年で活動は中止したがこのサイトは当分公開されているとのこと。)
http://www.ri.kunitachi.ac.jp/lvb/rep/rep.html (研究年報論文および報告。とても興味深いものが多い。)
http://www.lib.kunitachi.ac.jp/tenji/2005/tenji0509.pdf (「田園」交響曲についての特集展示。これも「田園」交響曲の周辺などとてもためになる。)
ベームとヴィーンフィルのベートーヴェン交響曲全集は、満を持してという感じで発売前の期待は高かったが、今でも一般的に高い評価を保っているといえるのは、この『田園』だけのようだ。
しかし、この全集の中では、7番をLP時代に購入し、マイ・ファーストのベト7としてよく聞いた。今では何種類もベートーヴェンの7番の音盤を所有していはいるが、LPのベームの7番はいい演奏だったと思う。むしろ、有名なカルロス・クライバーとヴィーンフィルのものより好きかも知れない。今年の流行言葉で言えば「品格」の違いのようなものが感じられる。ベーム/VPOの全集からはこのほかCDでは第九も購入したが、こちらはアンサンブルの縦の線が幾分ずれているように聞こえ、少々残念だった。
さて、この有名な6番は、やはりFM放送では耳にしたことがあるが、音盤としては、この廉価盤のBELARTシリーズのものが初めてだ。それほど期待をせずに聞いてみたところ、なかなかよい。
楽器バランスの上では、第1楽章のホルンが少し強調気味で、第2主題の後半でのその旋律的な味付けが新鮮だ。また、意外なピツィカートの強調などもあり、立体感のある演奏に聞こえる。ソロの木管も美しく巧い。全体的に流れもよいし、アンサンブルも良好で、この録音が今でも人気があるのも分かる気がする。音色も、ヘ長調のオーケストラ曲に聞こえる弦楽器群の雑な面が少なく、まろやかで華やぎがある音楽になっている。
第2楽章は、安心して音楽の小川に身をゆだねられるという感じだ(『美しき水車小屋の娘(女粉引き職人)』の世界ではないが)。ヴィーンフィルの木管のソリストたちの美しいアンサンブルにはまったくうっとりとさせられる。まるで、木管楽器による合奏協奏曲のようではないか!
第3楽章の農民の踊り この録音を聴いて、同じコンビによるブルックナーの『ロマンティック』のスケルツォを思い浮かべた。ベートーヴェンの衣鉢を継ぐものとしてのブルックナーの位置づけというところだろうか。ここでも音を割ったホルンの強奏、オーボエとクラリネット、ホルンによる主要メロディーの引継ぎなど素晴らしい。
第4楽章の嵐 農民の踊りの弱奏から嵐へ推移していく緊張感、嵐のクライマックスで音楽が崩れない部分にベームの統率力を感じる。
そして、第5楽章の牧人の歌、Sinfonia pastoralle の中心楽章。ティンパニの遠雷の中で、吹き交わす牧人の角笛から感謝の歌が生まれる。時間設定的には、この楽章は午後の嵐が過ぎて夕暮れが近づく頃だと思うが、なぜかこの楽章のクライマックスで上田敏『海潮音』に含まれる次の人口に膾炙した詩を思い出す。
春の朝
ロバアト・ブラウニング
時は春、
日は朝、
朝は七時、
片岡に露みちて、
揚雲雀なのりいで、
蝸牛枝に這ひ、
神、そらに知ろしめす。
すべて世は事も無し。
この『田園』のCDでも新方式(新材質)のCDが発売され、これまでのCDよりも音質がよいというが、今度は是非そちらで聞いてみたいものだ。
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