小菅優 リスト『超絶技巧練習曲』全曲
第1曲:〈前奏曲〉 ハ長調 0:51
第2曲:イ短調 2:07
第3曲:〈風景〉 ヘ長調 4:35
第4曲:〈マゼッパ〉 ニ短調 7:13
第5曲:〈鬼火〉 変ロ長調 3:48
第6曲:〈幻影〉 ト短調 5:17
第7曲:〈英雄〉 変ホ長調 4:48
第8曲:〈狩り〉 ハ短調 5:02
第9曲:〈回想〉 変イ長調 9:57
第10曲:へ短調 4:31
第11曲:〈夕べの調べ〉 変ニ長調 9:43
第12曲:〈雪あらし〉 変ロ短調 5:31
小菅優(ピアノ)
<2002年8月3日-6日 ブラウンシュヴァイク シュタットハレでの収録>
アリス=沙良・オットのDG専属契約による第一弾のCDがこの『超絶技巧練習曲全曲』(20歳か19歳の時の録音)ということを聞き、小菅優のリストの『超絶技巧』を聞きなおしてみた。小菅19歳の時の録音。
この小菅のCDの入手前には、エフゲニー・キーシンによる選集 No.5,8,10,11,12を聴いていたが、よくピアノが鳴り響いた超絶技巧の展覧会という印象しか持てないでいた。つまり、従来からのよくあるリスト像のイメージは変わらなかった(2006年の記事)。
さらに、小菅の録音を聴くようになって、改めてキーシンの録音のヴィルトゥオーゾ振りが強く感じられ、曲そのものを味わうようりもキーシンの技巧を味わうものになっているのではないかと思えてきた。第8番の『狩り』を聴き比べると、キーシンの無造作にこの難曲を弾きこなす豪腕の冴えが聴けるのだが、曲そのものを味わうには小菅の方に分があるように思う。(キーシンのタイミング: No.5 3:14/ No.8 4:42/ No.10 4:51/ No.11 9:03 / No.12 4:50) 19歳の小菅の方が、曲を解釈し、演奏の上で設計をしているように感じられる。それに比べて、キーシン(1995年の録音なので、24歳の時だが)は、少し楽天的かも知れない。
なお、第12番は、キーシン盤では 原題の "Chasse-neige" を「雪かき」と訳している。これについて調べてみたところ、仏日翻訳では、『除雪(装置)』と表示され、neigeは雪で、Chasse だけだと狩猟と翻訳された。要するに 英語の snowploughのことで、道具としての『雪かき』のことらしい。むしろこれが、なぜ『雪あらし』と訳されるのか。想像では、粉雪を「雪かき」で片付けるように激しく吹く風(嵐)ということから『雪あらし』なのだろう。相当の意訳ではなかろうか?
さて、フジコ・ヘミング(日瑞ハーフ)のリストは非常に独特なものだが、日独ハーフのオットといい、小菅(少女の頃からヨーロッパで勉強)といい、これら日系女性ピアニストのリストへの傾倒には一種独特のものがあるように感じる(元々小菅は最初はショパンのエチュードで注目されたのだが)。
オットの演奏も、部分的に上記のリンクで聴くことができるが、指捌きは達者なものだし、ピアニシモからフォルティシモまでの幅広さも、曲を自分のものとして表現する能力にももちろん長けているようだ。つまみ聴きだけだが、キーシンや小菅の演奏に比べると、よりレガート重視で流れのよい演奏をするという印象を受ける。曲を通して聴いてみないと分からないが。演奏風景(ラ・カンパネラ)を見ると、アンコールだと思うが、非常に豪快な演奏を披露している。ディスクのものとは印象が異なる。なお、オットのホームページを見ると、既に2005年頃から日本での公演を行っているようだし、ヴァイオリニストのアラベラ=美歩・シュタインンバッハーにしてもやはり日本にも何度も来ているようで、日系人だけあり、日本へのプロモーションも盛んに行っているようだ。
さて、小菅の演奏は、全曲演奏としてよく考えられたもののようで、一曲一曲を比べると、必ずしも圧倒的な技の冴えや強烈さでは、特にキーシンには聴き劣りするものの、前述の通り、曲を把握し味わうためには非常に優れた演奏だと感じる。
五島みどりのパガニーニの『カプリース』全曲録音もそうだが、小菅のこの全曲も、現代の日本女性の少しアッケラカンとして凄さを象徴するかのようだ。
追記:2008/11/22 カテゴリーに「のだめ」を加えていて、そのことに触れるのをうっかり忘れていた。この『超絶技巧練習曲』は、マラドーナコンクールで演奏したり、後にライヴァルとなる孫ルイによるこの曲集の演奏に影響されて、パリ音楽院で指導教授のオクレール氏の前で初めて演奏を披露したときに「ベーベ(赤ちゃん)」と呼ばれるきっかけになった曲で、結構重要な役割を果たしている。「のだめ」の技術的な超絶性を印象付けるものとなっているようだ。
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