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2008年1月 9日 (水)

ミュンシュ/パリ管のブラームス交響曲第1番

Munchbrahmsnr1

ブラームス 交響曲第1番ハ短調作品68
 シャルル・ミュンシュ指揮パリ管弦楽団

 〔1968年1月8日、12日 パリ。シャンゼリゼ劇場?〕
  14:37/9:45/5:02/18:14
  東芝EMI CC33-3417 (X~87・4・22) EAC-81032


外国に赴任している友人から年賀状をもらい、電子メールで返信したところ、ブラームスの1番についてのコメントが返ってきたので、それを機会にこれまで眠らせておいた音盤を聴き直して記事にしてみようと思いついた。

このミュンシュ指揮の録音は熱演型の名演として古くから知られた名盤で、アルザス地方出身のシャルル・ミュンシュ(フルトヴェングラーの指揮するライプツィヒ・ゲヴァントハウス管でコンサートマスターを務めていたことがある)が、アンドレ・マルローによってミュンシュのために結成されたパリ管弦楽団をお披露目するために録音した一連の録音のうちの1つだが、この年11月のパリ管とのアメリカ楽旅中にミュンシュが77歳で急逝したため彼の遺作的なものになってしまった。しかし、そのような高齢、急逝を感じさせない最もエネルギッシュなブラ1ともいえる録音だ。

この名盤もEMIレーベルの旗頭として、いつもレコード店の店頭にあったものだったが、長らくその評判を知りながら聴く機会のなかったもので、昨年ようやく求めることができたものだ。

同じ一連の録音である「幻想交響曲」はその熱狂的な演奏が有名で、古くからLPで聴いていたものだが、ブラームスの1番については、ベーム/BPOの刷り込みが強く、小澤/サイトウキネン盤を友人から引越し祝いのお返しにプレゼントされるまでその他の音盤は(同じベームのVPOとの来日ライヴLP以外は)持っていなかったほどだった。それ以降ここ数年で下記のリストのようなCDが手元に集まり聞き比べを楽しんでいる。

古くは、フルトヴェングラーのやはり流動的で熱狂的な録音があり、今でもその録音は高く評価されているが、このミュンシュがパリ管を指揮した録音は、その衣鉢を継ぐものと語られてきた。

確かに、冒頭からの確信を持ったフォルテ、低弦の雄弁さなどはミュンシュ自身の半分ドイツ系の感性を感じさせる。横の線を重視した流動的な部分は、第3楽章などで少し縦の線のアンサンブルのバラケが聞こえるけれど、だらけていて合わないのではなく、音楽には集中力が保たれているのが、感慨深い。また火の玉的な部分は、猛烈なクレッシェンンド、ティンパニの一発などフィナーレ楽章の最初の序奏部分から強く表れるようだ。アルプスの峰よりの挨拶のホルンの音色は少々明るい(軽い)が、これは深深としたドイツ風のホルンが懐かしくなる。しかし、それに続く冴えたフルート、ゆったりしたトロンボーンのコラールはなんとも味わい深い。主部のブラームスの歓喜の主題も堂々とした力強い音楽だ。最後まで息切れせずに、まるで幻想交響曲の終楽章の再現であるかのように、コーダに向かって突き進むのは圧巻だ。

ミュンシュは、第二次大戦前には上記のようにライプツィヒで名門オーケストラのコンサートマスターと活躍し、その後フランスに戻り、マルセル・カルネの映画『天上桟敷の人々』(1945)の音楽担当などにも名を連ねフランス文化の粋を称揚する立場となるなど、独仏両国の対立に引き裂かれそうになる音楽人生を送ったことになる。そのミュンシュが既にボストン響とは録音を残してはいたが、最晩年にパリ管とブラームスの1番という最もドイツ的な音楽を奏でるのにはどのような感慨があったものだろうか。

なお、小澤征爾は1959年の第1回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝したときの審査委員だったミュンシュにほれ込み、彼の後を慕ってアメリカのボストン(タングルウッド)に向かったという(『音楽武者修行』)。その小澤が若い頃DGに入れたボストン響とのブラームスの1番はかつて聴いたことがあったが、マーラーの1番と並んでいい演奏だった。

クレンペラー/PO〔1955-1957年〕         14:05/9:23/4:40/15:54
セル/クリーヴランド管弦楽団〔1960年代〕   13:05/9:22/4:41/16:20
ジュリーニ/PO 〔1961年1月〕           14:11/9:28/4:55/18:08
◇ミュンシュ/パリ管〔1967年1月8,12日〕      14:37/9:45/5:02/18:14
ザンデルリング/SKD〔1971年3,6,11月〕     14:22/9:50/5:05/17:15
ベーム/VPO〔1975年5月〕             14:13/10:41/5:05/17:52
ショルティ/CSO 〔1978年5月〕           16:45/9:48/4:40/17:19
バーンスタイン/VPO〔1981年10月〕        17:31/10:54/5:36/17:54
小澤/サイトウキネンオーケストラ〔1990年8月〕 13:02/8:16/4:50/16:30

これで、手持ちのブラ1のCDで記事にしていないのは、カラヤン/BPO(1970年代録音)とヴァント/NDR(1980年代録音)となった。

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