題名のない音楽会 第3回 指揮者に挑戦大会その2
先日、2008年5月25日 (日) 指揮者のテンポ保持の難しさという記事を書いたが、今週はその続きが放映された。日曜日朝9時は、子どもが楽しみにしている『ゲゲゲの鬼太郎』の時間なので、『題名のない音楽会』はこのところずっと見ていなかったのだが、『徹子の部屋』に佐渡裕が登場してその番組の司会を引き受けたと言っていたので、一度見てみるかとビデオ録画をしてみたところ面白い番組だった。そして今週もビデオ録画したのを鬼太郎終了後すぐに見てみた。
先週見て巧いと思ったのは、伊福部昭のオーケストラ曲(変拍子だったと思う)を指揮したオペラもやっているという30-40代の男性の指揮だった。小学生はなかなかだったが、サッカーとピアノ、作曲をやっている万能中学生のは少し身体が動きすぎて分かりにくい指揮だった。白衣の薬品研究者の女性の指揮は『禿山の一夜』でユニークなものだったが、結構音楽を知っている人ではないかと思った。ブラームスの第2番のフィナーレを熱狂的に終わらせたのは気持ちがいいだろうと思った。
今週は、ルー大柴のゲスト出演も面白かった。オーケストラが素人指揮によくついて行っているのには感心する。ルーのゆっくりおとなしい『新世界』フィナーレの冒頭を指揮にきちんと反応して演奏していた。こういうのがすごく面白い。グランプリをとった75歳後期高齢者を自称する音楽歴の長い愛好家の老人による『田園』の嵐から感謝の歌へのつなぎとフィナーレは、8分の6拍子の弾むようなリズムには欠けていたが、不思議な感動を誘うものだった。ゲストの青島氏が「オケは指揮者の辿ってきた歴史に反応して音楽を作る」というような感想を述べ(隣の席の岩村氏という若い指揮者が少々「オイオイ」という顔をしていたのが面白かった)ていたが、まさに人間性を感じさせるものだった。中学生女子のベト7の第1楽章主部も躍動感よりも第1主題冒頭の初めは処女のごとく淑やかな表現と確保(繰り返し)での脱兎のごとし(飛翔感)の対比は面白く、高校ブラバンのトロンボーン兼指揮者のブラームスの第4番フィナーレは、こういう音を目前で響かせられたら何ともいえない感激だろうと思わせてくれた。宇宙開発事業団の人のチャイコフスキーの4番の第1楽章の終結部も、場面展開の部分で思わぬパートの強調などがありユニークで面白かった(ゲストの宮本氏が難しい部分でしたがよくこなしましたねと言っていた。番組後、手持ちのムラヴィンスキー/レニングラードpo、セル/LSO、カラヤン/BPO、小澤/BPOで聴いてみたが、こういう劇的な場面転換とクライマックスへ緊張感の高め方、クライマックスでの解放はカラヤンの指揮はさすがに巧みだった。)
素人によるこういう個性的な指揮(たった一分だが)を目にし耳にすると、普通のプロフェッショナルな人たち(上記の大指揮者たちでも)の作り出す音楽が楽譜と伝統と権威の縛りに囚われ過ぎているのではないかという危惧が頭をかすめる。個性的でありさえすればいいというのではなく、作曲者の意思の尊重、楽譜の尊重など基本的に誠実な姿勢がプロの解釈者、演奏家として必須条件だとは思いつつも、標準的な音楽解釈が録音などにより流布し、指揮者もオケもそれをなぞるかのような演奏が現代では比較的多いように思う。また、原典尊重主義がピリオドアプローチの基本理念だろうが、その時代時代の標準的な演奏解釈での演奏は、よほどの機会に恵まれないと感動には結びつかない。とはいえ、これもまた音楽=感動というのは、音楽史的には比較的短い期間の流行なのかも知れないのだが。
逆にプロオケの表現力、追随力がこれほどあるというのは、新たな発見で大変面白かった。
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