12月の12番はドヴォルザークの弦楽四重奏曲第12番『アメリカ』
1941(昭和16)年の今日、日本とアメリカは交戦状態に入った。映画『トラトラトラ』で描かれた真珠湾攻撃がおこなわれ、1945(昭和20)年8月15日の敗戦に至るまで巨大国United States of America と日本が総力戦で戦った第二次世界大戦の火蓋が切られた日にあたる。こども達に、父(こどもにとっては祖父)は当時幼かったが「大本営発表のラジオニュース」を聞いた記憶があると語ってくれたという話を夕食の時にした。
そして、我が家では、私の母方の祖母の命日にあたる。
さて、12番という番号で直ぐに思い当たるものがなく、ネットで検索したところ、有名曲では、作品12では、シューマンの『幻想小曲集』、第12番ではショスタコーヴィチの交響曲第12番『1917年』、そしてこのドヴォルザークの有名な弦楽四重奏曲の『アメリカ』が見つかった。
シューマンの曲も書きたいところだが、すでにアルゲリッチの録音を入手できたときに喜んで書いてしまっている。
『アメリカ』四重奏曲は、弦楽四重奏曲の入門編としてよく挙げられる非常に親しみやすい曲だが、しばらく向き合って聴いたことがないので、じっくり聴いてみたい。
手持ちのCDは2枚。一枚は既に相当以前に記事にしたスメタナクァルテットのEMI録音(1966年)。もう一枚もカップリングのボロディンの弦楽四重奏曲第2番を記事にしたことのあるCDに収録されているヤナーチェククァルテットのもの(1963年録音)。
LP時代には、この短い曲をLPの両面にたっぷりと余裕を持って録音したDENONレーベルの日本でのPCMライヴ(岐阜)盤を愛聴していた。このLPは、カッティングに余裕があったためか、実に生々しい音色で録音されていた。当時絶大な人気のあったスメタナ四重奏団の特別盤として発売されたものだったと思う。1978年の録音だったはずだ。
それに比べてCDの録音はいずれも古いものだ。スメタナ四重奏団は1966年、同じチェコのヤナーチェク四重奏団のは1963年。
SmetanaQ JanacekQ
Allegro ma non troppo 6:55 7:00
Lento 7:55 8:05
Molto vivace 3:26 3:52
Vivace ma non troppo 5:45 5:49
タインミングを比較すると、ほとんど瓜二つの所要時間で驚いた。いずれもチェコの団体なので、規範的なテンポ感覚があるのかもしれない。
スメタナQのは、この曲を何度も録音しているこの団体としては、相当古い方に属する録音であり、聴きなれたDENON盤とは違うEMI録音だが、自分にとっては親しみやすい。上記にリンクした旧記事では、リマスタリングに対して文句を連ねたが、ここ数ヶ月聴いている廉価なソニー製ステレオイアフォンで聴くと高音の鮮度もそれほど失われているようには聞こえず、四本の弦楽器のアンサンブルを十分楽しめるものになっている。特にヴィオラの活躍がよく聴かれるのがうれしい。ドヴォルザークは、プラハの国民劇場のオーケストラでヴィオラ奏者だったこともあるためか、ヴィオラが主要旋律を歌うことが結構多いようで、それがくっきりと聞き取れる。
ヤナーチェクQの録音は、このCDで初めて聴いたのだが、スメタナQの(十分に表情豊かなのだが)よく整った趣きに比べて、より柔軟であり、またスメタナQに比べて(この演奏が基準になっているので)、少し崩しがあるようにも感じられるが、楽器バランスなどの違い、音色の違い、歌いまわしの違いから、耳慣れたこの曲の別の面も味わえるような感じだ。
19世紀末のUnited States に、チェコのプラハ音楽院の教授職を休職して、ニューヨークの音楽院院長として赴任したドヴォルザークは、ホームシックにかかりながらもここで彼の畢生の名作を作曲したのだから、人生というものは分からない。彼の最もよく聴かれる『新世界』交響曲、傑作チェロ協奏曲、そしてこの『アメリカ』というニックネームのつけられた弦楽四重奏曲はどれもアメリカ滞在中に作曲された。
速筆だったドヴォルザークだが、この充実した傑作がたった15日ほどで完成したというのはモーツァルト並みのスピードだと思う。アイオワ州のスピルヴィルというボヘミアからの移住者たちのコミュニティーを訪れ、郷愁の感情が高まったものか、それともホームシックが癒されたものか、この弦楽四重奏曲には、ノスタルジアとも癒しとも言える感情が満ち溢れているようだ。
しかし、第四楽章だけは、郷愁や望郷というよりも非常に運動性の高いあるものを連想させる音楽になっている。上記のLPを聴いていた頃、ドヴォルザークの伝記を読んでいたところ、彼がボヘミアに居た頃から大の機関車マニアで、ニューヨークでも暇さえあれば操車場の機関車を眺めに行ったというエピソードが書かれてあり、この楽章の快適なリズムと弾むようなメロディーは、機関車での快適な旅の様子を描いたものではなかろうかと思ったことがある。これは以前更新していたホームページにも書いたことがあった。印象とエピソードという間接的な状況証拠とも言えない根拠しかない単なる思い付きだが、疾走する蒸気機関車の「シュシュ・ポポ、シュシュ・ポポ」と快適に刻むリズムがどうしても聞こえてくる。
先日、DENONの2枚組みで、ボドとチェコフィルによるオネゲルの交響曲全集を求めたのだが、その中に以前から一度耳にしてみたいと思っていた交響的運動『機関車パシフィック231』という曲が収録され聞いてみた。重量級の機関車が静止状態から動きだす様子がオーケストラによって克明に描かれてはいたが、疾走する情景は残念ながらないようだった。ドヴォルザークの『アメリカ』の終楽章ほど機関車(鉄道)の疾走感が味わえる音楽はそうはないような気がする。
2008年に一応書いてきた月番号と同じ数字に関係する曲の記事一覧:
10月 マーラーの交響曲第10番
08月 シューベルトの交響曲第8番(第7番)『未完成』D.759
プレヴィン/LSOのヴォーン・ウィリアムス『南極交響曲』(交響曲第7番)
06月 DHM-6,7 J.S.バッハ ロ短調ミサ曲 (6月の6番は)
05月 ベートーヴェンの交響曲第5番
04月 ブラームスの交響曲第4番
カラヤン(77-78), ヴァント(85), C.クライバー, ベーム(75), 小澤(89)
(4月ということで4に因む曲に想いを馳せる)
ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲第4番
02月 ニールセン 交響曲第2番『四つの気質』 ラフマニノフ 交響曲第2番 初演満100周年
01月 ブラームス交響曲第1番 , ブラームス ピアノ協奏曲第1番 , シベリウス 交響曲第1番
ちなみに、2008年は、誕生年がプッチーニが生誕150年、ルロイ・アンダーソンとメシアンが生誕100年を迎えた。没年では、古いところでは、ジャヌカンが没後450年、リムスキー=コルサコフとサラサーテが没後100年、ヴォーン=ウィリアムスが没後50年、と年初に記念年を書き出したが、これらの作曲家の作品を集中的には聴いてみていないので、落穂拾いではないが、12月に少し聴いてみようと思う。
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