『阿修羅展』 東京国立博物館 2009/04/12(日)
ガンダーラに端を発した仏像であるが、白鳳天平彫刻の傑作の多くは、その仏師、技法などなど中国、朝鮮を経由して伝来したためか、優美繊細さを極めたその美意識は現代人にも共感できるように思う。今回興福寺の国宝館からもったいなくも大挙して移されてきた写実的な釈迦十大弟子は当然のこととしても、異形な古代インドの神々が起源である八部衆の神々が何と美しく、また愛らしく、たおやかであることか。
ことに展覧会の名称にまで祭り上げられた『阿修羅像』は、特別展示として周囲360度からの観覧(つまり左右の二面の顔も背中も)が可能であるようにもったいなくも展示されており、ものすごい人込みではあったが、その人込みの中でも見る価値は十分にあった。
高校時代には、別に日本浪漫派をきどったわけではなかったが、和辻哲郎『古寺巡礼』、亀井勝一郎『大和古寺風物詩』、入江泰吉の写真集に相当入れ込んで、高校の京都奈良への修学旅行では、修学旅行的に青春している同級生を尻目に、日本古美術の粋を極めようとしていたような意気込みがあったように今から思えば思い出す。梅原猛『隠された十字架』などにも挑戦した。
この一時的な熱狂が過ぎてから、大学生時代にはほとんどそちらには興味がなくなっていたが、就職してから思い立って1月の当時の成人の日の連休に夜行列車で京都へ出て、室生から西ノ京、斑鳩、そして興福寺、東大寺、新薬師寺、春日大社界隈、冬枯れながら小春のような陽気の中、人気の少ない古都をのんびりと巡る一人旅で、改めて白鳳天平の仏達にじっくりと向き合うときを得たのだった。このときも、修学旅行以来の今回の興福寺の仏像たちや、三月堂の日光月光菩薩などもみることができたが、団体旅行には適さない東大寺戒壇院では、あの見事な四天王像の見学者が私一人だったり、新薬師寺の十二神将も、本当にこんな時空を一人占めしていいのだろうかととまどうような気持ちでじっくりと守護神たちに向き合うことができたのだった。
さて、今回の展示は、興福寺の西金堂の再建への勧進のようなものも兼ねているのか、その関係の展示もあった。そこで展示されている鎌倉の快慶による四天王像になると、荒々しく誇張された躍動感のようなものが「復活」しているように感じた。来迎崇拝の後、鎌倉、関東武士団の男性的な美意識は、アズマビトたちのかもし出したものかも知れず、そのルーツは古くは縄文につながるものがあるのかもしれないなどと、同じ平成館の縄文から古墳の名品群を見ながら思いついたのだった。
なお、阿修羅といえば、女流漫画家の萩尾望都が少年誌(チャンピオン)で連載して有名になった光瀬龍原作の非常に難解な「百億の昼と千億の夜」でのトリックスター的な役回りが非常に印象的だ。
ちなみに、四天王、八部衆、十二神将は、当然のことではあるが、東西南北を象徴し、四の倍数になっている。
⇒ 興福寺の八部衆
阿修羅、五部浄、沙羯羅(さから)、鳩槃荼(くばんだ)、乾闥婆(けんだつば)、迦楼羅(かるら)、緊那羅(きんなら)、畢婆迦羅(ひばから) ということで、大辞典とは少々異動がある。
⇒ 興福寺の十大弟子(6体)
富楼那(ふるな)、迦旃延(かせんえん)、羅羅(らごら)、舎利弗(しゃりほつ)、目連(もくけんれん)、須菩提(すぼだい)。
参考:小学館 国語大辞典より
してんのう(‥ワウ)【四天王】(「してんおう」の連声)
