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2014年6月26日 (木)

ドレファミ音型

モーツァルトの「ジュピター」交響曲(第41番ハ長調K.551)のフィナーレのメインテーマとして用いられている「ドレファミ」の音型は、私のような素人耳には敢えてモチーフと言う事もないのではないかと思うほど、至極単純素朴なものだと思う。そうは思いつつ、現代人である私の人工音源由来の耳年増的な知識によって、この交響曲のニックネームに由来して「ジュピター音型」とも呼ばれているこの単純な音型が刷り込まれてしまっているようで、なぜか耳に入って来ることがある。

この音型は、モーツァルトの短く多作だった人生の様々な時代のいろいろな曲に使われていることでも知られているが、果たして意識的な利用だったのか、それとも無意識の所産だったのだろうか。

(モーツァルトのこの音型の由来をたどってみようと思いついたのは、こちらのサイトを見かけたときだった)
http://www.takahara-k.net/?%E3%80%8E%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%94%E3%82%BF%E3%83%BC%E9%9F%B3%E5%9E%8B%E3%80%8F%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6

以下は、このサイトから引用したもの:
交響曲第1番変ロ長調K. 16
第2楽章(主調はc-Moll)の7-10小節及び14-17小節に、反復を含めて4回、いずれもEb ホルンに現れる(従って記譜はin C)。現存する最初の交響曲であるこの曲に、最後の交響曲である『ジュピター』に現れる音型が既に用いられていることに、ある、宿命的な連鎖を感じる。

交響曲変ロ長調K.45b
 第1楽章の25-28、29-32、62-65、66-69、(70-73)、80-83、84-87小節のいずれもバスに。属調で3回、主調で2回、(不完全だが下属調で1回)、平行調で1回現れる。この曲の第1楽章は3/4拍子なので、音長は付点2分音符になっている。

(注:K.Anh.214 ケッヘル初版で「疑わしい作品」として付録 Anh.214 におかれていた。 のちにアインシュタインはパート譜をベルリンの図書館で発見した。 その表紙に「騎士モーツァルト」と書いてあることを鵜呑みにすると1770年以降のものとなるが、自筆譜がないので確かではない。 アインシュタインはパート譜の様式からケッヘル第3版で「1768年初頭以前、K45b」に位置づけた。 第6版でもその説が支持されているが、その後さらに早い時期(1767年、ザルツブルク)とする説も出ている。)

交響曲第33番変ロ長調 K. 319
 第1楽章の143-146、151-154小節に、また159小節から178小節までに連続5回で計7回、主としてヴァイオリンに現れる。属調(2回)、主調(2回)、下属調(1回)、他にG-Dur(1回)、C-Dur(1回)でも現れる。

(注: K.319 第1楽章の展開部では、4つの音符によるモットー「ド・レ・ファ・ミ」が、第143~146小節と第151~154小節に登場する。 それは形を変えてアンダンテの第44~47小節に、そしてメヌエット(第9~12小節)とトリオ(第1~4小節)にもあらわれる。)

交響曲第41番ハ長調K. 551「ジュピター」
 第4楽章の冒頭から始まって、圧倒的迫力で楽章全体を支配する。

ピアノ協奏曲第5番ニ長調 K175
 第1楽章の17~(主調で連続2回、バスに)、67~(属調で連続2回、第2ヴァイオリンに)、184~(主調で連続2回、独奏ピアノの左手及びヴィオラに)小節に、計6回現れる。この楽章には、反復記号は用いられていない。

 ピアノ協奏曲第12番イ長調 K414(385p)
 第1楽章の71-74、204-207小節に、いずれも主調で第1ヴァイオリンに現れる。但し、独奏ピアノが弾く第1主題の対位旋律になっているので、聞き逃し易い。

