8月の8番はあえて『未完成』
その月と同じ番号の曲を聴いて記事にしてみるという他愛のないことを2008年になってから続けているが、8月は引越しや帰省などがあり押し詰まった段階でさて何にしようかと迷った。
交響曲では、ベートーヴェン、シューベルト、ブルックナー、ドヴォルザーク、マーラー、ショスタコーヴィチなどに傑作の8番があるし、弦楽四重奏曲でもベートーヴェン、ショスタコーヴィチ、ピアノ・ソナタではモーツァルトの8番は例のホ短調、ベートーヴェンは『悲愴』だ。
さて、最近の番号付けでは、シューベルトの『未完成』D.759が第7番、大ハ長調D.944第8番とされるようだが、以前から慣れ親しんだ第8番が『未完成交響曲』ということで、「8月に第8番と名づけられた曲を聴く」という個人的な企画にシューベルトの第8番を取り上げてみようと思う。
LP時代は片面30分程度の収録時間だったこともあり、A面『運命』、B面『未完成』というカップリングが非常に多く制作されたようだ。その影響もあるのか、クラシック音楽の代表的な曲とされ、比較的入門向けで、一般的な音楽解説では「非常に美しい音楽」と絶賛されてきたこの「未完成の」交響曲だが、このブログで何度も繰り返しているように、私にとっては結構苦手な曲の一つだ。
それらについては、以下に書いてある。
◆カルロス・クライバー指揮ヴィーンフィルによるシューベルトの交響曲第3番と第8(7)番「未完成」
◆ハイティンク/ACO のシューベルト交響曲(8番、9番)
◆シューベルト アルペジオーネ・ソナタ ロストロポーヴィチ、ブリテンの共演で
◆懐かしい音源のCD バーンスタイン 管理人 2003/08/28 (木) 10:04
バーンスタイン指揮ニューヨークフィルハーモニックによる「運命」「未完成」のCDが、古本屋に売っていました。それも250円という値段で。私の入門LPのうちの一枚でそれこそ何度も聞いたものです。実家に眠っているため今ではほとんど聞く機会がないので、懐かしくなり思わず購入しました。 1985年くらいの発売のCDで当時の値段は3000円。名曲全集とかの一枚でジャケットがバラの花というチープなデザイン。LPの方は、「運命」の自筆譜をジャケット写真にしており、解説もハイドン研究家の大宮真琴氏の丁寧なものでした。(そういえば、お盆休みにLPを聞きたいと思って、ナガオカの 3000円くらいの安いMMカードリッジを買って帰省したのですが、もう25年にもなる古いアンプのPHONOアンプ部の右チャンネルがとうとう壊れたらしく雑音ガリガリで聞けなくなっていました。)
昨夜ドキドキしながら聞いてみたのですが、残念なことに期待はずれなものでした。「運命」は全体的にしまりがない楽天的な演奏で、ところどころミスも散見されます(ティンパニの主要動機の叩き損ないとか金管の音のひっくり返りなど)し、オケの音色が騒々しい。「未完成」は懐かしいというより、このLPを聞いていたためこの曲の魅力に気が付かなかったかも知れないという少々苦い思い出のものですが、ヘッドフォンで聞いたためフォルテとピアノの音量差があまり気にならず普通に聞けました。エグモント序曲はLPには含まれていなかったものですが、寝転びながら聞いていたため、「未完成」の途中で寝入ってしまったらしく聞いていないままです。
◆2003年10月28日 (火) 10/26(日)に買ったCDを聴く
シューベルティアーデにはこれまでのシューベルト敬遠を払拭するような演奏が記録されていた。エドウィン・フィッシャーの即興曲集を聴いたところ、有名なフィッシャーの音抜けはところどころあったが、これまでケンプでもツィメルマンでも聴きとおすことが多少苦痛であったこの曲集を大変面白く楽しんで聞けた。録音は1930年代というのに、演奏を鑑賞するには問題なく、特にスケールのきらめくような奏法やまさにシューベルト的な楽想に関心させられた。フィッシャーの解釈や奏法はまったく古めかしいという感じはなく、音楽に勢いと逞しさがある。音楽が有機的に生きている。そう、メンゲルベルクの未完成もそうだったが、なよなよした弱弱しいシューベルトのイメージはここにはなく、男性的で意志的な音楽家像がそこにはある。シュナーベルの21番は、電車内で聴いたときより感心はしなかったが、これも雄雄しい音楽になっている。
音盤の棚卸をしてみよう。
CD | LP | ||||||||
