谷口江里也訳『神曲』 (ギュスターブ・ドレ挿絵)
先週の日曜日の朝日新聞の読書欄に掲載された建築家磯崎新氏のエッセイで、「スタンダール症候群」なる局地的な心理学的現象のことを知り面白かった。磯崎氏が、イタリアはフィレンツェのウフィツィ美術館の改装工事のコンペの際?に、突然気が遠くなって、市内の病院に運ばれて治療を受けたときに、地元の医師が診断を下した「病名」ということだ。
初めからスタンダールと言っては身も蓋も無いが、スタンダールがフランス軍の士官としてフィレンツェに駐屯したときに、罹患した症例からそのように呼ばれるようになったのだという。日本でならば、恐らく飛鳥、奈良、京都などでそのような症例が発する可能性もあるのではなかろうか?
フィレンツェという、ルネサンスの女王である都市に身をおくことは、感受性の強い芸術家にとっては、それほど刺激が強いものらしい。
昨年、7月にこの抄訳版が本屋の棚にあったのを見つけて、手にとってみたところ、ドレの線画が素晴らしく、また訳者の抄訳もこなれた日本語になっていて分かりやすかったので、購入した。
学生時代、岩波文庫の格調高い古風な山川丙三郎訳で躓いて以来、La Divina Commedia には近づきがたい思いをしていたのだが、この本でようやくこのフィレンツェの生んだ大詩人ダンテ・アリギエリの傑作の冒頭を少しかじるだけでなく、クラシック音楽でもよく知られたエピソードを含む全体像の概観に触れることができて、感激した。
マーラーの第10交響曲の「プルガトリオ」は、この神曲の第2編の煉獄篇(Purgatorio)に由来する。また、チャイコフスキーの「フランチェスカ・ダ・リミニ」は地獄篇に登場する。
ダンテは1265年にフィレンツェで生を享けたが、後追放され、ラヴェンナで1321年に客死した。フィレンツェ・ルネサンスの黄金時代であるレオナルドは1452年に生まれ1519年に死去しているし、ミケランジェロ(1475-1564)、ラファエロ(1483-1520)なども同時代で、それに先立つこと約200年前の人物ということになる。
フィレンツェのサンタ・クローチェ教会(聖堂)には、ダンテの記念碑もある。旅行で訪れたときには、ウフィツィ美術館で時間を費やしたため、この聖堂の見学はあまりできなかったが、その前の古式サッカーが行われることでも知られる広場に面したジェラート屋で、ピッコロな(小さい)ジェラートが美味かったのを思い出す。
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