5つのディヴェルティメント ヘ長調 K439bの4
 K439bは3本のバセットホルンの為の、それぞれが5つの楽章を持つ5つの曲の集合体だが、その第4曲の第1楽章の5-6、9-10小節に、いずれも主調で現れる。ジュピター音型に対する他の声部の動きについては他にも触れている譜例があるが、この曲はその好例なので総譜の形で示す。なおこの楽章の後半にも前半と全く同じ形で現れるのだが、この部分、NMAの楽譜では省略記号(Vi-de)の範囲に含まれているので、演奏されない場合もある。

ヴァイオリンソナタ 変ホ長調 K481
 第1楽章の展開部になって初めて、105~(下属調で)、109~(属調で)、113~(平行調で)に連続して3回、いずれもヴァイオリンに現れ、さらに楽章の終わり近くになって、238小節から主調でもう一度、計4回現れる。この曲での現れ方は、他とは違った特徴を持っている。譜例は238小節からのもの。

ミサ曲ヘ長調 K192(186f)
 クレド楽章の冒頭、合唱の部分に譜例のように主調で現れてから、11-12(属調でソプラノに)、27-28(平行調でソプラノに)、29-30(平行調でバスに)、36小節からは、36-37(G-Durでテノールに)、37-38(属調でバスに)、38-39(主調でソプラノに)、39-40(下属調でアルトに)というように、2つの声部が重複した形で現れる。  以下の例示は省略するが、これまでに現れていない調が出現したり、110小節以後は、3つ目の音のリズムが付点4分音符+8分音符に変形し、4つ目の音は幾つかの音型に変形して現れる。最後の138-139小節は、譜例の3小節目からのように静かに終わる。 

(参考:このミサ曲についての自己記事 2011年9月 1日 (木) モーツァルト ミサ曲全集 ペーター・ノイマン&コレギウム・カルトゥジアヌム、ケルン室内合唱団

ミサ曲ハ長調 K257
 サンクトゥスの冒頭及び5-6小節の、どちらもソプラノに現れる。対応するバスの動きが少し違うので、譜例に併記する。

ディクシットとマニフィカートハ長調 K193(186g)
 マニフィカートの冒頭から頻発する。(譜例は冒頭のテノール、及び78~のソプラノで示す)但しこの曲の場合は、つねに幾らか変形した音型で現れる。

ヴェスペレ ハ長調 K321
 ディクシットのいずれもソプラノに3回、変形して現れる。51-54、76-79、84-86。ジュピター音型の変形の例として取り上げる。

教会ソナタ ニ長調 K144(124a)
前半に2回、後半に5回、それぞれ反復すると計14回、いずれも主調で、オルガンの左手及びバス楽器に現れる。

このほかに、
http://classical.log2.me/1296555945_600.html 変形型として弦四14番という指摘があり。

http://blogs.yahoo.co.jp/pdc02246/30226727.html

自分としても弦楽四重奏曲第14番のフィナーレ外せないように思う。

※なお、様々な引用の例として、ベートーヴェンの第九の歓喜の歌のメロディーがほとんどそのまま演奏されるモーツァルトの若いころの宗教曲Misericordias Domini K.222が知られているが、これなども何か由来があるのではなかろうか? このテーマもシューベルト、ブラームス、マーラーなどに変形引用されている?
http://homepage3.nifty.com/ongaku-no-chanoma/mozart.html

さて、この稿の目標は、個人用の備忘録であり、その曲目をYoutubeリンクで実際の音で確認できるようにすること。また、この音型の由来について、ウェブで確認できる範囲で、調べてみてその結果を記すこと。

自分が耳にした別の作曲家の作品(と言っても気づいたのはハイドンだけなのだが)としては、上記のサイトでも触れられているが、以前、ブリリアントのボックスで入手したアダム・フィッシャー指揮のハイドンの交響曲全集を通し聴きをしていたときに、調性は違うが(調性が異なっていても同じメロディーラインならば、共通性が分かるのは絶対音感が無いことの恩恵だろうか?)同じ「ドレファミ」が使われているのを聴いて、確証はないが、モーツァルトもこれを参考にしたのだろうかと思ったものだった。

