『天地人』下巻をようやく読了
上・中巻は、結構楽しんで読めたのだが、その後しばらくして下巻を妻が図書館から借りて来てくれて、読み始めたところ、読書のペースが上がらずに、むしろ結構苦労しながら最後までたどり着いた。史料的には、直江兼続の活動が確認できるのは、謙信の後継者争いである御館の乱の前後かららしい。つまりそれまでの兼続は、後世のフィクションとしては何とか確認できるが、父親の樋口某が薪炭役人だったのか、それとも家宰(家老)的な存在だったのかもはっきりしていないようだし、またその妻で兼続の母親の出自も(この原作とドラマでは、直江家の生まれとなっているが)はっきりはしていなようなのだ。そんなわけで、フィクションの部分や、関ヶ原の戦いまでの昇り龍の如き兼続の活躍は痛快なのだが、関ヶ原以後の、家康の風下に立つようになった上杉家と兼続が描かれた下巻は、著者のこの時期の兼続と景勝に対する評価も少し及び腰的になっていて、どうも弁護的な色合いが感じられ、すっきりしなかった。これが最も下巻の読了に時間がかかった理由のように思える。その意味で、兼続の伝記小説としては、尻すぼみだった。人物像も明確な像を結ばず、散漫な印象を受けた。
これに比べると、童門冬二の『北の王国』は、文章力や小説としての品格はあまり感じられないのだが、関ヶ原後の兼続の米沢での活躍、及び、兼続没後のお船の活躍にも触れられていて、それなりに納得ができた。『天地人』の方は、下巻は急に淡々とした筆運びになってしまい、小説のあらすじを読んでいるような起伏のなさになってしまっている印象を持った。藤沢周平の『密謀』でも、会津、庄内、佐渡の120万石の領地が、米沢30万石に石高を削られて移封されたことの事態の重大さ、そしてそのような苦境に負けずに上杉の家を残した兼続の努力が感じられたのだが、火坂の『天地人』は淡々とした運命論者になってしまったかのようで、違和感を感じてしまった。
ところで、話は小説、ドラマから離れるが、一挙に「愛」の前立てが有名になった兼続の兜だが、確か以前所用で何度か銀座に行ったときに見かけて2度ほど入ったことがあるのだが、米沢ラーメンを食べさせる「愛」という名前の店が歌舞伎座の近くにあった。米沢という東北地方の質朴なイメージと、強烈な情緒を発する「愛」という名称のギャップに戸惑ったのだが、米沢の人にとっては、兼続の「愛」という旗印(にもしたらしい)が、敢えて店名にするほど、誇りに感じているのだなと、今更ながら思い出した。
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