大河ドラマ『平清盛』は面白いが、視聴率が低いとは?
土曜日の天声人語欄に、梅と桜の開花期の話が載っていた。新潟育ちの堀口大學と岩手育ちの石川啄木を引いて、春は南から北へ移るにつれて開花期の差が小さくなるというような話題が書かれていたが、春はそのように緯線を上るだけではなく、等高線も上っていくことを書いてほしかったのは、信州生まれの感覚だろうか。標高の高い土地の多い信州では、春は下界の方から次第に上ってくる。
さて、テレビの視聴率ほどあてにならない数字はないのではと思うがいかに。この数字、何やら大層な権威を持たされ、通常はテレビに批判的なはずの紙媒体のマスコミも その信頼性にメスを入れることなく、相も変わらず紙面に視聴率ランキングを掲載している。
その視聴率が低いという理由で不調という形容詞付きで語られることが多いのが、2012年の大河ドラマ『平清盛』だが、私には十分面白い。
昨年の「江(ごう」は歴史ドラマとしてだけでなく、脚本、演出、演技自体の水準が低かったと思うが、今年の大河に面白さを感じない場合には、別の理由があるのではないのだろうかと思ってしまう。開始当初に兵庫県知事が画面が汚いとかのたまって、観光に支障が出るとかわけのわからない発言をしたが、贔屓する者にとっては、どうも『清盛』には偏った批判が多すぎるのではなかろうかと感じる。
清盛が大河で主要登場人物として登場したのは、はるか昔の『義経』、『新平家物語』、近年では『源義経』などだろうが、今回の大河は、主人公を美化しすぎる最近の大河の底の浅さに比べて、その点の不満も少なく、多面性のある人物として描かれている。
少し薄汚い風体だが活力に溢れた清盛や周囲の平家武者、源氏の武者たち。それをとりまく平徳子や頼朝の母、常盤御前などの女性たち、のちの西行法師の佐藤義清や、白河法皇、鳥羽上皇、崇徳天皇、待賢門院などや、保元で対立する藤原摂関家の面々、のちの信西等々、一癖も二癖もある多士済済たる登場人物たちの絡み合いが面白い。
この少々複雑な人間関係ドラマが、平家物語の前史である保元物語、平治物語の筋を知らない非歴史好きには把握しにくいのかも知れないが、これらの人々が引き起こす保元平治の乱こそ、親子兄弟を巻き込んだ複雑な悲喜劇であり、これこそ平家物語に至る助走(序奏)だったわけで、このあたりの描き方は実に面白く、毎回楽しみにしているところだ。
このように重要な登場人物が多いため、枝葉末節を整理しての単純化が難しく、分かりにくい面もあるかも知れないが、全体の4分の1が経過した最近までは、それでも助走的・状況説明的な部分であり、これからの清盛の活躍が本番だろう。(追記2012/04/29 源義朝の弟で、木曽義仲の父である源義賢が登場し、為義から源氏の家宝である太刀を譲りうけた。これがのちに、義朝の長男である悪源太義平との紛争の元になるのだろう。まだ為朝は未登場のようだし、この辺りになると登場人物がどのように取捨選択されるのか気になるところだ。)
かつて、俳優陣や脚本家、演出家には、視聴率が低くても、視聴者の評価が高く、番組終了後のDVDセットの売れ行きがよかったという朝ドラ「ちりとてちん」のような例もあったことだし、これら関係者にはめげずに最後まで質の高いドラマを作ってほしいものだと、律儀に受信料を払っている「視聴者にみなさん(皆様でないところがNHK的スタンス)」の一人からのお願いである。
関連記事:
2005年1月17日 (月) 大河ドラマ 「義経」を見始める
追記 2012/04/28:
このような記事を書いたから余計そう思うのだろうが、このところあちこちでこの番組の低視聴率と、「いや面白い」というような意見を見たり読んだりするような気がする。特に下記のURLでも挙げた朝日新聞の「低視聴率」特集(4月21日)がきっかけになっているような気がする。この記事についてはいろいろと問題があるようで、これもひとつの朝日的バイアスだろう。およそ、マスコミの識者、街角コメント・インタビューは、ある編集方針のもとに都合のいい部分だけを切り取り編集して公表されるもので、他人の褌的なマスコミの程度を示すものの典型だと思う。
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2012/04/28/kiji/K20120428003135950.html
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/donna/20120427-OYT8T00654.htm?from=os4
http://www.asahi.com/culture/update/0421/TKY201204210140.html
http://1000nichi.blog73.fc2.com/blog-entry-1712.html
http://jidaigeki.no-mania.com/Entry/102
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