ハイドンの第13番で、この音型が登場することは英語版の交響曲第41番のWikipediaにもきちんと指摘されていた。“the main theme of the contrapuntal finale of Michael's elder brother Joseph's Symphony No. 13 in D major (1764)”だそうである。
http://en.wikipedia.org/wiki/Symphony_No._41_(Mozart)

The four-note theme is a common plainchant motif which can be traced back at least as far as Josquin des Prez's Missa Pange lingua from the sixteenth century. It was very popular with Mozart. It makes a brief appearance as early as his first symphony in 1764. Later, he used it in the Credo of an early Missa Brevis in F major, the first movement of his 33rd symphony and trio of the minuet of this symphony.[5]The four-note motif is also the main theme of the contrapuntal finale of Michael's elder brother Joseph's Symphony No. 13 in D major (1764).)

ハイドン交響曲全集のリスニングは、結構以前の記録なのだが、当時の自分の耳には、以下の通り、前述の第13番以外にも、第24番、第53番、第55番にもジュピター音型が聞こえた。リンクのホグウッド盤でもう一度聞き直してみたところ、同じく聞き取れた。

         https://kniitsu.cocolog-nifty.com/zauber/2005/06/post_3c44.html

2002/4/4 Nr.94(驚愕)を聴く。(試し聴き)
4/5 Nr.103,104,101,102,99,100(ロンドンセットを試し聴き)
番号順に挑戦開始。
4/6 Nr.1~5 すでに練達の作品。Nr.6朝、Nr.7昼、Nr.8夕も面白い。
4/7 Nr.9~12 Nr.1~5に比べてむしろ古く感じる。3楽章形式、緩急メヌエット急とか。演奏には慣れてきた(耳慣れ)。しかしハイドンは初期の交響曲でも内容の充実度は、凡百の古典派を遥かに凌駕しているように感じる。
4/8 Nr.13 第2楽章がチェロ協奏曲風。その他の楽章もソロが入るなどユニーク。第4楽章ではジュピター音形が登場。フガート的な構成もモーツァルトの41番に良く似ている。

 https://kniitsu.cocolog-nifty.com/zauber/2006/03/_2_57f5.html

4/10(金)No.21-No.24再度聴きなおし。
No.21のメヌエットが「アイネ・クライネ」に似る。
No.22は「哲学者」と言うニックネーム。第1楽章Adagio のホルンがおもしろい。トリルなど。
No.24 のAdagio はFl協奏曲。
第4楽章はちょっとジュピター音型が出る。
No.25-No.29
No.25 三楽章。緩徐楽章なし。第1楽章の序奏は充実したもの。主部も充実。第3楽章これまたフガート的なフィナーレ。ハイドン愛好家は知っていたのか!
No.26 初めて登場した短調作品。「ラメンダツィオーネ」とは「悲しみ」のことか?モーツァルトの小ト短調的な作品。モーツァルトはこの作品を耳にするか楽譜を入手していたのではないかと憶測。第2楽章は長調。(No.27,No.28,No.29はコメントなし)

 https://kniitsu.cocolog-nifty.com/zauber/2006/11/post_0b60.html

◆2002年4月11日(木)CD8 No.30-No.33
No.30 『アレルヤ』 1st movement はバロックのシンフォニアのようにハイドンのトランペットで始まる。
No.31『ホルン信号』名の通りホルンが活躍。2nd movement はホルン入りの室内楽のよう。4thはフィナーレ風ではなくチェロのソロなどがあり。

 ◆2002年4月12日(金)
No.32 Cdur。  2nd mv.にメヌエットが来る。トランペット、ティンパニが目立つ。
No.33 もCdur。 急緩メヌエット急の標準的な順序。これもトランペットとティンパニが目立つ。フィナーレが「ヘミオラ」というのかリズム変更があり面白い。

