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2010年3月21日 (日)

リスト ハンガリー狂詩曲第2番(ピアノ独奏原曲)とオーケストラ編曲

リスト ハンガリー狂詩曲第2番を聴いてみた。

ピアノ独奏原曲については、第2番嬰ハ短調ということで問題ない。

しかし、よく聴かれるオーケストラ用の編曲版は、これほどの有名曲ながら、編曲者、番号(管弦楽版の第2番か4番か)、調性(ハ短調、嬰ハ短調、ニ短調)については、音盤付属の楽曲データの表記にかなり混乱がある。

Naxos Music Library(リストのページ)には様々な編曲者(後述する、リスト/ドップラー、ミュラー=ベルクハウス以外にもシュレーカー、ダルヴァシュ、ベイツなど)による編曲版が登録されているが、その編曲者名も恐らく誤り(カラヤントフィルハーモニア管がベイツ版となっている)であったり、調性(嬰ハ短調としているものが多い)の表記の点で混乱している。

*このノーマン・ベイツ編曲で登録されいる一覧表は、明らかに編曲ではないものがほとんどであり、また、この一覧表を見ると、編集もののコンピレーションアルバムがほとんどで、短縮収録などの編曲を行っている人物で、大本の編曲とは異なるのに誤ってクレジットされているのかも知れない。なお、このNorman Bates はヒッチコックの「サイコ」の主人公名と同じである。


ピアノ原曲としては19曲が登録されているが、公式の管弦楽曲編曲版は6曲が残されている。

クラシックデータ資料館 (この貴重なサイトは閉鎖されたらしく残念ながらリンク切れ)の管弦楽編曲の一覧表は、下記の通り。

18-11 ハンガリー狂詩曲(Rapsodie hongroise)S.359[Orch][6曲]〔←S.244〕
18-11-1 ハンガリー狂詩曲第1番ヘ短調S.359-1[Orch](p原曲第14番ヘ短調)〔←S.244-14〕
18-11-2 ハンガリー狂詩曲第2番ニ短調S.359-2[Orch](p原曲第12番嬰ハ短調)〔←S.244-12〕
18-11-3 ハンガリー狂詩曲第3番ニ長調S.359-3[Orch](p原曲第6番変ニ長調)〔←S.244-6〕
18-11-4 ハンガリー狂詩曲第4番ニ短調S.359-4[Orch](p原曲第2番嬰ハ短調)〔※通常第2番で知られる、←S.244-2〕
18-11-5 ハンガリー狂詩曲第5番ホ短調S.359-5「悲愴的な叙事詩」[Orch](p原曲第5番ホ短調)〔←S.244-5〕
18-11-6 ハンガリー狂詩曲第6番ニ長調「ペストの謝肉祭」[Orch](p原曲第9番変ホ長調)〔←S.244-9〕

番号の混乱の原因だが、本来の管弦楽版の第2番(S.359-2)の原曲はピアノ用の原曲第12番(S. 244-12)で、ここで取り上げている「第2番」とは全く別の曲。

そして、管弦楽用の第4番(S. 359-4)が、ピアノ原曲第2番との関係で通常「第2番」と呼ばれるようになり、さらにオーケストレーション時に移調されている場合でも、ピアノ原曲の「嬰ハ短調」をそのまま表示することが多い。

(S.で始まる作品番号は、イギリスの音楽学者ハンフリー・サールによる作品表の番号だが、英語版やフランス語版Wikipediaでは、混乱を避けるためかどうかわからないが、S.244-2 が S.359-2 に対応し、S.244-12がS.359-4に対応するように訂正?されている。)

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手持ちの音源などを聞き比べて整理してみた。

◎ピアノ独奏用原曲:第2番 嬰ハ短調 S.244-2  

Liszt: Hungarian Rhapsody #2 In C Sharp Minor, S 244/2

György Cziffra 〔1956〕 10:17 Blue Sky Label にパブリックドメイン音源あり
Roberto Szidon〔1972〕 9:14 
フジ子ヘミング(Ingrid Fuzjko Hemming)〔1999〕 9:29

  (IMSLPによるとリストによるカデンツァ付きもある)

