伊藤計劃『虐殺器官』(ハヤカワ文庫 JA984)、『伊藤計劃記録』(早川書房)、『ハーモニー』(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
2010年は、ガラパゴス携帯不況の日本でスマートフォンの普及がこれほど急速になるとは思われなかったための勤務先の再編もあり、4月から9月までの期間、長年通いなれた通勤経路より、倍以上かかる勤務地で勤務していたこともあり、生活のリズムも変わり、ブログでの投稿は大幅に減ったが、その間特に読書に相当勤しんだ。
しかし、ブログの下書き記事としては、タイトルの入力はしても、記事を書き起こす気力が湧かずにそのままにしていたものが多かった。
昨年10月からの再度の勤務先変更からようやくリズムも落ち着いてきたので、その当時記事にしようと思っていたものを、前回の『神曲』から少しずつアップしてみようと思っていたが、なかなかそうもいかなかった。
伊藤計劃の『虐殺器官』は、確か2009年の6月日曜日の朝日新聞の書評欄で紹介されていた。最寄の書店に話題作ということで平積みされていたのを覚えていて、ものは試しと購入した。タイトルが禍々しいと思いながら。
画期的な近未来小説だった。英米の作家の翻訳と言っても通用するような作品ではなかろうか?別に英米作家の方がどうだと言っているわけではないが、言語的に日本語で書かれているが、内容的には西洋文明圏ならばどこでも受け入れられるような内容だと思った。バルカン半島やアフリカ諸国の紛争は、この小説が予言的ではなかったとは言え、蓋然性的なものは相当高いと感じた。
続編的で絶筆的な完成作の『ハーモニー』は、比較的日本を舞台や登場人物に使ってはいるが、それでもグローバルな広がりをもった近未来小説だった。
夭折したこの小説家の残した記録をまとめたものが、『伊藤計劃記録』(早川書房)だが、未完の小説やネットのホームページの映画評などがまとめられていた。『虐殺器官』のあとがきに、作家のご母堂が作家の最後を淡々とつづっているが、とても印象的な最期だった。
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