 CD9 No.34-No.37
No.34 d moll。緩急メヌエット急。2曲目の短調作品?急は長調、展開が面白い。
No.35 Bdur。四楽章標準。ホルンが活躍。
No.36 Es dur。ながら聴き。(コメントなし。さすがに集中力が切れる)

 ◆2002年4月13日(土) CD10 No.38,39, "A", "B" (A,Bは調性ではなく、番号なしのあだ名のようなもの)
No.38 C dur。『エコー』というあだ名。このあたりのCdurはトランペットとティンパニが目立つ。
No.39 ト短調、g moll。シュトルム・ウント・ドラングの始まりか?
( "A", "B"のコメントなし。CD11 No.40-42も聴いたがコメントなし。)

 ◆2002年4月15日(月)CD12 No.43-45 全部ニックネーム付き。
No.43 『マーキュリー』というもの。由来は何か?あまりよく書けていない作品という印象。
No.44『Mourning』(嘆き) e moll ホ短調(ト長調の平行短調)第2楽章がメヌエット。このような短調作品の作曲経緯は分かっているのだろうか?アダージョは長調で透明な感じ。第4楽章は、焦燥感のある対位法的な曲。
No.45嬰へ短調(イ長調の平行短調)有名な『告別』(さよなら交響曲)。第1楽章はモーツァルトの小ト短調を彷彿とさせる。

 ◆2002年4月16日(火)CD13 No.46-48
No.46 展開部の動機労作(ママ)がよく分かる。第二楽章は短調色が強い。
No.47 第一楽章はモーツァルトのピアノ協奏曲の冒頭風の金管の信号音で軍隊調。第三楽章は牧歌風のメヌエット。
No.48 『マリア・テレジア』というあだ名。祝祭的でこれまでになく華やか。

◆2002年4月25日(木)CD14 No.49-51
No.49 f moll。" La Passione" 『情熱』か『受難』か?Ⅰがアダージョでいかにもシュトルム・ウント・ドラング的な楽想だ。Ⅳはモーツァルトの小ト短調を連想させる。
No.50 Cdur。トランペットとティンパニの壮麗な響き。メヌエットのトリオが鄙びたいい感じ。
No.50 Bdur。長調系だが陰りがあり繊細。Ⅱはホルン協奏曲的で高音から低音まで奏でられる。協奏交響曲か?Ⅳは平凡な曲想から一転して短調の激しい曲想となる。

◆2002年5月15日(水)、16日(木)CD15 No.52-54
No.52 c moll。Ⅰ提示部は切迫感のある楽想。モーツァルトの若い頃の曲よりもよほど充実。Ⅱは長調で長い。

No.53 Ddur。『帝国』テインパニを伴う荘重な序奏。ジュピター音型が出る。Ⅱはどこかで聴いた雰囲気の曲で、モーツァルトの魔笛のパパゲーノを思い出させるバリエーション。フィナーレは繊細な感じの曲調。
No.54 Gdur。この序奏も壮麗。

2002年6月13日(木)CD16 No.55-57
No.55 『校長先生』と名づけられたのは、第二楽章の少々堅苦しいアダージョのテーマのためだろうか?「びっくり」仕掛けもあり。メヌエットのトリオは弦楽四重奏風で、チェロが特によい。ここでもジュピター音型が!
(No.56,No.57 コメントなし) 

◆2002年7月17日(水)CD28 協奏交響曲B dur。Vn,Vc,Ob,Fg (No.91,92と同じCD)。
ハイドンにはチェロ協奏曲のほかには、よく知られたソロ協奏曲(Vn協奏曲はあり?)があまりないのはなぜか?
(No.91,92 コメントなし)
 

◆2002年8月24日(土) CD16の聴き直し。No.55のジュビター音型がまたコメント。No.56,57のコメントなし。

以前、音盤のライナーノートの楽曲解説、もしくはこのようなサイトhttp://www.yuko-hisamoto.jp/pnote/ceremore060422.htm(久元祐子氏のプログラムノート)で、この「ドレファミ」の音型がグレゴリオ聖歌由来のものだとの指摘を読んだ記憶があるのだが、今回改めて確認してみると、上記のWikipediaには、名指しでジョスカン・デ・プレのミサ・パンジェ・リングァに由来すると明記してあった。

"The four-note theme is a common plainchant motif which can be traced back at least as far as Josquin des Prez's Missa Pange lingua from the sixteenth century."

