『保元・平治の乱 平清盛 勝利への道 』(角川ソフィア文庫) 元木 泰雄 (著)
大河ドラマ『平清盛』の脚本での多くの疑問が氷解するような微に入り細に穿つ本格的な歴史書で、たまたま書店で目について買ったのだが、得をした気分だ。
この日曜日は、福原(現在の神戸)の大和田の泊りの工事に関連して、若い頃からの盟友の瀬戸内海賊の頭領兎丸と、平家の密偵禿(かむろ)との悲劇的な関係を描写していたが、清盛の心境の変化があまりにも上滑りしていて、見ているのがつらいほどだった。何だかなあ、という感じだ。その一方で、「ちゃちな五条大橋」の上での遮那王(牛若丸)と弁慶との出会いの場面は、なるほどそういう描き方もあるかという感想を持つほど、わりと新鮮なものだった。
もともと、元木泰雄のこの著書は、NHKブックスとして2000年代初期に発行されたものだそうで、今回のドラマにも相当活用されたのではと思いきや、この本で描かれた清盛の平治の乱までの取り立てて主体性の無く、偶然が重なって政権中枢に上り詰めたという歴史解釈に反して、無理やりその時期の清盛を主人公に仕立て、そのライヴァルとして義朝を仕立てたところに、様々な綻びが見える結果となったのではないかと、思わせるものだった。
王家(法皇、上皇、天皇とその后)、王家側近の非摂関家貴族、藤原摂関家、台頭してきた武家(京武士、坂東武者)という勢力関係、さらに鳥羽院政が、嫡流の崇徳天皇を排除して、無理やり権威も勢力もない後白河天皇をショートリリーフとして即位させたことによって生じた院政の機能不全など、藤原氏の関係者が数多登場し、わかりにくいこと甚だしいのだが、このあたりを丁寧に描けば、一般受けはせずとも、相当面白い政治模様、人間模様が見られたのではないかと、読みながら思った。
なお、「平清盛勝利への道」は、この角川ソフィア文庫で復刊するときにあたって出版社が補したものと、筆者の断り書きで述べられていた。出版社側は、大河ドラマの関連本としての売り込みを図ったのだろうが、内容を必ずしも反映していない副題であり、この詳細な歴史書を安っぽくするように感じる。清盛は結果として勝利への道を歩みはするが、それは本当に偶然の積み重ねというのが、筆者の考えのようだ。
また、清盛が太政大臣に任じられ、位人臣を極められたのは、やはり白河院の庶子であることを当時の朝廷も藤原貴族たちも認めていたからで、そうでなければ、あり得ないという解釈が述べられていた。ただ、その清盛の影響力によるのだろうが、平家の一門が、それまでの例によらずして、次々に高官に任じられたことは事実であり、必ずしも家系重視の先例を破ることが、おそらく平治の乱以前の藤原信頼あたりから、すでにタブーではなかったということも考えられるように思う。
書かれている事実が複雑で、すんなりとは頭に入らないきらいはあるが、不可思議に感じていた保元・平治の乱の疑問を快刀乱麻を断つように解決してくれる好著だと思った。
実家から送られてきた秋の山の味覚 あけび
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