吉村昭 『ポ-ツマスの旗』 (新潮文庫)
昨年12月の中旬、同じ著者の『海の史劇』を読んだ後、購入して読んだ。
日露戦争は、日本海海戦での勝利は圧倒的で華々しく、陸軍戦では奉天開戦に勝利はしたが、依然としてロシア帝国首脳の戦意は衰えず、ロシア国内の革命の動きが無く、戦争が継続していれば、講和そのものが成り立たないほど日本は追いつめられていた。
当時の政府首脳は、対露の講和交渉を有利に進めるためにも、国民に日本財政上、軍事上の苦境を明らかにできず、何も知らず、何も知らされていない日本国民は、東大の教授陣を初めとして、ロシアに対して領土割譲、多額の賠償金の要求をするよう日本政府に求めるほどだった。
その苦境の中、かろうじて日露講和を成し遂げた小村寿太郎という外交官の苦闘の半生を描いた歴史小説がこの『ポーツマスの旗』。この小説自体、かつてドラマ化もされたが、昨年末に最終回を迎えた数年掛かりの歴史ドラマ『坂の上の雲』では、小村寿太郎を竹中直人が演じて深い印象を残したわりには、原作自体が講和条約までを詳しく書かなかったこともあり、日露講和の過程はこのドラマではあっさりと流されてしまった。
そのこともあり、今回も補足として吉村昭のこの著名な作品を初めて読んだのだが、その迫真的な面白さに正直参ってしまった。ここに外交交渉というものの典型が描かれ、当時の日本政府によるロシアかく乱のための革命援助が描かれ、ヨーロッパの第三国での外交の機密情報の虚虚実実の奪い合いがあったりで、まったく事実は小説よりも奇なり(これも小説ではあるのだが)を実感した。
吉村昭の作品は、読むたびにそのすごさを思い知る。
2006年10月に記念艦三笠を見学した折に撮影したポーツマス条約の署名のレプリカ。左にロシア全権のウィッテ、右にJutaro Komura の文字が見える。
関連記事:
2011年12月 5日 (月) 吉村昭『海の史劇』(新潮文庫)
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