Mengel berg | Reiner | Bern stein | Boehm | Haitink | C. Kleiber | Blom stedt | Walter | Bern stein | |
ACO | CSO | NYP | BPO | ACO | VPO | SKD | NYP | NYP | |
1939 | 1960 | 1963 | 1966 | 1975 | 1978 | 1978 | 1958 | 1963 | |
Allegro Moderato | 14:34 | 11:29 | 13:54 | 11:27 | 14:16 | 13:49 | 11:27 | 13:54 | |
Andante con moto | 11:01 | 12:32 | 12:00 | 11:27 | 11:19 | 10:32 | 12:39 | 12:00 | |
全曲計 | 25:35 | 24:01 | 25:54 | 22:54 | 25:35 | 24:21 | 24:06 | 25:54 |
私のこの曲の刷り込みは、LP時代のバーンスタイン指揮ニューヨークフィルハーモニックの演奏のもので、FMのエアチェックなどでは他の録音なども聴いたが、長らくこの録音で親しんできた。当初は、クラシック音楽入門として、ワルター/コロンビア響の『英雄』、カラヤン/BPO(60年代)の『悲愴』、ベーム/BPOの『ト短調、ジュピター』などと並んで何度も繰り返し聞いたものだが、中学生の頃は『運命』『未完成』という曲を聴くのに精一杯で、第一楽章は不気味な冒頭と第二主題のきれいなメロディーが滑らかにつながらないとか、第二楽章は結構退屈だなどと思っていた程度だったが、いつの頃か、この曲に何度も現われる突発的に威嚇するような金管の強奏が、心理的な圧迫感をもたらすようになり、ベートーヴェンの第五とは違い、精神的な解放や高揚感を感じられない聴くのがつらくなるような音楽だと感じるようになった。LP時代に定評のあったワルター(ヴァルター)指揮の同じニューヨークフィルハーモニック盤も入手して聴いたが、抒情派のワルターと言ってもこの曲のそのような威嚇する部分は変わらず、むしろその前後がたおやかで美しければ美しいほどその威嚇は強烈に響いた。東京文化会館の実演で聴いた小澤/BSOの来日公演での『未完成』は、ボストン響の軽くて滑らかな絹のような弦楽器の音には魅了されたが、とても行儀のよい演奏だったように記憶している。
以前、この曲が未完成のままに放置されたことから、第一楽章も第二楽章もまだ手を入れるべき部分があり、それで主題間のつなぎなどが特に第一楽章には書き込まれていないのではないかというようなことも想像したことがあるが、今回何種類かの録音をまとめて聴いてみてそのような感想はどこかに行ってしまった。
また、バーンスタインとニューヨークフィルハーモニックの録音についても、以前にCDで久しぶりに聴いたときとは別の感想も持った。楽天的で雑な演奏ではなく、じっくり聴くといろいろな発見がある。
今はこの『未完成』という交響曲もLP時代とは違い、そうは特別視されて聴かれることや録音されることはないのかも知れないが、「未完成」というだけではなく、それまでのシューベルトの交響曲、否ベートーヴェンの交響曲に比べても、非常にユニークな作品であることがさらに明らかになってきているように思えた。
最近のピリオド奏法の録音やその系列(インマーゼール指揮、シュペリング指揮、ハーゼルベック指揮、やアーノンクール/ACOなど)は、音盤を持っていないので偉そうなことは言えないが。
なお、記事にしたことのない録音としては、ライナーとベームの録音があるが、どちらも緊張感がある演奏だった。
それでもロマン派の残党として、現代の演奏の基準からは一番変わっていそうなメンゲルベルク指揮コンセルトヘボウ管のSP起こしの非常に古い録音が、テンポ感といい、勇壮な表情付けといい、途中の金管の威嚇的な音楽にも負けない強靭さを持っているようで、さらに引き締まった交響曲の第1、2楽章というイメージが強い演奏になっていて、面白かった。
モダン楽器で楽しめるのは、ハイティンクとブロムシュテットの指揮のものだろうか。どちらもそれほど緊迫感を強調せずに、バランスのよい音楽を聴かせてくれる。
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