◎オーケストラ用:

(1)ミュラー・ベルクハウス版 原曲をハ短調に移調

カラヤン指揮ベルリンフィル

Liszt: Hungarian Rhapsody No.2 in C minor S 359/4 (Orchestrated by Müller-Berghaus, Piano original: S 244/2 in C sharp minor)

(訂正前のiTunesデータ表示: Liszt: Hungarian Rhapsody No.2 in C sharp minor S.359-4 ,Orchestrated by Liszt & Doppler, Piano original: S.244-2 in C sharp minor) 

  Herbert von Karajan / Berliner Philharmoniker 〔1967〕 11:23

Karajan_liszt

このCD所収の福本健一氏の解説では、使用版はリスト=ドップラーの編曲と記載されていた。それに基づき、私のiTunes登録時の従来の表記ではリストとドップラー版で嬰ハ短調としていた。(以前から聴いているのでこの演奏が一番耳に親しい。)

*ちなみに、2019/2/16追記:ドイツグラモフォンのカラヤン盤のデータではいまだに以下の通りとなっていて徹底されていない。

Hungarian Rhapsody No. 2 in C-Sharp Minor, S.244/2
Composer:

Franz Liszt (1811-1886), Composer

Title:

Hungarian Rhapsody No. 2 in C-Sharp Minor, S.244/2

Orchestral version: Franz Doppler

ところが、このカラヤンのCDを上述のピアノ版とを比較して聴いてみたところ、冒頭の弦楽合奏の音高が違うことが分かった。念のためピアノで確認してみると、カラヤン盤はハの音で始まるので、ハ短調であることが分かった。調性だけをみると ミュラー=ベルクハウス(Karl Müller-Berghaus)版であろうと想像したが、この時点ではスコアが確認できなかったため、確信はなかった。しかし、最近になりIMSLPでスコアを確認できるようになり、カラヤン指揮ベルリンフィル盤はミュラー・ベルクハウス版であることが確信できた。

この版の方が後述の(2)の編曲版よりも、原曲ピアノ版の装飾音符にも忠実であり、またオーケストレーションが華やかで、聴き応えがある。

なお、ミュラー=ベルクハウスという人物は二重姓のようだが、Karl Müller-Berghaus で検索をしてみても適当な項目がヒットしなかった。ノイマン指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管(テルデック)のこの曲には明瞭にミュラー=ベルクハウスがアレンジャーだと謳われているようだ。

2019/2/16追記:IMSLPで確認できた、ミュラー=ベルクハウス版:

For Orchestra (Müller Berghaus)

編曲者 Karl Müller Berghaus (1829-1907)
出版社情報 Leipzig: Bartholf Senff, n.d. Plate 1102.
再版 Berlin: N. Simrock, n.d.(after 1908). Plate 21102.
著作権 Public Domain
その他注記 Transposed to C minor. (ハ短調に移調ということ)

*2019/2/19追記 元記事以降に入手した音源はミュラー=ベルクハウス版

  • Herbert von Karajan: Philharmonia Orchestra 1958年
  • Arthur Fiedler: Boston Pops Orchestra 1960年 
  • Leopold Stokowski / RCA Victor Symphony Orchestra 1960年 
     ミュラー=ベルクハウス版を元にストコフスキー(?)が独自編曲した版(?)

(2)リスト編曲/ドップラー協力編曲版(一般的にはドップラー単独編曲版?) ニ短調に移調

これが、S. 359としてカタログに載っているものになる。

IMSLPでは以下のように登録さている。

For Orchestra (Liszt/Doppler)

Orchestration first published as No.4 (S.359/4) and transposed to D minor. Many later editions change the numbering to correspond to the piano originals

編曲者 Franz Doppler (1821–1883), co-orchestrator

CD: シノーポリ指揮ウィーンフィル

Liszt: Hungarian Rhapsody No.2 in D minor (S 359, No.4) (Orchestrated by Doppler, Orignal: #2 in C sharp minor, S 244/2) 

