映画『アラバマ物語』
秋ゆえに陽射しは長し炎熱の部屋
DVD を見終えた。白黒映画ながら、リマスタリングがうまくいったのか、とても見やすい映像で、音声も良好だった。
まずは、少々辛口の批判から。法廷映画としての評価が高いと聞いていたのだが、構成の緊密さや迫真性の点では『12人の怒れる男』の方が優れていると感じた。世界大恐慌時代の合衆国南部のアラバマ州という背景を意識しない場合、つまり予備知識としていない、ストレートの見方では、法廷劇としては緊張感がそれほど感じられなかった。
ただ、しかし、当時の黒人差別を背景に考えると、プアホワイトの問題や彼らによる黒人のリンチ、白人が黒人の肩を持つことにより差別主義者たちからの村八分的な扱い(「黒人びいき」)や暴力までもがきちんと描かれ、それらの不正に、躊躇いも見せながら勇気をもって毅然と対決する誠実な弁護士一家の姿がくっきりと描かれていた。
今の日本からはあまりにも遠い世界の出来事にも思えるが、実際にはこの日本でも貧困問題、民族問題等、不正義が横行しているという現実がある。そういうことを考えさせる作品ではあった。
一方、法廷映画という視点を離れると、「スカウト」というニックネームのお転婆な少女(原作者自身がそのモデル)の目を通した、アラバマという田舎州の田舎町のある時代が、父親である弁護士(その妻であり少女とその兄の母親は死別)、家政婦の黒人女性、少女の4歳年上の兄や、カポーティがモデルの夏にだけ遊びに来る近所の同い年の少年、そして近隣に住む変わり者とのかかわり合いを通じて、一種の郷愁を伴った回顧編という側面も持つ。その変わり者との関係が、ある種サザン・ゴシック的な風味も加える。
先日の記事で書いたが、原作の "To kill a mockingbird" は、大ベストセラーであり、現在も20世紀を代表する小説の一つとしてみなされているそうだ。平易な英語らしいので、原書を読んでみたいものだ。
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