ベートーヴェン 交響曲第5番 最近入手した録音(クレンペラー、カラヤン、飯守)
5月の5番。
◎今更ながらだが、クレンペラーの演奏は、テンポは遅いがまったく弛緩しておらず、逆にそのテンポが雄大さを強調して素晴らしい。しかしクレンペラーの場合雄大と言えども、茫洋とした細部の不徹底はまったくなく、むしろ細部の明晰な積み上げが雄大さにつながっているのだと感じる。吉田秀和氏の『世界の指揮者』では、ヴィーンフィルとのライヴラジオ放送の演奏のことが書かれていた(新潮文庫版 P.70-71) が、それを読み直してまさにここに書かれているような演奏をこのフィルハーモニア盤でも聴くことができた。本当にクレンペラーを聴くと毎回驚かされる。未だ聴いていない録音も多いので余計楽しみなことだ。 8:52/11:08/6:13/13:18 (1960年録音)
ちなみにバーンスタイン/NYP の1961年録音 8:38/10:11/4:59/11:27(提示部リピート)で、第一楽章のゆっくりしたテンポが似通っている。久しぶりに聴いてみたら、非常に柔和で優しい第一楽章で驚いた。LPでそれこそ何度も聴いた演奏で、その後いろいろ聴き比べるうちに、緊張感に乏しい粗が目立つ演奏のようなイメージになっていたが、こちらが遅いテンポのもの(クリップスのモーツァルトやクレンペラーの多くの録音)を味わえるようになって来たためか、味わい深い演奏だった。ただ、終楽章は解放的で荒ぶる演奏だ。
◎カラヤン/BPO は、1977年録音盤。7:07/9:27/4:37/8:38
所要時間的にはカラヤンのものはモダン楽器のものとしては非常に速い部類だ。クレンペラーは逆に非常に時間を掛けており、また第4楽章は提示部リピートを忠実に行っているので余計その差が広がる。これまで、カラヤン/BPOのベートーヴェンはほとんど聴いてこなかったが、"The Great Composers"シリーズの記念すべき第1巻が出ていたので購入して聴くことができた。(フィルアップは、1960年代の序曲集「エグモント」、「コリオラン」、「フィデリオ」、「レオノーレ3番」)。カラヤンの指揮と聴かなければ、巧い演奏だという感想が素直に出るのだろうが、1974年のC.クライバーの録音(7:17 / 9:56 / 5:07/ 10:48 =提示部リピート) の後、カラヤンがどのような演奏を聞かせるかに興味があったが、同様に動的で引き締まった古典主義的解釈だが、今聴くと意外にもこのカラヤン盤の方がしっくりする。一時期は、クライバー盤が自分としても決定盤のように感じていたが、やはりこちらも聴き方、感じ方が変わってきたようだ。タイミングは、カラヤンとクライバーは大変似ている。
◎飯守泰次郎/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 2000年7月27日東京文化会館ライヴ 6:50/ 9:11/ 7:33/ 10:13
これは、ベーレンライター新版に基づく日本初の全集ということで話題になったもの。真正なベーレンライター新版に基づくものではなかったが、モダン楽器によるピリオドアプローチを取り入れた演奏ということでは、例のジンマン指揮のチューリヒ・トーンハレの全集のもの(6:49/ 8:45/ 7:19/ 10:25 )に通じるものがある。これまでのモダン楽器による解釈、演奏スタイルとは異なるもので、軽快で鋭く、クライバーに比べてもより躍動的な演奏になっている。
数年前にもセルとライナーの演奏でこの5番を聴き比べたが、様々なアプローチが楽しめ、非常に面白い。
クリュイタンス/BPO<1958> 8:24/9:51/5:29/9:08
クレンペラー/PO<1960> 8:52/11:08/6:13/13:18
カラヤン/BPO<1977> 7:07/9:27/4:37/8:38
ブロムシュテット/SKD <1977> 8:05/11:21/8:53/8:52
K.ザンデルリング/PO<1980?> 8:04/10:38/6:05/10:23
飯守泰次郎/東京シティ・フィル 6:50/ 9:11/ 7:33/ 10:13
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ライナー/CSO<1959/5/4> 7:30/10:05/5:26/8:01
セル/CLO<1963/10/11&25> 7:31/10:01/5:30/8:32
セル/VPO<1969/8/24> 7:45/10:13/5:35/8:34(拍手を入れて9:12)
フルトヴェングラー/BPO<1947/5/27Live> 8:44/10:55/5:37/8:11
バーンスタイン/NYP<1961/9/25> 8:38/10:11/4:59/11:27
バーンスタイン/VPO<1977/9> 8:38/10:19/5:23/11:17
C.クライバー/VPO<1974/3&4> 7:17/9:56/5:07/10:48
小澤/BSO<1981/1/24&26> 7:15/10:18/5:26/8:24
ジンマン/チューリヒ・トーンハレ
<1997/3/25&26> 6:49/8:45/7:19/10:25
追記:2008/10/07 うっかり、モントゥー/LSO<1961>の録音のことを忘れていた。昨晩、交響曲の第4番が聴きたくなり、2枚組みの2、4、5&7番が手近にあったので取り出したが、さて上記の記事でこのCDのタイミングを書かなかったような気がして、確かめてみたら書いてなかった。
モントゥー/LSO <1961> 7:08/9:11/5:01/8:51
上記のリストの中では、タイミング上は、カラヤン<1977>とライナー<1959>が比較的似ている。演奏は、三者とも非常に異なるけれども。久しぶりに聴いたところ、最後まで聴いてしまった。なんて「面白い」演奏だろうか。モントゥーの録音には何か新たな発見があるような気がする。特に今晩面白いと感じたのは、第4楽章。ヴァイオリンの対抗配置ということもあるのだが、あれこんなフレーズがこんなところにあったっけ?というような部分がところどころにあり、80数歳の指揮者の音楽の凄さに改めて感服した。
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