  Giuseppe Sinopoli / Wiener Philharmoniker  〔1996〕 12:22

IMSLPのニ短調ではパート譜しか見られないが、確認してみるとどうやらこの録音が使っている楽譜だ。 
原曲の嬰ハ短調から半音移調しており(フラット一つにしている)、冒頭が弦楽器ではなくトランペットとなっている。
この編曲は、初めてこのシノーポリ版で聴き、それまで耳に馴染んでいたカラヤン/BPO版との違いに戸惑ったのを思い出す。(自分のホームページのアーカイブ)。

IMSLPでの記述: 共同編曲者のドップラーだが、備考ではドップラーの編曲への貢献の正確な性質についての議論があるとされているのも気になる。

For Orchestra (Liszt/Doppler)
Orchestration first published as No.4 (S.359/4) and transposed to D minor. Many later editions change the numbering to correspond to the piano originals.

編集者: Franz Doppler (1821-1883), co-orchestrator 出版社情報: Leipzig: J. Schuberth & Co., n.d.(ca.1875) 著作権: Public Domain 備考:There is some dispute about the exact nature of Dopppler's alleged contribution. These files are part of the Orchestra Parts Project.

(3)リスト&ドップラー?版(嬰ハ短調?) 

Naxsos Music Library でもあたってみたりYoutubeでも検索してみたが、こちらは存在自体が不明。作品表でも、ハンガリー狂詩曲第4番ニ短調S.359-4[Orch](p原曲第2番)〔※通常第2番で知られる、←S.244-2〕となっているので、この相違がよく理解できない。

参考サイト: リスト 管弦楽曲 ハンガリー狂詩曲(Kenichi Yamagishi's web site)

「音楽之友社1996年版作曲家別クラシックCD&LD総目録」によれば、・・・「第2番S359-4」にはリスト&ドップラー版(嬰ハ短調)の他に、ドップラーが単独で編曲した版(ニ短調)、カール・ミュラー・ベルクハウス版(ハ短調)など別の編曲もある。それぞれ調が半音ずつ違うのだが、その表記も間違っていたりするので困ったものである。

果たして、オーケストラ編曲は3種類あるのだろうか? ドップラー単独編曲というのがあるのか?

Wikipedia English ではこの曲の項目が立てられており、フランツ・ドップラーがリストに協力した編曲のことは書かれている。

Composed in 1847 and dedicated to Count László Teleki, Hungarian Rhapsody No. 2 was first published as a piano solo in 1851 by Senff and Ricordi.

Its immediate success and popularity on the concert stage soon led to an orchestrated version, arranged by the composer in collaboration with Franz Doppler, and published by Schuberth.

この記述によると、上記(2)の出版社は Schuberthであるのは合っているが、出版の時期が1875年ごろとされているので、1847年に作曲されて好評につき直ぐにオーケストレーションが行われたという記述と食い違うようなので、一層混乱に拍車が掛かるような感じだ。

フランツ・ドップラー(Franz Doppler,1821-1883) は、「ハンガリー田園幻想曲」(Fantaisie Pastorale Hongroise, Op.26)の作曲者として知られるハンガリー生まれの音楽家。

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◎Youtubeでの確認:

◆上記の(3)に該当する可能性のある「嬰ハ音」で始まる編曲を以前Youtubeで見つけたが、今はリンク切れ。 (残念ながら演奏者情報はなかった)。編曲は(1)と似た感じだったが、嬰ハ音開始という点から、これが上記の(3)の編曲にあたるものだろうかと考えたのだった。

◆ この動画はD minor と書かれているが、実際はハ音で始まる。
冒頭がトランペットとは異なる金管楽器で奏でられるなど(1)のミュラー=ベルクハウス版とは異なるし、(2)のドップラー版のニ短調の編曲とも異なる。

編曲者は誰か?