ジョスカン・デ・プレのミサ「パンジェ・リングァ」は、「パンジェ・リングァ」(中世の著名なスコラ哲学者、トマス・アクィナス作だという)という聖歌の旋律を元にしたために、そのようなニックネームが付けられたそうだ。このジョスカンのこのミサは、既にこのブログでも記事にしたことがあり、タリス・スコラーズのCDに収められているのだが、ミサの元になっている聖歌(英語ではPlain Chantと呼ばれている)もこのCDに収められている。しかし、近代的な変奏やライトモチーフなどとは違い、この聖歌のどの部分がどのように引用(活用)されているのかは、聴いただけでは自分には分からなかった。(パレストリーナのパロディーミサについても同様。何かコツがあるのかも知れない。)
https://kniitsu.cocolog-nifty.com/zauber/2006/10/post_022a.html

http://en.wikipedia.org/wiki/Missa_Pange_lingua

この解説によると、聖歌「パンジェ・リングァ」の第3ライン(節?)の「ドレファミレド」というテーマに基づいて、このミサ曲が作られており、その影響としてその後の様々な作曲家の作品が挙げられている。

Influence:Building on Josquin's fugal treatment of the Pange Lingua hymn's third line in the Kyrie of the Missa Pange Lingua, the "Do-Re-Fa-Mi-Re-Do"-theme became one of the most famous in music history.
Simon Lohet,[11]
Michelangelo Rossi,[12]
Francois Roberday,[13]
Johann Caspar Ferdinand Fischer,[14]
Johann Jakob Froberger,[15][16]
Johann Kaspar Kerll,[17]
Johann Sebastian Bach,[18]and
Johann Fux wrote fugues on it, and the latter's extensive elaborations in the Gradus ad Parnassum[19] made it known to every aspiring composer - among them
Wolfgang Amadeus Mozart, who used its first four notes as the fugal subject for the last movement of his Symphony #41, the Jupiter Symphony.[20]

注釈18のJ.S.Bach は、BWV878とのことで、平均律クラヴィア曲集の第二巻 第9番ホ長調のことになる。
これをモーツァルトが弦楽合奏用に編曲している!
https://kniitsu.cocolog-nifty.com/zauber/2006/10/js_3e87.html

http://blog.livedoor.jp/nadegatapapa-classic/archives/51766945.html

第3曲アダージョとフーガ(Adagio & Fugue) in E,K. 405/3 (after BWV 878)はゆったりとしたテンポの曲で、こうしたアダージョが明るく楽しめる音楽として成立したのは、モーツァルト以降のような気がする。それまでのバロック的世界では、アダージョは悲しく崇高な気持ちを表現する音楽が多かったのではないだろうか。

この第2巻第9番BWV878については、このような解説もあった。
http://blog.livedoor.jp/hjp0/archives/33106727.html

<第九曲ホ長調>
プレリュード
精緻な三声部書法の完全な見本と言え、前半・後半に反復記号を持つ
二部分形式のバッハの使用法を示す良い例である。
フーガ
四声部。柔らかな美しさを持つ曲で、J・S・バッハのクラヴィーア曲の中で
最もパレストリーナ様式に近い。グレゴリオ聖歌風の主題にふさわしく、
形式はモテット的に六つに分けられ、漸次効果を高めてゆくように
工夫されている。

改めて、BWV878 の楽譜を参照すると、フーガのテーマは、低音部から開始され 冒頭を移動ドで読むと、ドレファミレドとなっており、ドレファミの音型もリズムは違うが聞き取れないではない。