Ⅰ 仏語。須弥山(しゅみせん)の中腹にある四天王の主で、東方の持国天、西方の広目天、南方の増長天、北方の多聞(たもん)天または毘沙門天のそれぞれを主宰する王の総称。八部衆を支配して帝釈天に仕え、仏法と仏法に帰依する人々を守護する。仏像彫刻の場合は、須弥壇の四すみに配され、甲冑をつけ、武器をとり、足下に邪鬼を踏む姿につくられる。四大天王。
⇒ 東西南北 じぞうこうた
◇はちぶしゅう【八部衆】
仏語。仏法守護の八体一組の釈迦の眷属。天・竜・夜叉・乾闥婆(けんだつば)・阿修羅・迦楼羅(かるら)・緊那羅(きんなら)・摩 羅伽(まごらか)の称。天竜八部。
◇じゅうに‐じんしょう(ジフニジンシャウ)【十二神将】 仏語。仏法を守り、薬師経を読む者を守護する一二の大将。宮毘羅(くびら)大将(本地は弥勒で子神)・伐折羅(ばさら)大将(本地は弥陀で丑神)・迷企羅(めきら)大将(本地は勢至で寅神)・安底羅大将(本地は観音で卯神)・ 羅(あにら)大将(本地は如意輪で辰神)・珊底羅大将(本地は虚空蔵で巳神)・因陀羅(いんだら)大将(本地は地蔵で午神)・波夷羅(はいら)大将(本地は文殊で未神)・摩虎羅(まこら)大将(本地は大威徳で申神)・真達羅(しんだら)大将(本地は普賢で酉神)・招杜羅(しょうとら)大将(本地は大日で戌神)・毘羯羅(びから)大将(本地は釈迦で亥神)。この内、宮毘羅大将は金比羅(こんぴら)神で、寅童子(とらどうじ)はその化身という。十二神。
◇じゅうだいでし(ジフ‥)【十大弟子】
釈迦の一〇人のすぐれた弟子。智慧第一の舎利弗(しゃりほつ)、神通第一の目連(もくけんれん)、頭陀(ずだ)第一の摩訶迦葉(まかかしょう)、天眼第一の阿那律(あなりつ)、解空第一の須菩提(しゅぼだい)、論義第一の迦旃延(かせんねん)、持律第一の優婆離(うばり)、密行第一の羅羅(らごら)、多聞第一の阿難(あなん)、説法第一の富楼那(ふるな)の一〇人。十弟子。
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私も一度だけ見たことがあります。意外なほど小さかったという記憶がありますが、何かを語りかけるようなその表情に興味を持ちました。逆に、光背を後頭部に突き刺した救世観音が、予想よりもずっと大きかったことに驚きました。仏像を見るのは、なかなかいいものです。本県東根市にあるマリア観音も、由来不明で知名度はぐっと落ちますが、なかなか魅力的な仏像です。
投稿: narkejp | 2009年4月14日 (火) 21:07
narkejpさん、コメントありがとうございます。
信仰の対象というよりも古美術(上代美術)として観られることが多くなった奈良の仏達ですが、それでもやはり敬虔さが自然に湧き出してくるように思えるところが不思議でした。今回のメインは如来、菩薩をかたどった仏像でなく、守護神や釈迦の弟子の像であってもそのような心持にさせてくれました。
観客の多さは予想はしていましたが、約20人ずつを数分おきに入場させるような交通整理をしていましたが、入り口で満員電車並みの人込みとなっておりましたので、心静かに仏像と対話するというようなことはとてもできず、またおりを見て、人の少ない季節に奈良めぐりなどしたいものです。
東北地方は、江戸時代初期には、仙台には支倉常長や、伊達政宗の娘で家康の子忠輝に嫁いで後離縁になった五郎八姫の事跡等もありましたので、隠れキリシタンが西国、関東から相当移住したという話を読んだことがあります。画像検索でマリア観音を拝見しましたが、大変不思議な雰囲気の像ですね。
投稿: 望 岳人 | 2009年4月14日 (火) 22:14