Conductor: Andras Korodi,Orchestra: Budapest Symphony Orchestra (2005 Capriccio)

◆2019/2/16追記 数種類 ニ短調表記のものが登録されている。

https://www.youtube.com/results?search_query=liszt+hungarian+rhapsody+2+in+D+minor

これは、(2)のシノーポリ盤と同じ編曲。ニ短調。
Matyas Antal指揮Hungarian State Symphony Orchestra,

 

◆これは、マズア指揮ゲヴァントハウス管弦楽団によるもので、(2)編曲版。ニ短調と明記されている。

◆Sidney Torchという人の編曲におる珍しいバージョン。
  Barry Wordsworth BBC Concert Orchestra

◆Peter Wolfによる(?)弦楽合奏版。ホ音から開始。
  Franz Liszt Chamber Orchestra

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追記:2012/04/22、一部変更2019/2/16
アクセスを見ると この記事を見ていただいたようだが、そのリンク元がどうやらこれらしく、少々複雑な気分だ。(Wikipediaの記載も改善されていた。)

ところで、この記事を書いた後、音楽関係のブログのリンクを張らせてもらっている アマオケホルン吹きの音盤中毒日記 さんに 2007年9月 9日 (日) リスト、ハンガリー狂詩曲オケ版の混乱という同様の内容の記事があったのを見つけていたので、こちらを参照されることをお勧めしたい。

その後少し調べてみたが、ミュラー=ベルクハウス版のポケットスコアは、全音から出ているようだ。(2019年現在は、IMSLPで参照可能)
http://www.zen-on.co.jp/disp/CSfLastGoodsPage_001.jsp?GOODS_NO=23031

リストの代表的な名曲《ハンガリー狂詩曲第2番》の管弦楽版スコアです。
弦楽器の深いユニゾンの音で始まるこのミュラー=ベルクハウス編曲版は、カラヤン、ストコフスキーなど往年の著名な指揮者たちが使った演奏効果の高い大変魅力的な編曲です。
これまで耳にする機会が多くても編曲者の実体を含めて謎の多かったこの編曲版が、詳しい解説を伴い、整理された新しいスコアで出版されます。

《ヘルベルト・フォン・カラヤンのリスト演奏史》総覧 にも、編曲版について触れられていた。

本記事で紹介したシノーポリ盤については、ユニバーサルミュージックの公式ページ(2019年リンク切れ)に以下の紹介があった。 

リスト:ハンガリー狂詩曲 第2(4)番 S.359の(管弦楽編曲:フランツ・ドップラー)

2019年2月現在のDeutsche Grammophonの公式カタログ 情報では、以下の通りで、嬰ハ短調と記されているが、やはり、冒頭は、嬰ハ音やハ音ではなく、二音で開始されているのは間違いない。

Composer: Franz Liszt (1811-1886), Composer

Title:Hungarian Rhapsody No. 2 in C-Sharp Minor, S.244/2

Artists:Wiener Philharmoniker, Orchestra

Giuseppe Sinopoli, Conductor

Recording date:October 1996

Live / Studio:Studio

Recording Location: Grosser Saal, Musikverein, Wien, Austria

また、この録音について、UKのグラモフォン誌のレビューでは、ニ短調とされていて、ドップラーの管弦楽編曲についてのクレームが書かれている。

but Doppler’s restless orchestration changes colour with alarming frequency and plays havoc with Liszt’s original.

(しかし、ドップラーの落ち着きのないオーケストレーションは、驚くべき頻度で色を変え、リストのオリジナルに被害を引き起こします。)

ドップラー単独の?編曲版の楽譜もあるようだ。
http://gakufu.shop-pro.jp/?pid=22944587

WIKIPEDIA 英語版の ドップラー の項には以下の記述があった。出典はどこだろう?単独編曲と共同編曲のことには触れられていない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Franz_Doppler

He is best known for the orchestral arrangements of six of Franz Liszt's Hungarian Rhapsodies published under his name. He was a student of Liszt, and Liszt set Doppler the exercise of orchestrating six Rhapsodies. Every single bar of these orchestrations was revised by Liszt upon publication, but he graciously allowed Doppler's name to remain on the title page.
ドップラーの名前は、その名前で出版されたリストのハンガリー狂詩曲6曲のオーケストラ編曲によってよく知られている。リストは生徒の一人であったドップラーに6曲の狂詩曲のオーケストレーションの練習をさせた。その出版にあたり、リストはこのオーケストラ編曲の各小節を校訂したが、出版譜の表紙にドップラーの名前を残すことを慈悲深くも許したのだった。

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