さそうあきら『神童』(双葉文庫 全3巻)
音楽漫画というといまや『のだめカンタービレ』の独壇場になってしまっているが、昨年実写版の映画(主演 成海璃子)が公開された『神童』(1997年から1998年雑誌連載)は、漫画としては比較的短編で、ピアノに特化してはいるが、音楽の扱い方については一歩先を行っているように思う。
以前、漫画喫茶が今ほど格差社会の象徴ではなかった頃、勤務先の隣のビルにあった漫画喫茶で、『ピアノの森』などと一緒に読んだことはあったのだが、ブックオフで文庫本が全巻揃って並んでいたので、購入して一気読みした。
結末は、非常にショッキングかつ感動的で、これは読んだことがなかったようだ。
巻末には、各話に関係した曲をBGMとして紹介しており、ドビュシシーの『映像』第2集第3曲『金色の魚』、ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』(フランソワ)、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466(ゼルキン、アバド/LSO)を聴いた。モシュコフスキーやメシアン、ショスタコーヴィチなど結構マニアックな曲も取り上げられていた。プロコフィエフの第7ソナタ「戦争」(ポリーニ)も久しぶりに聴いたら、意外におもしろかった。
一気に読ませる力がある。耳から入る音以外の「振動」としての音について考えさせられる物語だった。
追記:書こうと思って忘れていたが、第一巻 主人公、主要登場人物のうちの何人かの苗字が、JR横浜線の駅名に一致することに読みながら気が付いた。主人公は「成瀬」うた。副主人公は、「菊名」和音。菊名のライヴァル八王子。憧れの女性 相原。成瀬うたの野球チームのサードの強打者 長津田。(横浜線ではないが、小田急線の駅名 愛甲石田駅の愛甲。第二巻以降では、そのような法則性はないようだが。
2008/10/19追記 : 2008年7月 2日 (水) 『ボクたちクラシックつながり ピアニストが読む音楽マンガ』 青柳いづみこ (文春新書622)を読み直した。『のだめ』のほかに、『ピアノの森』とこの『神童』も題材にしていたエッセイだ。読み直してみて、特に最後の方の、職業としてのピアニスト、音楽家の厳しさに触れた部分などを読むと、気軽に音楽を聴いて、好き勝手に感想をこのようのブログなどに書き付けていることが申し訳なくなるような感じだった。
過去の名演奏のディジタルデータ化された記録が膨大になり過ぎてしまったこともあり、同時代を生き、演奏することによって生活している多くの演奏家のことをつい忘れがちになることに思いを至らせられた。温故知新だけではいけないのではないか?温故だけに偏って、知新を心がけていないのではないか?
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