ホルスト・シュタインの逝去を悼む
今日の昼過ぎは、まるでベートーヴェンの『田園』の『嵐』のような雷雨だった。次男はちょうど昼過ぎに友達と近くの森に蝉取りに出かけようとしてこの雷雨に見舞われ、落雷に友人と体を寄せ合い、ほうほうのていで友人宅に逃げ帰ったという。5月に顕在化した我が家の雨漏りも盛大で、とうとうこの8月に同じマンション内の別の部屋に引っ越すことになった。その交渉やら暑さやら仕事のことやらなにやらでこのところ精神的にも疲労困憊で、家ではいやにイライラしてしまっている。
ところで、帰宅後、妻が夕刊に指揮者ホルスト・シュタイン氏が80歳で亡くなったという追悼記事が掲載されていると教えてくれた。「世界的ワーグナー指揮者」との見出しが付けられていた。
ホルスト・シュタインは、バイロイトの常連で多くのヴァーグナーのオペラ、楽劇を指揮したことで知られているが、その実力の割には地味な存在だったのか、あまり録音は多くなかったように思う。私も手持ちでは、グルダがソロを務めたベートーヴェンのピアノ協奏曲の第4番と第5番のカップリングのCDしかない。
ただ、ホルスト・シュタインは、1990年代に当時常任指揮者をつとめていたバンベルク交響楽団を率いて来日公演を行ったときに、以前このブログでも書いたように思うが、そのオーケストラのホルン奏者に長野県須坂市出身の水野さんという方がいて、多分その縁で須坂市文化会館のメセナホールで、一夜のコンサートを開いてくれたことがあり、幼子たちをその祖母(妻の母)に預かってもらい妻と聴きに行った(水野さんは妻の高校の先輩にあたるようだ。もちろん面識があるわけではないが。)
シュタイン氏も、水野の故郷だということもあったのか、巨体を揺さぶり重量級のプログラムを振ってくれた。第1曲が上で挙げた『田園』。メインがR.シュトラウスの『英雄の生涯』、そして、極めつけがアンコールの『マイスタージンガー』前奏曲。これを朗々と奏でてくれて、スタンディングオベイションが巻き起こったほどだった。もう10年以上も前の話で、細部までは記憶していないが、同じホールで聴いたロシアの(レニングラードの第2オーケストラ、ソコロフの独奏)オーケストラに比べると、華やかさはないが滋養分がたっぷり詰まった演奏だったような印象が残っている。
N響にもたびたび登場したので、よくテレビでは見かけ、我が実家でもオデコのシュタインさんとして人気があった。
質実剛健な演奏からは想像もつかない繊細な一面があり、奥様がいつも同行してサポートをされていたということも、確か来日公演のパンフレットに書かれていて意外に思ったが、私のそれほど多くない外来のオーケストラコンサートの中でもドイツ音楽を堪能できたコンサートとして特に印象に残っているものだ。
« 剣の舞/管弦楽名曲集 フルネ、アッツモン、石丸、小林研/東京都響 | トップページ | ベニー・グッドマンとブダペストQ、シゲティ、バルトーク、トスカニーニ »
「ニュース」カテゴリの記事
- ピリオド演奏の先達の一人、ホグウッドが亡くなった(2014.09.28)
- 二つのニュース(2014.08.05)
- 山中大地選手お疲れ様(2014.02.13)
- ソチオリンピック 代表選出 おめでとう 山中大地選手(2013.12.29)
- 手持ち可能な楽器(職業用)のEU持ち込み等の規則が改正されたらしい(2013.11.14)
「音楽」カテゴリの記事
- 音楽鑑賞で有用なサイトをリストとして掲載(2024.01.07)
- 高校時代に山田一雄さんの指揮のコンサートを聴いたことを思い出した(2023.12.07)
- Johann Sebastian Bach, Helmuth Rilling : Complete Bach Set 2010 - Special Edition (172 CDs & CDR)(2023.12.05)
- モーツァルト「伝説の録音」3巻セット [36CD+3BOOK]<通常盤> 飛鳥新社 タワーレコードONLINE(2022.04.24)
- 小林秀雄「モオツァルト」(2020.08.02)
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- ブログデザインを変更(2024.01.09)
- 年末にインフルエンザA型に罹患し、タミフルの副作用で大腸炎となったが快復(2024.01.12)
- 2021年初めての投稿(2021.04.16)
- 謹賀新年 2020(令和2)年 庚子 かのえね(2020.01.16)
- クルマでの帰省(2014.08.16)
「ディスク音楽02 協奏曲」カテゴリの記事
- 第5回音楽大学オーケストラフェスティバル 第2日 ミューザ川崎(2014.11.26)
- 小学館 モーツァルト全集のCDを夏の帰省時に持ち帰った(2014.09.02)
- 超人的な能力をもった音楽家マゼールが逝去(2014.07.19)
- 初ミューザ川崎シンフォニーホール(2014.07.13)
- マリナーとスターソリストたちによるブランデンブルク協奏曲(2013.10.14)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: ホルスト・シュタインの逝去を悼む:
» ~ホルスト・シュタインを悼んで~ ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」 グルダ(Pf)VPO [クラシック音楽のひとりごと]
ホルスト・シュタインの訃報が届きました。7月27日、スイスで亡くなったそうです。享年80。NHK交響楽団の名誉指揮者であり、バイロイト音楽祭の常連・ワーグナー指揮者でありました。
シュタインの遺したレコードにはイイものが多いんですが、今日はその中でも傑作を。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」。
フリードリヒ・グルダのピアノ独奏、ホルスト・シュタイン指揮ウィーン・フィルの演奏。
1970年6月、ウィーンのソフィエンザールでの録音。DECCA原盤。
今日聴... [続きを読む]
« 剣の舞/管弦楽名曲集 フルネ、アッツモン、石丸、小林研/東京都響 | トップページ | ベニー・グッドマンとブダペストQ、シゲティ、バルトーク、トスカニーニ »
ホルスト・シュタイン、イイ指揮者だったですね。ボクは大好きでした。
NHK-FMの年末恒例バイロイト音楽祭では、随分エアチェックさせてもらいました。素晴らしいワーグナー指揮者だったですね。
ディスクもいいものが多かったです。ブラームスやシューベルトの交響曲全集、そして大好きだったのはグルダとのベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集。
今も最高の演奏だと思います。
投稿: mozart1889 | 2008年7月30日 (水) 08:37
mozart1889さん、コメントとトラックバックありがとうございました。
mozart1889さんのブログでは、なかなか入手困難なシュタイン指揮の音盤が多く取り上げられており参考にさせていただいています。
グルダとのベートーヴェンのピアノ協奏曲は、改めて聴きなおしましたが、シュタイン指揮のヴィーンフィルが実に雄弁で、まさにグルダとの協奏・アンサンブルになっているのが感じられました。『皇帝』の方はLP時代からの愛聴盤でしたが、当時はバイロイトのヴァーグナー指揮者のシュタインを起用してのベートーヴェンとは面白い組み合わせだなと思った程度でしたが、このプロデューサーの慧眼を誉めたいところですね。今回は、第4番のオーケストラの雄弁さに今まで気がつかなかったのはなぜだろうと思うほどオケに耳が集中しました。
投稿: 望 岳人 | 2008年7月31日 (木) 22:45