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2008年12月 3日 (水)

シューベルト ピアノソナタ 第16番イ短調 D845 ルプー DPM44

このところ音楽は、DECCA PIANO MASTERWORKS(DPM)ばかり聴いている。昨夜は、ラドゥ・ルプーのピアノで、シューベルトの ピアノソナタ第16番イ短調 を聴いた。

1979年1月録音ということだが、私が苦手とするデッカ的な滲みのある音色はあまり気にならず、聴くことができた。

このソナタは、漫画「のだめカンタービレ」ファンにはおなじみの曲で、それまで幼稚園の先生を夢見ていた主人公のだめが、一念発起してコンクールに挑戦したときに弾いた曲だ。この曲を弾いたのだめは、すっかりコンクールの聴衆を魅了し、審査員たち、特に後に師匠となるオクレール教授の注意を引くきっかけにもなった。

シューベルトのソナタは、のだめではないが、ベートーヴェンなどに比べてなかなかとっつきにくく、ブレンデルの録音で馴染んだ最後のソナタ第21番と、リヒテルの東京ライヴの第13番イ長調が比較的親しく、そのほか「海辺のカフカ」の第17番ニ長調 を少し興味を持って聴いた程度。後期三大ソナタの第19番、第20番もケンプのCDで聴いたが未だピンとこない。

この第16番イ短調のソナタも「のだめ」のアニメで第一楽章冒頭が使われたが、いかにもシューベルト的な少し野暮ったいような飄々としたメロディーで始まるソナタは、モーツァルト、ベートーヴェン的な構成的・論理的なソナタ書法とは相当異なる類の音楽という趣きで、一種不思議な魅力のあるものだった。

今回、このDPMの44枚目にたまたま収録されていたので、じっくり聴く機会を得た。2度ほど通して聴いてから、IMSLPを検索すると、この曲の楽譜も収録されており、PDFでダウンロードして参照しながら聴いてみた。アナリーゼは適当だが、一応メモとして。

第1楽章 Moderato イ短調 2分の2拍子。12:28 ユニゾンで奏でられる不思議な雰囲気なメロディアスな主題がこの不可思議な情緒の楽章のテーマとなっており、第2主題の八分音符のリズミカルな主題と組み合わされ、ソナタ形式を形づくっているが、テンポがモデラートということもあり、既にモーツァルト、ベートーヴェン的な推進力や疾走感のある方向性が明確な音楽ではなくなっている。誠に不思議な音楽だ。

第2楽章 Andante, poco mosso ハ長調 8分の3拍子。11:56 第1楽章のとらえどころのない情緒の音楽と比較すると、古典的で、ベートーヴェンの後期のソナタの一楽章といわれても違和感のないように聞こえるが、唐突な転調がシューベルトらしい。第3変奏のハ短調に聴かれる悲劇的な感情と第4変奏の変イ長調(フラット4つ)の流麗なパッセージはシューベルト的だ。第5変奏はハ長調に戻って狩のホルン的な五度が聴かれる三連符の連続による変奏。ここまでで24分ほどになる大ソナタだ。

第3楽章は、Scherzo(Allegro-vivace) - Trio(un poco piu lento) ハ長調 4分の3拍子。7:15 イ短調とハ長調を行き来する不安定な雰囲気のスケルツォ主部。その後転調の多い、展開的な部分が長く続き、途中イ長調まで転調する。トリオはヘ長調で穏やかな雰囲気になる。動機的にはスケルツォ主部をひきずっているが、転調が多く不安定なスケルツォとの対象がなかなか印象的だ。

第4楽章 Rondo Allegro vivace イ短調 4分の2拍子。5:02 これもとらえどころがない感じのロンド。ひそやかなロンド主題で開始する。リズム的には、一定な拍節ではなく、変化をつけた工夫が凝らされている。相当劇的な表情も見せたり、ころっと表情が変わったり、モーツァルト以上に情緒の転換が激しい感じの音楽だ。全体では35分を越えている。コンクールでのだめが全曲演奏したとすると、長すぎるのではなかろうか?

単に聞き流してしまうと、不思議な曲というだけで印象にそれほど残らないかも知れないが、これも「のだめ」の千秋の台詞ではないが、「きちんと曲に向き合って」「聴く」ことによって、少しはこの曲、作曲家の言いたいことも分かるのかも知れない。

曲の成立事情や、作曲当時のシューベルトについてはよく知らないが、ピアノの腕前があまり達者ではなかった(といっても大ピアニスト揃いの大作曲家たちに比べてだろうが)と言われるシューベルトは、誰による演奏を目当てにこれら一連の大ソナタを書いたものだろう?

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コメント

ラドゥ・ルプーの弾くシューベルトは良いですね。大好きです。この16番ソナタも大好きです。LP時代にルプー、ブレンデル、グルダの演奏を聴いていました。あまりポピュラーな曲ではないのに、シューベルト弾きとして著名な3人のピアニストの録音があったんですから、これ、プロの食指を動かす曲なんでしょうか。
ルプーの演奏は抒情派ピアニストの本領発揮、ニュアンスいっぱいで、繊細な名演と思います。懐かしい、愛聴盤でした。

mozart1889さん、コメントとトラックバックありがとうございます。

私にとってシューベルトの器楽曲、ソナタはどうも相性があまりよくないようで、楽しんで聴くことは結構難しいようです。今回も結構悪戦苦闘した記録で、お恥ずかしいです。愛好曲とは言えないので、愛好されている方には読みづらいところもあるとは思いますが、御容赦ください。

このソナタも今回初めて聴いたので、他のピアニストとの聴き比べはしたこともないですが、本文の記事のようにとらえどころのない大ソナタだという印象を強く持ちました。ただ、アニメの影響もあるのでしょうが、第一楽章、第一主題の初めが頭の中で繰り返し鳴っしまい困ってしまいます。


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