さらに、この第2巻第9番BWV878は日本語のWikipediaでは、このように書かれていた。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E5%9D%87%E5%BE%8B%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%A2%E6%9B%B2%E9%9B%86#.E7.AC.AC2.E5.B7.BB.28Zweiter_Teil.2C_BWV_870.E3.80.9C893.29

BWV 878 前奏曲 - 4声のフーガ ホ長調
5音からなるフーガ主題は、
ヨハン・カスパール・フェルディナント・フィッシャー(Johann Caspar Ferdinand Fischer, 1656-1746)の「アリアドネ・ムジカ(Ariadne musica, 1702)」のホ長調フーガからの引用[7]。

 ピアノによるフィッシャーとバッハの曲の比較演奏

参考:Fischer の Ariadne Musica 他の演奏

http://petrucci.mus.auth.gr/imglnks/usimg/f/ff/IMSLP205027-PMLP45354-Fischer_Ariadne_musica_PreludeFugue_8_Aboyan.pdf

そして、ドイツ語のWikipediaには、この曲の解説があり
http://de.wikipedia.org/wiki/Pr%C3%A4ludium_und_Fuge_E-Dur_BWV_878_(Das_Wohltemperierte_Klavier,_II._Teil)

Fuge
Wann immer von Bachs Ruckgriff auf den stile antico die Rede ist, wird zu Recht auf diese vierstimmige Fuge hingewiesen.[3] Das Thema stammt nicht von Bach, sondern geht auf uralte Traditionen zuruck. Es hat seinen Ursprung im Hymnus Pange lingua, findet sich unter anderem in der Missa Pange lingua von Josquin Desprez, in Ariadne musica von Johann Caspar Ferdinand Fischer, bei Johann Jakob Froberger und Johann Caspar von Kerll, und wird noch im Finale von Mozarts Jupitersinfonie eingesetzt.

ここではなんと、源泉としてパンジェ・リングァ聖歌へ遡り、モーツァルト「ジュピター」交響曲もピンポイントで指摘されていた!

なお、Fuxの対位法教科書「グラドゥス・アド・パルナッスム」は、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンもこれによって勉強したことが知られている。(この適切な音源は未発見)

さらに、このサイトには、このように書かれている。
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op1/k192.html

モーツァルトはこの音形を「意式的にも、無意識的にも好んだ」といわれ、声楽曲で、交響曲で、「およそ10回を越えて用いている、まことに重要なモーツァルト音楽の表徴のひとつである」と海老沢と言う。
しかも、それだけにとどまらない。 この「ジュピター音形」は、ただたんにモーツァルトの専売特許であったばかりでなく、実にさまざまな時代の、さまざまな作曲家によって、用いられているものでもある。 それは16世紀の巨匠パレストリーナのモテットやアレッサンドロ・スカルラッティのミサから、バロック音楽の代表者バッハの『平均率クラヴィーア曲集』第2巻ホ長調フーガ、ヘンデルのオラトリオ『マカベアのユダ』第3幕「天の父よ」、さらにモーツァルトの師にして友であるハイドンの『交響曲第13番ニ長調』第4楽章から、ベートーヴェンの『ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調(月光)』(作品27の2)第2楽章トリオシューベルトの『ミサ ヘ長調』(D105)「クレード」メンデルスゾーンのオラトリオ『聖パオロ』第30曲二重唱(注:Youtube表記ではNo.31 対訳: No.30)にも及んでいる。
(中略)
この音形が、時代を越えてヨーロッパ音楽の中に根ざす象徴的な音形であるということになるだろう。
[海老沢] pp.19-20

この海老沢敏氏の著書は読んでいるのだが、上記のWikipediaが挙げていた様々な音楽家以外の著名作曲家についても指摘してあったことは記憶がなかった。なるほど、ベートーヴェンの月光の第2楽章のトリオは、リズムこそ違え、合致するようだ。

