浅田真央選手 ヴァンクーヴァーオリンピック 銀メダル
カナダ太平洋岸標準時2月25日(木)午後17時(日本時間2月26日午前10時)から開始されたヴァンクーヴァーオリンピック フィギュアスケート 女子 フリースケーティングで、日本の浅田真央選手は、見事銀メダルを獲得した。安藤美姫選手は5位、鈴木明子選手は8位と、出場3選手全員が入賞するという快挙だった。金メダルは、韓国のキム・ヨナ選手。フリースケーティングの得点は男子並みの高得点150点台であり、本人は130点か140点はいくかと予想しており、コーチのブライアン・オーサーさえも予想していなかったものだったという。銅メダルは、カナダのジョアニー・ロシェット選手が獲得。奇しくも、ショートプログラムの順位とまったく同じ順位になった。
14番滑走の鈴木明子選手の出番が、日本時間の12時から13時のお昼どきで、キム選手、浅田選手らの出番は13時半ごろだったため、生放送では見ることができなかったが、それでも順位などは職場でもひそひそとささやかれ、残念ながら浅田選手が金メダル獲得ならなかったのを知った。
帰宅後、残念だったとの会話をしながら、19時からのテレビ朝日での日本選手と上位選手の映像を見たのだが、冒頭、浅田選手が現地スタジオに登場し、姉の浅田舞選手に迎えられ、感極まって泣き出したのは可哀想で正視に堪えないほどだった。
鈴木明子選手のフリースケーティングは実力を遺憾なく発揮した見事なもので、躍動感のある「ウェストサイドストーリー」の音楽も相俟って、ひきつけられるものだった。この時点では1位。
安藤美姫選手は、エジプト女王クレオパトラのイメージの凝ったコスチュームで登場。トリノの時の憔悴しきった痛々しさはなく、落ち着きと風格が感じられたが、丁寧過ぎる演技だったのか、躍動感やアピール力を欠いていたように思えてしまった。音楽は、エリザベス・テイラー主演の映画音楽だったのだろうか?いかにもエジプト風で面白いものだったのだが、メリハリに欠けていたようにも感じた。ここでは、トップに立った。
そして、キム・ヨナ選手登場。金メダルのジンクスのある青色の衣装。平常心を保った落ち着いた表情。音楽は、ガーシュインのピアノコンチェルトヘ長調。これは、メリハリと変化のある編曲、パッチワークを行っており見事だった。その音楽に合わせて、シームレスな感じの磨きぬかれたスケーティングと振りつけをたっぷりと見せ付けた。ただ、競技を見ているというよりも、エキシビションを見ているかのように感じさせるもので、よい意味での緊張感や選手の必死さが感じられなかったのは、私のイロメガネだろうか?得点が、150点という信じられない高得点。これを次に滑る浅田選手は知ったのだろうか?例のないハイスコアは浅田選手の焦燥感を掻きたて、落ち着きを失わせるには十分過ぎたのかも知れない。
浅田選手が厳しい表情で、リンクに登場。それを見送るタラソワコーチのしかめ面は、キム選手の極端なハイスコアへの不満の表れだったかも知れない。浅田選手はそれまでキム選手の演技に気をとられないように、イアフォンで音楽を聴いていたようだが、痛々しい感じだった。トリプル・アクセル、トリプル・アクセルとダブル・トウ・ループのコンビネーションは見事に決まり幸先のよさを感じさせたが、緊張の糸が張り詰めた感じで、何かのきっかけでそれがプツリと切れそうな危うさが漂ってるように見入っていたところ、後半のジャンプ三連続の一本目で着地後によろめき、その後の別のトリプルトウループジャンプでは、踵側のエッジが氷の溝に取られるという不運もあり、トリプルがシングルとなってしまった。しかし、それにもめげずに迫力のあるストレートラインステップシークエンスを決め、スピンも見事にまとめた。しかし、浅田選手の顔には、ショートプログラムの時のような笑顔はなかった。得点はそれでも、131.72という高得点が出たが、いかんせんキム選手の得点が高すぎた。(gorin.jpの動画)
ロシェット選手の演技は、ところどころステップアウトやバランスを崩す場面なども見受けられ、決して総合的な出来はよくはなかったが、一つ一つの技に気迫が感じられるものだった。
