モーツァルト『ポストホルン』セレナード、バレエ『レ・プティ・リアン』
セレナード第9番ニ長調K.335『ポストホルン』〔1973年録音〕
『レ・プティ・リアン』 K.299b(K.Anh.10) 〔1966年録音〕
ウィリー・ボスコフスキー指揮 ヴィーン・モーツァルト合奏団
〔ヴィーン、ゾフィエンザールにて〕
先日、新聞の新刊書紹介か、書店の本の背表紙か記憶があいまいなのだが、ハプスブルク帝国の遺産の一つとして、帝国が確立した郵便制度が有名らしい。それゆえにか、やはり先日のN響アワーでの青木やよひ氏によるベートーヴェンの交響曲第8番が郵便馬車に関係しているという指摘や、シューベルトの『冬の旅』の『郵便馬車』は、そのハプスブルク帝国時代の作品ということになる。そして、その系列として、モーツァルトのこの『ポストホルン』セレナードもリストアップされるだろうか?
ロビンス・ランドン監修のホグウッドの交響曲全集では、このポストホルンセレナードからも楽章を抜粋してジンフォニーに仕立てているほどで、結構充実した作品だと思うが、意外にも吉田秀和氏は『レコードのモーツァルト』の 「ジョージ・セル」の章で、このK.335の曲を「少し乱暴にいわせて頂けば、モーツァルトでは少し退屈な作品に属するのではないか」と書かれており、この曲を聴くたびに、繰り返し読んだこの章の文章が思い出されてしまう。
このボスコフスキーのディスクだが、フィリップス=小学館のモーツァルト全集もさすがにこのヴィーン・モーツァルト合奏団の「舞曲と行進曲集」ではデッカのCOURTESYを得て収録しているほどで、このセレナードと比較的珍しいバレエ音楽も彼らによる一連のモーツァルトのセレナード集録音からの抜粋盤だ。吉田氏の触れたセルの『ポストホルン』と『アイネクライネ』は未聴だが、相当以前に購入したボスコフスキーによる『ポストホルン』は結構楽しく聴くことができる。そして、それほど「霊感に乏しい」曲だとは聞こえないように感じている。ポストホルンの信号ラッパ音は、第6楽章メヌエット(この曲としては2番目のメヌエット)の第2トリオに出てくる。石井宏氏の詳しい解説によると、ポストホルンとしては名人芸的な技術を要求しているといい、このことがこの曲の成立にミステリアスな様相を与えているという。
K.299b(K.Anh.10)のパントマイム・バレエ『レ・プティ・リアン』のためのバレエ音楽は、例の悲劇的なパリ旅行の際にノヴェールというパリ・オペラ座監督であった音楽家からの依頼で「補作」したもので、当初ノヴェールの名前で出版されたため長いこと忘れ去られていたのだという!これが1872年のパリ・オペラ座の「古文書」の中から発見され、モーツァルトの手紙に書かれた音楽だということが判明したとたんに有名になってしまった!当時は有名でも歴史的には忘却されてしまった人物の作品は埋もれっぱなしになっててしまうのだが、モーツァルトの作品と確認されてからはこうして有名な指揮者と有名な演奏家(ヴィーンフィルのメンバー)によって演奏されるという幸運に恵まれる。まことに歴史の選択というものは不思議なものだ。
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こんにちは。
モーツァルトのセレナードやディベルティメントは交響曲よりも好んで聴いています。この「ポストホルン」も大好きでエアチェックを含めると十数種類くらいありそうです(わたしとしては多い) ボスコフスキー盤、ウィーン風の艶やかな演奏で好みです。尚手持ちのCDは「アイネ・クライネ・・・」とのカップリングになっています。
投稿: 天ぬき | 2008年3月 5日 (水) 14:28
天ぬきさん、たびたびコメントをありがとうございます。『ポストホルン』10数種類とはすごいですね。セルのものは勿論、ベームなども聴いてみたいです。
ところで、"Les petite riens" について改めて調べてみたら「ちっぽけなとるに足らないこと」というような意味だということが分かりました。この日本語では、あまり人口に膾炙しなさそうですね。意味もわからず「レ・プティ・リアン」の方が洒落ているように感じます。
投稿: 望 岳人 | 2008年3月 5日 (水) 21:18