グルダのモーツァルト ピアノ・ソナタ集K.331, K.333, K.545 & K.485 (amadeo盤)
モーツァルト
ピアノソナタ 第11番イ長調K.331(トルコ行進曲付き)
第13番変ロ長調K.333
第15番ハ長調K.545
ロンド ニ長調K.485
フリートリヒ・グルダ(ピアノ)
〔K.331,333: 1977, K.545: 1965, K.485: 1961年〕
amadeo PHCP-20328(462 926-2)
梅雨の季節になったが、今年はなぜかベートーヴェンのピアノソナタに手が伸びない。これにも、いつでもつまみ聞きが可能になったiTunesの影響が大きいのかも知れない。
ところで、ドイツ・グラモフォン・レーベルでグルダの未発表のプライヴェート録音がアーカイブといして発売されているようだが、こちらは1960年代と1970年代にamadeo(ベートーヴェンのソナタ集を録音したレーベル)に録音した正規録音。
K.485のかわいらしい独奏ロンドは、グルダの『アンコール』というCDにも収録されている1961年録音と同じもののようだ。
さて、この中での注目は、吉田秀和『レコードのモーツァルト』で紹介された非常にユニークな「優しいソナタ」ハ長調への多彩な即興的な装飾音の付加だ。最近、ようやくこのCDが入手でき、どんな演奏だろうかとまずこの「優しいソナタ」に耳を傾けた。
手持ちのCDのこの曲の録音の古い順では、このグルダのK.545が一番古いものにもかかわらず、第1楽章は4:17も掛けて、提示部、展開部+再現部両方のリピートを、ピアノ練習者のように繰り返している。そしてその繰り返しの部分に様々な即興が交じるのが聴き物だ。
グールドの1967年録音は、別として、リリー・クラウス(1968年)、マリア・ジョアオ・ピリス(ピレシュ)(1974年)の生真面目な演奏、及び自分のつっかつっかえの楽譜から離れなれない演奏がリファレンスなので、グルダの演奏はとても面白い。
元々初心者に教授するためのレッスン用に作曲されたという曲で、譜面はそれこそシンプルなものだが、これだけ単純な譜面をそのまま演奏しても晩年のモーツァルトならではの透き通った諦観のような世界が繰り広げられており、形式的にもシンプルなソナタ形式、歌謡三部、ロンド形式という古典派の標準を使っていて、ソナタ形式の再現部の第一主題をヘ長調にしている程度の破調しかなく、これだけの音素材でこれだけ深い表現ができるという典型のような作品だ。
第1楽章の即興に比べると、第2楽章のAndanteは、それこそ縦横無尽に即興を付けている。様々なリファレンスのある現代の耳で聞いてもユニークではあるが、とても面白い。モーツァルトが弟子に弾かせたのは、このようなシンプルな譜面を前にした際のこのような即興的な装飾の仕方だったのかも知れないなども想像が膨らむ。
グルダが1960年代中ごろにこの録音を発表した頃は、相当反響があったものと思う。現在では、正統的な演奏の典型の一つに数えられるベートーヴェン全集は1967年の録音なので、その直前の録音になり、またユニークなルバート演奏で知られるスワロフスキーとのピアノ協奏曲は1963年なので、その直後となる。恐らくギーゼキングなど楽譜忠実主義(ノイエザハリヒカイト)のモーツァルト演奏へのアンチテーゼだったのだろう。
しかし、1970年代録音の有名なソナタK.331については、そのようなユニークさは見られず、一聴、至極普通の演奏に聴こえる。テンポ的にも1961年には2:50で駆け抜けたトルコ行進曲も、3:30秒台で至極普通のテンポだ。
ただ、ソナタアルバム第二巻にも収録されている第13番K.333については、非常に長時間演奏になっている。(iTunesのタイミング表示による)。
このテンポの差は一見少し極端すぎるように思えるが、これもグールドの極端に速いテンポ設定を除けば、提示部、展開部+再現部両方のリピートを忠実に実行しているかどうかの差で、実にじっくりと30分ほどになる「大曲」のソナタに向き合っているのが好ましい。(普通は提示部のリピートを行うだけ。)
録音が比較的新しいこともあり、このグルダ盤がナイーブな魅力で、大変気に入った。ただ、第2楽章でも1960年代のK.545の即興的な装飾はあまり付加していない。時代の差か、それともグルダのこの曲の細部まで丁寧に書き込まれた楽譜を尊重したものか。
グルダ 11:18/ 12:01/ 6:43 〔1977〕
ギーゼキング 4:55/ 6:15/ 5:53 〔1953〕
グールド 3:47/ 3:41/ 5:57 〔1970〕
シフ 7:16/ 5:56/ 6:52 〔1980〕
追記:2010/3/23 グルダのDGへの録音 "the Gulda Mozart tapes"収録のK.333を取り上げられている 天ぬきさんの記事へトラックバックさせてもらった。
« コレルリの合奏協奏曲集作品6全12曲 ピノック/イングリッシュ・コンサート | トップページ | 中村紘子『コンクールでお会いしましょう』(中央公論社)とヴァン・クライバーン・コンクール »
「ディスク音楽04 独奏」カテゴリの記事
- 小学館 モーツァルト全集のCDを夏の帰省時に持ち帰った(2014.09.02)
- マリア・ティーポのバッハ「ゴルトベルク変奏曲」(2014.06.24)
- ヴォイジャー(ボイジャー)のゴールデンレコード(2013.09.16)
- グレン・グールドの1981年ゴルトベルク変奏曲の録音と映像の微妙な違い?(2013.06.24)
- 年末に届いた "LIVING STEREO 60 CD COLLECTION"(2013.01.04)
コメント
« コレルリの合奏協奏曲集作品6全12曲 ピノック/イングリッシュ・コンサート | トップページ | 中村紘子『コンクールでお会いしましょう』(中央公論社)とヴァン・クライバーン・コンクール »
望 岳人さん、おはようございます
拙ブログにコメントいただき
ありがとうございました
このDGG盤も長いものになっています
参考までにタイミングは
1st 10:43
2st 11:06
3st 6:27
トラックバックの不都合に関しては私には全くわかりません
テンプレートに不具合があるのでしょうか?
いずれにしても申し訳ありませんでした
投稿: 天ぬき | 2010年3月24日 (水) 10:47
天ぬき さん、トラックバックは気にしないでください。
グルダのK.333の演奏は、DG盤でもリピートを行った演奏時間なのですね。参考になりました。ギーゼキングやシフといった比較的普通の演奏では可愛らしいソナタという趣きですが、グルダによる長時間の演奏はこのソナタのイメージを変えるものかも知れませんね。
投稿: 望 岳人 | 2010年3月24日 (水) 22:01