チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、第2番、第3番 ギレリス、マゼール/NPO
ギレリスのEMIボックスに収録されていたチャイコフスキーのピアノ協奏曲全集を聴いた。1970年代の録音で、マゼール指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(フィルハーモニア管が創立者のレッグが手を引いたため解散を余儀なくされ、自主団体として活動をしていた時期の名称)との共演。
有名な1番も含めて初めて聴く録音で、中でも2番、3番は作品の存在は知っていたが作品そのものを正対して聴くのはおそらく初めてだと思う。2番、3番にもこれまで興味はあり、ポストニコワとロジェストヴェンスキーの全集を聴いてみたいと思っていたのだが、これまで入手はできていなかった。特に3番は未完に終わった交響曲第7番の素材が用いられた(ブラームスのピアノ協奏曲と交響曲との関係と似ている)とのことで、そこにも興味があった。
まず作品として多くの異演盤で聴きなれた第1番だが、このCDでのギレリスのピアノは非常に雄弁で、少々攻撃的だと感じるほどの力強く荒々しいピアノ演奏を聴くことができる。この曲は演奏によっては、形式がはっきりせず、不必要に長過ぎ、また分裂した印象を持つこともあるが、このギレリス、マゼールの共演では、古典的な3楽章の協奏曲としての形式感が浮き彫りになった感がある。そこには有り余るほどのピアノ演奏技巧を以てしてのギレリスの挑戦的なテンポ設定が要因としてあるのではなかろうか。その一方では、抒情的な部分、ピアノの弱音が煌めくような部分ではその表現の幅広さも聞き取れる。
意外にも名曲名盤選などにはリストアップされることのない録音のようだが、アルゲリッチやリヒテルなどの「定番」的な評判を持つディスクに伍して、勝るとも劣るものではないように感じた。ただ、演奏の出来としては、マゼールとギレリスとの意思疎通が完全に図られていないように感じる齟齬も聞き取れ、そのあたりが惜しい。とは言え、一方ではそのような競い合いも興味深い。(リヒテル、カラヤン盤は両者の張り合いがよく指摘されるが、長年聴いてきても、指摘されるほど競い合っているようには聞こえないのだが。)
第2番ト長調は、第1番の人気に比べて、不当なほど無視されている作品のようだ。シロティ(ジロティ)によるカットが行われた版による演奏。(最近は、復元されたオリジナルによる演奏もあるようだ。)http://blog.goo.ne.jp/florian2896/e/9ad58eb0e6cc618e82851e89a8bbf570
別にこの曲が気に入って、その再評価に尽力しようという気持ちではないのだが、ざっと聴いてみての印象では、一般リスナーにとっても退屈な曲ではない。ピアニストにとってはどうなのだろうか?ピアニスティックな演奏効果が上がるパッセージなどもあるし、美しいメロディーもところどころで聴くことができる。主調は、ト長調なので、そのあっけらかんとした明るさが不人気の原因なのかとも勘ぐってしまうが。
http://blogs.yahoo.co.jp/jinichi3560/1505874.html
http://ameblo.jp/anator/entry-10200059197.html
第3番は、作曲途中で放棄された「変ホ長調」交響曲(のちに補筆完成され、第7交響曲「人生」という名前で呼ばれることがある)の素材を生かすために作曲された特殊な経緯と形式の協奏曲。これはユニークな形式の曲なので、また別に書いてみたい。
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