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2008年7月15日 (火)

名曲探偵#9『月光』の回をようやく見終えた

7/13(日)夜11時からの 事件ファイル #9 ベートーベン「ピアノ・ソナタ“月光”」 ~狙われた花嫁 ~ 依頼人:曽名田 ひかる(西尾まり) 職業:OL再放送のビデオ録画は、今度は時間のずれもなく収録でき、前回の続き、仲道郁代氏が第3楽章が(表情記号)のピアノがベースで、小出しに爆発(スフオルツァンド)によって劇的な緊張を生み出していると、語るところあたりから見始めた。

激しさ、怒りを思わせるような音楽。強弱の絶妙なコントラスト。

その前、桐朋学園大学の音楽史の西原教授は、この曲の前衛性ということを言っており、1800年代のヴィーンはもっとも前衛や革新的なものを好んだ特異な時代で、ベートーヴェンの革新性もそこではぐくまれたというようなことを語っていた。いわゆる市民革命時代で、主役となったブルジョアたちは従来の音楽では飽き足らなくなったという時代風潮があったという。

さて、仲道氏による第3楽章のレッスンだが、彼女はこの楽章に「焦燥感、苛立ち、決然としていない秘められた熱情」を感じるという。一筋縄ではいかない曲だとのことだ。ピアノとスフォルツァンドの対比のないフォルテだけの冒頭部分を演奏してみてもくれたが、確かにピアノとスフルツァンドの対比の効果がよく分かる。

先日アラウのNo.13-No.15を聴いたが、これらのピアノソナタは、1801年の作品であり、1802年の「ハイリゲンシュタットの遺書」の前年であり、ベートーヴェンが自殺をさえ考え、さらに最愛の女性ジュリエッタを失った年でもあったことも、この「月光」ソナタの内容に影響を与えているとも、探偵は語る。しかし、その「遺書」で、作曲家は、「自分のもてるすべてを出し切ってしまうまではこの世を去ることはできない」と決心をする。過去を振りきり、新たな音楽を作る決意が表れた時期であり、「月光」ソナタの革新性はその前駆とも言えるのかも知れないとのことだ。

その意味では、同じ作品番号を持つ第13番も幻想ソナタという意味では革新的と言えるが、第15番の「田園」の穏やかな情緒を、このストーリーの中でどう位置づけるかは少々難しい問題になるように感じた。

ところで、花嫁の元彼による「月光」ソナタのはなむけ演奏は、「大切な女性を失った悲しみから立ち直り、一人で生きていく決意を表し、新しいステージに登る花嫁への精一杯のはなむけ」の演奏だろうという推理が示され、これを聴いて花嫁も吹っ切れたようだった。

仲道郁代氏の第3楽章全曲の演奏は、非常に気合の入った聴き応えのあるものだった。さすがに32曲全曲の録音を果たしただけのことはある。演奏にみなぎる緊張感は、スタジオ収録のテレビ用とは思えないほどの凄みがあった。

ドラマのエピローグとしては、披露宴に飛び入りしたカノン嬢は、花嫁のブーケを受け取り、事務所でアマデ探偵に盛んにアピールしていたが、二人の間柄はどうなるのだろうか、ということなのだろうか。ここでは、モーツァルトの第15番のハ長調の優しいソナタの第1楽章が流されたいたのだが。

Rserkin_beethoven8_14_23_24 音盤は、今晩は、ルドルフ・ゼルキンの録音のものを久しぶりに取り出した。

1962年12月のCBSへの録音。ベートーヴェンを得意にして、先日の青柳いづみこ氏の著書では、ホロヴィッツとゼルキンのバトルで紹介されているように、1920年代からドイツ音楽を中心に活動してきたにも関らず、とうとうベートーヴェンのソナタ全集の録音は残さなかった大変慎重過ぎる(一方では、音楽院での教授やマールボロ音楽祭で多忙だったという話もある)ピアニスト。

特に第1楽章などこの上なく荘重な趣を湛えているし、音色も重厚だ。アタッカで続く第2楽章は、リズム的に少々重さが感じられないではないが、第1楽章の荘重さからガラッと気分を変えている。そして、今回の番組の中心だった第3楽章、粒立ちのよい音でピアノとスフルツァンドの対比が鮮やか。そして、非常に生真面目な音楽を感じる。その演奏を前にして襟を正すような音楽を聴けるということはそうあるものではないように思うが、ゼルキンの場合にはそれがある。ベートーヴェンらしいベートヴェンというのは、このような演奏を言うのかも知れない。

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