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2008年11月18日 (火)

事件ファイル #18 喪われた王女を求めて ~ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」

事件ファイル #18 喪(うしな)われた王女を求めて ~ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」 依頼人 ディープ内藤   (高橋ひとみ) 職業 女流ミステリー作家

日曜日の夜放送されたものをビデオ録画し、月曜の夕食時に鑑賞。今回は野本由紀夫氏は登場しなかったが、番組最後のエンディングロールには、監修者として出ていたようだ。

出演:筧 利夫,  黒川芽以,  高橋ひとみ,  【演奏】野原みどり,  【VTR出演】作曲家…藤井 一興,  フランス文学者…鹿島 茂,  版画家…山本容子,  【語り】阪脩

ドラマとしてのストーリーは少しプアだった。寒いギャグが多かったり、変な効果音が使われたりで。

しかし、この6分ほどの小曲の謎には結構迫れていたように思う。ベラスケスの描いた王女マルガリータという説や、ルイ13世に嫁いだスペイン王女という説、ラヴェルがこの曲を捧げたアメリカ大富豪の娘にしてラヴェルの才能の高く評価したポリニャック大公妃ではないかという説。子ども好き、子どもっぽかったラヴェルがおとぎ話、メルヘンのお姫様をイメージしていたかも知れないとか、逝去した最愛の母の姿だとか。

音楽的には、ラヴェル自身が、形式的に見るものがないと語った24歳の若書きの作品でだが、変奏技法の一種のメタモルフォーゼ(変容)によって主題が、オクターブ上で奏でられ、次に16分音符の刻みが入った形で奏でられることで、「王女の主題」が様々に変容していくことから生まれる印象の変化。そして係留音。中間部主題で見られる空虚五度。中間部第2主題でのドリア旋法調の中世風な響きなど、ほんの6分強の小曲で、いつもムード音楽的に聞き流していた曲が面白く聴けるようになった。

ラヴェルが1922年に吹き込んだ録音が番組で使われたが、テンポは結構速く四分音符=70程度の速度だったようだ。(当初は54程度の指定だったらしい。)

なお、ラヴェル自身がオーケストラ曲に編曲しており、現在はそちらの方を聴く機会が多い。クリュイタンス/PCOの有名な録音や、小澤/BSOの録音。少し変わったところでは、セル/CLOの録音など、テンポ四分音符=54程度のゆったりとした音楽だった。その一方で、サムソン・フランソワは5分台の演奏時間なので60以上だと思うが、伸び縮みのある表情のある演奏で、これも逆説的だが、オーケストラよりも色彩を感じさせるものだった。

ラヴェルは、交通事故後、記憶力が減退し、晩年にはこの曲を聴いて「美しい曲だね。誰の作曲したものだろう」とつぶやいたという。若書きで、音楽の専門家には評価されず、自分では気に入らなかったという曲だが、音楽家以外の芸術家、一般大衆には好まれた曲で、今のその人気は続いている。

番組での模範演奏は、野原みどり氏。テンポは速めで、スクエアな感じの演奏だった。即物主義、非情緒的な演奏スタイルを意識的に取っているのだろうか。コーダの和音もフォルテでしっかり弾いていた。(フランソワはメゾフォルテ程度で余韻がある演奏だった。)

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コメント

12月の放送予定が分かりました。チャイコフスキー「くるみ割り人形」、モーツァルト「クラリネット五重奏曲」、ベートベン「交響曲第9番」です。
が、BS-hiは「第九」までが年内の放送ですが、BS-2は「クラリネット五重奏曲」までのようです。
本年の締めが「第九」になるのでは?という予感はありましたが、BS-2では新年の最初が「第九」になってしまうのは、滑稽ですね...(NHKとしたら、「だからBSデジタルを見られるようにして、BS-hiで見なさい!」と言っているのでしょう。)

MEICHIKUさん、情報ありがとうございます。

NHKは、BS放送を始めたときもよく覚えていますが、当時はレーザーディスクくらいしかメディアがなかったので、特にクラシック音楽ファンにとっては垂涎ものだった多くの映像を「これみよがし」に放映し、「早くBSに切り替えろ」というプレッシャーを掛け続けられた苦い記憶があり、今回もディジタルへの切り替えを急がせるため、BSの方はおざなりにして、ディジタルの方では大量に「面白そうな」番組を放映していますね。

何しろ「みな様のNHK」ではなく、「みなさんのNHK」ですから、視点が違うようです。

「くるみ割り」は欧米ではクリスマスシーズンの演目で、「第九」は日本では12月の風物詩ですので、その意味ではディジタルが優先のようですね。実際の公演ではそのような季節感は無視できないと思いますが、音盤ではそういうことも考えずに楽しめますので、正月に第九というのも悪くない^^;かも知れませんね。

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