シフはもちろんだがコチシュもなかなか DPM22,39&40
2008年も残すところ10日余りだ。明日21日は冬至。
the winter solstice
midwinter
冬至から いの節だけ 伸びる
冬至 十日は 居座り〔冬至 十日は 日の座り〕
冬至 冬中 冬はじめ
さて、DPMには、これまでまったくCDを持っていなかったゾルターン・コチシュ(コチシュ・ゾルターン Kocsis Zoltan )の録音が数枚収録されている。ショパンのワルツ集(17曲)、そして大物がラフマニノフのピアノ協奏曲全集(第1番-第4番、パガニーニ変奏曲。ヴォカリーズのピアノ編曲版)がエド・デ・ワールト指揮のサンフランシスコ響との共演での録音だ。
コチシュは、1970年代に シフ・アンドラーシュ、ラーンキ・デジェーとともにハンガリーの若手ピアニスト三羽烏として紹介されたうちの一人で、当時はよくその名前や演奏を聞いたのだが、いつの間にか音盤的にはシフ一人飛びぬけた存在になっていたように感じていて、ラーンキとコチシュは私には「あの人は今・・・」的な状態だった。ところが、今回のDecca Piano Masterworks には上記のような大物が含まれていて今更ながら驚いたところだ。
気軽に聞いたショパンのワルツの、ストレートで鮮烈な演奏にも驚いたが、もっと驚いたのがラフマニノフのピアノ協奏曲第3番の攻撃的とも言えるようなテンポの速い演奏だった。
自作自演のラフマニノフ盤が快速だというのはよく知られているが、私の持っているキーシン・小澤盤などは特に第一楽章が非常にゆっくりしており、全編少し緊張感がない音楽だと思っていたほどだった。ところが、コチシュの演奏は猛烈に速く、速度としての緊張感が保たれ、この速度で細部まで音楽を表現できるのかと心配していると、猛烈な指回りで難所も難なく乗り切ってしまい、あっけに取られてしまったほどだ。第1楽章の第1主題は、このくらいのテンポ感で演奏される方が憂鬱と憧れが綯い交ぜになったこのメロディーの意味を把握しやすいように思う。また、第2主題との対比も鮮やかになり、この第1楽章がキーシン・小澤盤を何度も聞いても馴染めなかったのと違い、形式感も自然に出てくるように思う。
この第3協奏曲には難しい版と少し難度を下げた版があるといい、それにより演奏時間も多少左右されるとのことだが、コチシュ盤はどちらだろうか? ともあれ、陰鬱でもやもやしたラフマニノフとは異なるデリケートな魅力のあるラフマニノフがここにはいる。
ツィメルマン・小澤の第1番と第2番も明晰さでは優れていたが、それよりも期待していなかった分だけむしろこのコチシュとデ・ワールト盤には驚かされた。もちろん、この淡白で明晰なこの録音がラフマニノフ的ではないという意見も多いとは思うが、逆にラフマニノフが苦手な人にはラフマニノフ再発見となるような気もする。
(ピアノ協奏曲第3番 フィリップスレーベル 1983年録音)
なお、ここで収録のヴォカリーズは コチシュ自身の編曲によるもので、この編曲自身結構人気のあるもののようで、他のピアニストも録音しているようだ。(上記キーシン盤にもピアノ独奏が収録されているがこれとは異なる。)
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コメント
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コチシュはお国もののバルトークピアノ大全集を出しています。正統的な演奏です。ぼくとしては弟子のシャンドールのような民族的な演奏の方が好きですけど。
投稿: gkrsnama | 2009年10月14日 (水) 23:22
あまり知られていない優れたピアニストはたくさんいるようです。たとえばメシアンコンクール優勝者のアウステップ。メシアン、グリーク、ブラームス、ヤナチェック、スクリャビンなど端っこのレパートリですが、大変うまく本当にいいです(ちょっと整いすぎているか)。また台湾のマンチェリュウ、ポリーニみたいな演奏です。あっちでは台湾の生んだ最も有名な10人に入っているそうです。
投稿: gkrsnama | 2009年10月14日 (水) 23:28
gkrsnamaさん、こちらにも2通もコメントをいただきありがとうございます。
コチシュのことを最近参加しているYAHOOの知恵袋がきっかけで調べる機会があったのですが、すっかり指揮者になってしまったようですね。これだけ達者なピアニストのピアノを聴ける機会が少なくなるというのは残念です。
シャンドール、アウステップ、マンチュウなど名前も初めて知りました。時間的にはこれまで集めたCDを聴き直したり、未聴盤を聴くことであまり余裕がなく、相当話題性がないとなかなか新しい演奏家を聴く機会がないのが残念です。
投稿: 望 岳人 | 2009年10月17日 (土) 07:14