なお、ドレファミを テトラコルドと見ている意見もあった。
http://www.geocities.jp/derkoeniginthule/

ルネサンスの頃からしばしば用いられたテトラコルドによるソジェット「ドレファミ」を、作品を貫く一本の線とし、全体の調設計もそこから導き出した。

さて、ここまでくれば、既に当初の目的はほとんど果たせたようなものだが、翻ってまずは自分の目で後追いをして確認してみよう。

Pange Lingua の歌詞
http://en.wikipedia.org/wiki/Pange_Lingua_Gloriosi_Corporis_Mysterium

①Pange, lingua, gloriosi
②Corporis mysterium,
③Sanguinisque pretiosi,
④quem in mundi pretium
⑤fructus ventris generosi
⑥Rex effudit Gentium.

まず、「パンジェ・リングァ」という聖歌の楽譜は、ネウマ譜ではないが、少々読みにくい楽譜をimslpで見ることができる。
http://imslp.org/wiki/Pange_lingua_gloriosa_(Gregorian_Chant)

http://haa.cocolog-nifty.com/main/2009/05/post-1637.html

こちらの楽譜では、Wikiの解説の

"Building on Josquin's fugal treatment of the Pange Lingua hymn's third line in the Kyrie of the Missa Pange Lingua, the "Do-Re-Fa-Mi-Re-Do"-theme became one of the most famous in music history."

にあるように 、third line (第3段目)「Sanguinisque pretiosi その血は、この世の代価として」に付けられた音符をト長調の移動ドで読むと、
「ドレファミ」と確かに読めた。

(ちなみにモーツァルトの有名な「Ave Verum Corpus」の「Sanguine」(血)の箇所 には、似た音型が付けられているわけではないので、聖句の意味に対応した意識的な音型ではないことが推定される。)

そして、ジョスカンのミサ「パンジェ・リングァ」の楽譜 キリエ章の中の Christe Eleison の部分がこれに該当するようだ。
http://imslp.org/wiki/Missa_Pange_lingua_(Josquin_Desprez)

一応これで、「ジュピター音型」の源流は、J.S.バッハやジョスカン・デ・プレを通じて聖歌「パンジェ・リングァ」に遡り、彼らを通じてモーツァルトに受け継がれた様子が概略ながら記述できたことになるだろうか? 

ただ、「ドレファミ」というモチーフ(音型)があまりにも単純過ぎるし、モーツァルトの幼年期のジンフォニーには「偶然に」登場したという可能性も否定しがたいので、自分自身はあまり納得していない。この音型が、「怒りの日」の旋律のように聖句的な意味内容を伴ってある種の記号(パンジェ・リングァではSanguine に関係するのでたとえば「受難」のような記号)として用いられたという具体的な事例が集められたのならばそれなりに意味があるのだろうが、単純な音型の共通性だけでは、偶然性が排除できないと思われるので、一連の連関の信憑性がどの程度あるのかは判断ができない。

バッハの数字的、象徴的な解釈学が、主観論に陥ったということを思い出してしまうというのは言い過ぎだろうか?
http://glennmie.blog.so-net.ne.jp/2009-12-03

なお、余談だが、この曲を調べていたら、先に「ミサ・パンジェ・リングァ」のCDの記事で触れた皆川達夫氏が書かれたこの曲の解説を見つけた。この西洋の中世ルネサンス音楽研究の先駆者が、自ら結成した合唱団のプログラムノートとして書いたものだが、聖歌パンジェ・リングァとミサの音楽的な関係(ジョスカンの緻密な技法)が簡潔に分かりやすく解説されていてためになる。
http://www.yk.rim.or.jp/~guessac/text_48_04.html

同じサイトにこの学者の簡単な自伝があるのを見つけた。これがとても面白い。

http://www.yk.rim.or.jp/~guessac/medtop.html

以下は参考情報:
Hymn
http://en.wikipedia.org/wiki/Hymn

イムヌス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%83%8C%E3%82%B9

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