『美味しんぼ第102巻 究極と至高の行方』(小学館BC1890 \524)
『ビッグコミックスピリッツ』が創刊されたのが、私が大学生の頃で、当初隔週発売だったこのコミック雑誌をやはり当時世の中に普及し始めた下宿の近所のコンビニエンスストアで買って読むのも一つの楽しみだった。どんな作品が連載されていたかはおぼろげな記憶になってしまったが、結構斬新な作品が多かったように思う。その後週刊化され、『めぞん一刻』のようなヒット作も生まれたが、中ではこの『美味しんぼ』がこれまで何と102巻を数える大長編として連載されてきたとコミック雑誌ということになるのだろうか?
最近は、まったく漫画雑誌も買わなくなったが、一時期はビッグコミック、そのオリジナル、スピリッツ、モーニングなど、子どもが生まれてからもしばらくは毎週買ってきて読んだものだった。
さて、この単行本だが、8月にブックオフで購入していたのだが、先日昼食を買いに出たコンビニの棚にビニールでくるまれて数冊並べられていたので、また新刊が出たのかと勘違いして買ったもので、中を開いてみたところ、先月廉価で買ったものだったので、少なからず衝撃を受けた。
この長い連載の中で、日本の食文化、グルメ文化について相当啓蒙的な役割を果たした著作であることは言を俟たないだろうが、ストーリー的には海原、山岡父子の相克の解決がずっと通奏低音のようになり続いていたもので、これが何とかこの第102巻で成し遂げられたことになった。究極と至高の最後の対決ということで、どれほど凄い料理、食材が出てくるのかと期待させたが、肩透かしを食らわすようなものだったし、父子の相克も、山岡の言ってみれば強度のマザー・コンプレックスと、海原の獅子は子を千尋の谷に落とす厳格で頑な姿勢との対立が続く、それほど共感の得られる図式ともいえず、どうもカタルシスの得られるような大団円とはならなかったようだ。
今後も、「日本全県味めぐり」という企画で、47都道府県を巡る企画が続くようだが、これまで青森、宮城、山梨、富山、大阪、高知、大分、長崎と取り上げられてきた内容については、同じ地方自治体内でも「おらが料理」もあるし、調理法も多岐にわたるので、結構無理やりのまとめになっていることが感じられる。最後の対決では、えてして総花的になり、その地方の食事の焦点がぼやけているようにも思う。たとえば、南北に長く、盆地ごとの独立性の高い信州などはどのように扱われるのか。相当力を入れて取材をしていることは確かだろうが、相当の取りこぼしもあるだろうし、またあまりにも欲張れば作品としてもまとまらなくなる。以前、鯉料理がこの『美味しんぼ』で取り上げられたことがあったが、その料理法も食材の生かし方も、鯉食が盛んな私の故郷のものとは違い違和感が残ったことを思い出すので、余計危惧が多い。
とはいえ、この料理、食材漫画が面白いことは確かで、このように文句をつけながら、単行本が発売されればつい買ってしまうだろう。
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