リーダーの決断 (滋賀県 大津市長)と『沈黙の町で』の終了
梅雨が明けた。
http://book.asahi.com/special/okudahideo.html
奥田英朗という小説家の『沈黙の町で』が2011年5月7日から朝日新聞の朝刊で連載され、2012年7月12日に終了した。時間も当事者視点もジグザグを繰り返しながら、ある町で起こった中学生に関わる事件(ある男子生徒が転落事故で死亡し、それがいじめによる自殺と推定されて容疑者と目された中学生たちが逮捕された)を巡る人々を描いていた。一つの事実を巡った「藪の中」的な内容であり、勧善懲悪的に溜飲の下がるような解決に至らない場面で、最後はあっさりと終了された。
さて、いじめ自殺事件でニュース報道の焦点となっている滋賀県の県庁所在地大津市の市長(越という若い女性の市長)が、当の中学校及び大津市の教育委員会のこの問題への対応を批判して、自殺した生徒の両親との和解と第三者による調査を決断した。この市長は、いじめ自殺事件が発生した当時は、まだ市長職についておらず、当選後つい最近まではこの決断にいたってはおらず、大津市の教育委員会側は、民事訴訟で「いじめのあった事実」の挙証責任は両親側にあるという冷酷な法理を突き付けていたことも報道されていた。全国的な報道の圧力もあったのだろうが、市長がそのように表明したことで、それまで両親からの事件としての捜査要請を蹴ってきた滋賀県警察も中学校、教育委員会の捜査に入ったという(これによって市長が指示した第三者による調査に困難をきたすようだが)。
リーダーには祭り上げられた調整型のリーダーと、上意下達型のリーダーがいるが、日本のリーダーはほとんどが前者であり、関係者の利害を調整しながら、ことが大きくならないように図る傾向がある。今回も当初は、中学校、教育委員会とも責任があることは明白でありながら、うやむやにして誰も責任を取らなくてもよいように動いていたのだろう。民事訴訟に見られた教育委員会の強気の姿勢には、警察が捜査しなかったことも背景にあったのかも知れない(教育委員会は家庭問題もほのめかしているが、数十万円もの金銭が使途不明で被害生徒が持ち出したのは、普通に考えれば恐喝ではないのだろうか?)。
これが、市長というリーダーの姿勢の転換によって一挙に覆った観がある。これまで、都道府県知事の国の決定に逆らえる意外なほどの権限がクロースアップされてきたが、市長の決断によっては、事態が大きく変わるということが分かった。今後、この女性市長には内部的にはさまざまな困難が待ち受けるのだろうが、自殺にまで追い込まれた生徒の無念を晴らすという正義が行われることは大きな意味がある。
特に警察署までもが加担している公務員層の裏金のような業務上横領事件の例のように刑事的にも民事的(自主的な返金、利息払いのことは聞いたことがあるが、損害賠償請求が起こされたことはあったのだろうか?)にもあまりにも正義が行われないことが、社会に大きな影響を与えてきた。明らかに悪いことがうやむやにされている。おそらく今回も、関係者の保身的な動機が事態解明の障害になったのだろう。
さて、この報道に影響されたかのように、陰湿ないじめの実態が報道され始めてきた。埼玉県では、いじめ自殺での民事訴訟に、いじめ被害者側の原告敗訴の判決が出された。今回の事件が契機になり、社会正義の実現の方向に梶が切られることを望みたい。
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