最終滑走の米国代表ナガス・ミライ選手は、以前来日したときに全米チャンピオンらしからぬミスを連発する演技をテレビで見ていたのであまり期待していなかったが、キム選手と同じくシームレスな感じの演技ではあるが、よりスポーティーで、フィギュアスケート競技らしい見事な演技で驚かされた。調子の波の大きさを克服できれば、非常に強くなるのではないかと思わせるものがあった。
ヴァンクーヴァーオリンピック公式サイトの得点詳細
スケーター別の審判(Judge)採点明細(Judges Details per Skater) (Judge Panelの数字とGOEの関係式が分かりにくい)
浅田選手は総合で国際大会での自己ベストを更新(ベストは国内で出したもので、2006年12月全日本の71.14+140.62=211.76)。
2 | 22 | Japan | ASADA Mao | 2 | 73.78 | 2 | 131.72 | 205.50 | Expand | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Music:Bells of Moscow by S. Rachmaninov
|
キム選手の世界最高得点。男子並みと言われるのは、次の男子の高橋選手と比べると分かる(男子と女子では、Program Components の Score Factorと呼ばれる係数が女子1.60倍で男子2.0倍と差があるが、その分男子の方が厳しく見られているようだ。)
1 | 21 | Korea | KIM Yu-Na | 1 | 78.50 | 1 | 150.06 | 228.56 | Expand | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Music:Concerto in F by G. Gershwin
|
ちなみに、男子銅メダルの高橋選手のフリースケーティングの得点詳細 150点台
3 | 22 | Japan | TAKAHASHI Daisuke | 3 | 90.25 | 5 | 156.98 | 247.23 | Expand | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Music:La Strada by N. Rota
|
-----
なお、蛇足だが、この日韓対決とも言うべき女子フィギュアの報道の様子をいろいろと見てきて、以前フジテレビが2008年の韓国でのグランプルファイナルで、浅田選手が久しぶりにキム選手を破って優勝を決めたときの、浅田バッシング、キムの持ち上げの不自然な報道を思い出させるようなことが今回もままあった。
キム応援的なニュアンスを感じるものが、NHK(韓国でのキム応援をわざわざニュースで流したり)でも感じたり、特に毎日新聞(Yahooからニュース記事にリンクされるケースが多い現地報道を目にする機会が多い)ではその傾向が強く感じられたのは、残念だった。韓国が一丸となって「国民の妹」と称するキム選手を応援しているようなのに、こういうときぐらい浅田、安藤、鈴木の自国選手を素直に応援することはできないのだろうかと思わせられた。偏向とまではいわないが、妙なバイアスがかかっているような嫌な感じを受けた。
2010/2/27朝追記:
NHKニュースについて
下記の“ジャンプ完成度の差 影響”は、なるほど一見すると客観報道のようだが、むしろ審判団による日本側への言い訳・エクスキューズを代弁しているかのようだ。
また、日本選手のライヴァルであるキム・ヨナの韓国での盛り上がりをわざわざ伝える意図が不可解。キム・ヨナを韓国が熱狂的に応援するのは当然ではないだろうか?上位選手への応援を取り上げるとするならば、カナダのロシェット選手の地元のことは取り上げてもいないし、SPで3人も上位に入っている自国の日本選手への期待、応援振りはそれほど取り上げていない。特に、安藤、鈴木選手については扱いがおろそかに思えた。
http://www3.nhk.or.jp/news/
“ジャンプ完成度の差 影響”
2月24日 18時59分
