バーンスタイン マーラー交響曲全集(大地の歌含まず) 旧盤 2009年リマスタ
マーラーの使徒であったレナード・バーンスタインが1960-1970年代にCBS(現ソニー・クラシカル)に録音した交響曲集の超廉価BOX(12枚組。一般価格4,085円で、割引価格は2,190円ほど)が最近発売され、購入した。
パッケージは、2007年にHYBRID-SACDで発売されたときと同様のLPを模したジャケット仕様で、裏面のライナーノートも拡大鏡でなければ読めないほどの縮小具合だが、スキャンして拡大してみればきっと読めるだろう。CDのレーベル面もLPレコードの盤面を模倣したもの。デザイン的にはとても凝っているものだ。ソニーは、グールドのCDでも同様のパッケージのものを発売していて1枚所有しているが、一枚ものでは扱いにくかった。Boxの場合には扱いやすく個性的であり、LPレコード時代のジャケットの芸術的な試みを忍ぶにもよい試みだと思う。
さて、HMVの情報を眺めると2009年にもBOXで全集が発売されているが、今回のものとの相違は、2009年に含まれていたイスラエルフィルとの「大地の歌」とグスタフ・マーラーの思い出(語り:ウィリアム・マロック)が今回のものには含まれず、その代わりなのか、「亡き子を偲ぶ歌」(録音:1974年) ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ) イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 が収録されている。ただ、第5番のジャケットは、オリジナルの名残か収録されていない歌曲集も表記されているが、このCDには実際には収録されておらず、LP初出時の完全な再現にはなっていないのが惜しいかも知れない。また、7番の裏面のライナーノートは省略されている。
HMVサイトによれば、今回のBOXは2009年にアンドレアス・マイアーによってDSDリマスターされた音源を使用ということで、時系列的に先に分売で発売された2007年のHYBRID-SACDや、2008年のBlu-specCDとはリマスタリングが違うのだろうが、2009年のBOXとは異なるのだろうか?
先日読んだ、小澤征爾と村上春樹の対談集では、小澤がバーンスタインの副指揮者だったときに、彼のマーラー演奏の一部始終を見聞きして強い影響を受けたことを語っていた。当時の楽壇では、マーラーは現在のように人気のある作曲家とは言えず、世界的にもバーンスタインをはじめとした一部の指揮者だけがマーラーを積極的に取り上げていたに過ぎなかったことはよく言われることだが、小澤の証言でもバーンスタインのマーラー熱はよくわかる。今回の集成は、その当時のものというわけだ。
バーンスタインのニューヨークフィルハーモニックの音楽監督時代のマーラーは、使徒的な使命感に満ちたものではあっても、後年の欧州での演奏ほどは優れたものでは無かったともいわれるが、果たしてそうだろうか、というのがこのBOXを聴いての疑問だ。
別に、近年のマーラー演奏を熱心に聴いたり、バーンスタインのDGGへのマーラー録音やライブ録音に多く触れているわけではないので、半可通の戯言ではあるのだが、これまで聞いてきたマーラーの録音に比べて、若きバーンスタインのマーラーはすごく面白いように思う。マーラーに慣れていなかった当時の聴衆向けに分かりやすく演奏したとも言われることもあるようだが、果たしてそうなのだろうか?
リマスタリングのせいか、録音も非常に鮮明だ。1番の冒頭のフラジオレットも霞むことなく、スーッと聞こえてくる。その分、少々低音が物足りないように聞こえることもあるのだが。
まず2曲の簡単な感想。
4番は、グリストの声質がフィガロのスザンナ的なスーブレットのようにお茶目な雰囲気なのは、評論家の宇野功芳氏が褒めそやすようには感心しなかったが、それでもこの録音も絶えずオーケストラからの楽音以外の楽員が立てるノイズ(?)が聞こえるほど鮮明なものもあいまって、音楽の実質がたっぷり詰まった感じの音楽を聴いた実感がある。なるほど、これを聴くと、同じ時代のクーベリックとバイエルン放送響の録音が素直で上品なものに聞こえる。
5番は、第5楽章が面白かった。特にコーダでのブラスの強調は、マーラーのいわゆる分裂性(対位法的ではなく、同時に無関係なモチーフやメロディが重なり合う様子)がよく示された感じを受けた。冒頭のトランペットはアメリカのオケにしては少々頼りない音ではあるが、現代のようなスマートな音が果たしてマーラーの求めたものだったのかというのはある。こちらも、クーベリック盤をよく聞いていることもあり、バーンスタイン盤の波乱万丈さに圧倒される感があり、そこがまた面白い。
参考:
2009年BOX
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3560429
CD 12:・交響曲『大地の歌』 クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ) ルネ・コロ(テノール) イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 録音:1972年(ステレオ)
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