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2008年8月 4日 (月)

『崖の上のポニョ』は父親に複雑な印象を与える

昨日、日曜日に近所の大型ショッピング施設 ららぽーと横浜の TOHOシネマに宮崎駿監督作品のアニメーション『崖の上のポニョ』を見に行ってきた。公開が確か夏休みが始まった7月19日(土)だったので、既に2週間ほど経過したが、9:30からの上映という結構早い回で、このシネコンでは2スクリーン併行で上映しているにも関らず、200席ほどの8割方が埋まっているという盛況ぶりだった。若い青年の観客もいたが、小学生低学年以下の子ども連の家族が多かった。

我が家は、家族そろって宮崎アニメのファンなので、今回の映画を鑑賞するのも既定の路線だったが、なかなか時間の折り合いがつかず、ようやくこの夏最高の猛暑が予想される日だったが、少し早起きして見に行こうということで話がまとまった。

ららぽーとに開店時刻10:00前に行ったのは妻も初めてで、駐車場をうっかり映画館に一番近い階の5階を選んでしまったのだが、この時間の入り口は一階の正面玄関しかなく、やむを得ず一階にエレベーターで降り、従業員通路のような小道を歩いて正面に回り、そこからエレベーターで映画館に入った。既に前売り券は買ってあったが、予約を申し込むと4人並びの席は前寄り中央と、後ろ寄りの右隅しかないということで、前寄りの中央を選択。これまで我が家は、ワーナーマイカルで主に見ていて、TOHOは初めてだったが、未だ新しいこともあるのだろうが、ワーナーに比べて落ち着いてシックな雰囲気だった。

さて、肝心の『ポニョ』だが、事前にあえてストーリー情報にできるだけ触れずに見ようということで、プログラムは子どものリクエストで買いはしたが上映前には開かずに、予告編15分ほどを我慢して、始まりを待った。

ネタばれになるので、詳しくは書かないが、最近の宮崎アニメの中では秀作だと思った。単純明快なストーリーで、主人公の男の子と同じ年代の小学校入学前の幼児でも楽しめるだろうし、若者も子どもを持つ親も、恐らく老人も楽しめるものだと思う。様々なモチーフが散りばめられているのも少し知的興味をくすぐる。パンフレットには詳しく書かれているのだが、登場人物の人名が有名な小説やオペラからの借用だったり、BGMが完全に有名なクラシック音楽を引用もしくは借用であったり、主題歌の冒頭も有名なシャンソン(歌曲)の冒頭を引用したりなどしていると感じる部分が多々あった。妻は、その元になった楽劇の結末からみて、この物語が映画での結末の後は、ハッピーエンドにはならないかも知れないという懸念を語っていた。

このアニメーションが、アンデルセンの『人魚姫』の宮崎版であることはつとに知られていたが、それに加えて重要な登場人物として、フランスの著名なSFの父とも言われる作家の、よほど通ではなければ見過ごすような脇役がこの物語の重要登場人物になっているのもパンフレットで後から知ったが面白い。そして、この人物こそが、父親というもののレーゾン・デートルを喪失したような、子どもを愛し真剣なのに哀れで滑稽で不気味なキャラクターとして描かれている。ここが複雑な印象をもった理由だ。この映画は、「母への讃歌」であり、母なる海、海なる母、強い気丈な母、嬰児を育てる母、そしてかつて母であった老人ホームの老婆たちが生き生きと描かれているのとは対象的で、娘達に背かれる哀れな父親に(我が家には娘はいないが)妙に感情移入をしてしまった。気丈な母の夫は、働き者のしっかり者ではあるが、妻と子を家に残して、ほとんど家から離れてせざるを得ない仕事についており、ここでも父の影が薄い。

宮崎作品の多くは、けなげで気丈な少女が主人公を務めてきて、一種のフェミニズムの作品群とも言えるのだが、この映画の主人公は、表面的には少年とポニョであっても、母達の物語かも知れないと思った。

『千と千尋の神隠し』の後、『ハウルの動く城』、息子が監督した『ゲド戦記』と、ストーリーテリング的に少し混乱気味だったが、今回の作品はストーリーは枝葉がなくて簡明率直だし、人物造形も、その父親像への虐げ的な扱いを除いては納得できるものだったり、さらに最近では当然のごとく多用されているコンピュータ・グラフィックをまったく使わず手書きのみで作ったという荒業を尽くして、それが作品に手造りの暖かみを与えるという計算が巧く効いているようで、見終えた後もすがすがしい。(恐らく、同じ海中を舞台にした作品では、ディズニー&ピクサーの"ファインディング・ニモ"のCGの出来がよかったので、それも意識していたのかも知れないと、後から思いついた。)

声優陣ははまり役ばかりでまったく難点がなかった。1時間半、本当に途中で眠くなることもなく、複雑な印象を残しはしたが、(子どもと前回見に行ったドラえもんでは寝てしまったので、子どもに突っ込まれてしまった)、家族ともども見入ってしまった作品だった。

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