ショートプログラムで2位だった浅田真央選手は、トップのキム・ヨナ選手と、4.72ポイントの差がつきましたが、2人のジャンプの完成度の差が点差に大
きく影響した形となりました。
2人の得点のうち、実施した技の難しさを示す「基礎点」は、トリプルアクセル
=3回転半ジャンプなどを決めた浅田選手が34.4、3回転を2つ跳ぶ連続
ジャンプなどを成功させたキム選手が34.9と、わずか0.5ポイントの差で
した。一方、一つ一つの技に与えられる、完成度や出来栄えを示す「加算点」を
見てみると、浅田選手は連続ジャンプと3回転ジャンプの加算点が低く、2つの
合計は0.8だったのに対し、キム選手の連続ジャンプと3回転ジャンプは浅田
選手より跳んだ距離が長く、着氷後の流れもスムーズだったため、加算点が高
く、2つの合計は3.2でした。ここで、全体の点差の半分以上となる2.4ポ
イントの差がついていて、ジャンプの完成度の差が2人の点差に最も影響した形
となりました。
http://www3.nhk.or.jp/news/
韓国 キム選手に喜びの声 2月24日 18時21分
バンクーバーオリンピック、フィギュアスケートの女子シングル前半のショートプログラムで、韓国のキム・ ヨナ選手が世界最高得点を更新してトップに躍り出ると、ソウル市民は大きな喜びを分かち合いました。
浅田真央選手銀メダル獲得、日本選手全員入賞おめでとう!-バンクーバー五輪(MURMUR別館)の記事 とても詳しく分かり易い記事。私の「エキシビションを見ているようだ」との感想を抱いたキム選手の演技への批評は辛らつだ。記事下部の関連記事も読み応えあり。
浅田真央12歳(小学校6年生)での全日本デビューの動画が同じサイトを通じて見ることができる。滑り、ジャンプし、回転する喜びに溢れている。アナウンサーと解説の八木沼純子さんが、「将来世界を引っ張っていく選手になる」とコメントしているのを耳にすると感慨深いものがある。
-------
結果論だが、『鐘』と呼ばれるラフマニノフの前奏曲第1番は、曲調が重厚、沈鬱過ぎたのかも知れない。音楽で躍動感や開放感のようなものを感じられ好印象を持ったのは、鈴木選手の『ウェストサイドストーリー』、長洲未来選手の『カルメン』(サラサーテの幻想曲がベース?)、キム・ヨナ選手のガーシュイン『ピアノ協奏曲ヘ長調』だった。浅田選手の素直な伸びやかさに壮大さを加えてアピールするためには、以前のストコフスキー編曲で使った『月の光』も良かったのでそこから選ぶとすれば、むしろ『沈める寺』の方が合っていたかも知れないなどと感じた。ただ、これは冒頭が少し静か過ぎるけれど。編曲モノではないオリジナルを使うとすれば、ドビュッシーの「夜想曲」の「祭り」、ラヴェルの『ダフニスとクロエ』の「夜明け」やスペイン狂詩曲の「祭り」などもよいだろうが、そういうえばあまりラヴェルはフィギュアスケートに使われていない?
« ヴァンクーヴァー女子フィギュアショートプログラム 浅田選手ノーミスの演技で2位につける | トップページ | シャーロック・ホームズ 外典2 The Field Bazaar »
「スポーツ」カテゴリの記事
- 山中大地選手お疲れ様(2014.02.13)
- 紅梅が開花していた。ソチ五輪間近。(2014.01.31)
- ソチオリンピック 代表選出 おめでとう 山中大地選手(2013.12.29)
- 数少ない親日国のトルコ(2013.09.01)
- フィギュアスケート全日本選手権(2012.12.24)
「ニュース」カテゴリの記事
- ピリオド演奏の先達の一人、ホグウッドが亡くなった(2014.09.28)
- 二つのニュース(2014.08.05)
- 山中大地選手お疲れ様(2014.02.13)
- ソチオリンピック 代表選出 おめでとう 山中大地選手(2013.12.29)
- 手持ち可能な楽器(職業用)のEU持ち込み等の規則が改正されたらしい(2013.11.14)
« ヴァンクーヴァー女子フィギュアショートプログラム 浅田選手ノーミスの演技で2位につける | トップページ | シャーロック・ホームズ 外典2 The Field Bazaar »
コメント