初ミューザ川崎シンフォニーホール
7月13日(日)14時開演。指揮者:ユベール・スダーン、ピアニスト:イリヤ・ラシュコフスキー 、管弦楽:東京交響楽団。 (名曲全集第99回)
曲目:ムソルグスキー「モスクワ川の夜明け」、ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番、リムスキー=コルサコフ「シェエラザード」
2004年開館で、今年満十周年になる音楽専用ホールだが、これまで開館直後に見物に行ったことがあったが、2011年の大震災でホールの天井が落下(手抜き工事の疑いがあったという)し、その後改修工事が進められ、ようやく最近(昨年4月に)再開館した。
長男の誕生日プレゼントでその日前後のN響や新日フィルなどのコンサートがいくつか候補に挙がっていた。ミューザ川崎に興味があったこともあり、1曲目を除いて有名曲過ぎるプログラムだし、ピアノ協奏曲は2年前聞いた曲だということはあったが、チケットもローソンで取得でき、聞きにいってきた。
予約できた席は2階席で、舞台正面客席側から見ると右手(いわゆる上手)の奥側、つまり舞台を右袖上部から見下ろすような席だった。以前別のホールの同じような二階桟敷席でツィメルマンのリサイタルを聴いたときに、音は上に昇ってくるという性格が実感できて、音の素晴らしさが堪能できた経験もあったが、それでも初ホールではどのような音が聴けるか少々不安だった。
管弦楽、協奏曲、ホールの響きを満喫できた。
オランダ出身の指揮者スダーンは、東京交響楽団の音楽監督を長らく務め、近年名誉指揮者に退いたそうだが、いわゆる手兵だけのことはあり、指揮とオケともまったく遺漏が無いほどの安定感で、前回聴いたプロオケの神奈川フィルとは違い、ヒヤヒヤしながら聴くような精神衛生に悪い聴き方をしないで済んだ。それに加えて、若手の生きのいい男性ピアニストとの協奏、競奏が凄かった。やせ形長身イケメンピアニストだが、馬力は凄く、猪突猛進的な速いテンポを取る箇所もあったが、オーケストラとの齟齬が生まれることはなく、一体となった音楽は凄かった。
スダーンは、とても知的な指揮者らしく、ラプソディックにやろうとすればそうできるピアノ協奏曲を、折り目正しく形式を明らかにしていたし、ピアニストもその土台の上に乗っての驀進だったので、破たんも無かったのだろうと思われる。難所と思われるピアノとオーケストラによるフガートの部分では、アンサンブル的な要素がピアニスト、指揮者、オーケストラから感じられた。正面から鑑賞するだけでは分からないが、側面から見ると、指揮者と楽員特に木管、金管、打楽器奏者との距離は結構あり、そこで指揮者は身振り手振りと視線で奏者と会話し、奏者もそれに応え、また奏者間での楽想の受渡しなども目に入ってくるのが面白い経験だった。
「シェエラザード」は、いい言葉ではないが、「通俗名曲」として遇されることの多い曲で、ディスクでもそれなりに聞いてきてはいるが、少し食傷気味であり、新たな発見などないような印象をいだいてい今にいたっているが、今回初めて聴いた実演によって、意外に「深い」音楽なのかなという印象を持った。
PCでのデータ再生などのとても安易なリスニングでは、途中で飽きれば停めてしまうようなことが当たり前で、若いころに「入門曲」として聞いたような「名曲」はライブラリに入っていてもあまり熱心に聴くこともなくなっているのだが、こうして自前でお金を払ってのコンサートでは、周囲のリスナーたちにも気を遣いながら、最後まで集中して聴くことが常なので、聴きなれたと思い込んでいる曲の意外な魅力を発見することもあるように思う。ソリスティックな楽器の扱いはもとよりアンサンブルにもリズムや楽想の変化が激しく、相当の練度が求められる曲であり、なかなかの難曲だと感じた。
以下素人考えの開陳で気が引けるが、この交響組曲は、作曲者は交響曲として聞かれることも想定していたとはいえ、「動機労作」のような楽想の「展開」が乏しいように感じる。そのため、構成がやや平板で、聞き飽きるのではないかと思うのだが、集中して聴くと、主要モチーフのシャリアール王とシェエラザード以外のモチーフも引用、再現が行われ、終楽章では複合的に組み合わされ、大団円と穏やかな終結を迎える。
千一夜の「うたかたの夢」が豪奢な絨毯や宮殿、波瀾万丈の物語などをちりばめながら、虚空に消え去っていくようなイリュージョンを見せられるかのようだった。
リムスキー=コルサコフが、どれだけエンターテイメント性と芸術性について意図したのかはよくは知らないが、華麗な音の絵巻とだけ評して敬遠するだけがこの曲への接し方ではないように思えた。
コンサートマスターは、名物コンミスの大谷さんではなく、若手の男性だった。シェエラザードのソロは美しかった。ホールトーンがとても効いていた。コンサートマスター的にも微妙な音程が難しいソロとアンサンブルの要として、なかなか大変な曲だっただろうと思う。
公演は、土日などの休日に行われるマチネーコンサートで、「名曲全集」というシリーズ。チケットは当日売り無しのほどの盛況で、ほぼ完売だった模様。客席も9割以上埋まっていた。客層は、いわゆる退職後の世代と思われる60歳以上と見受けられる男女が多く見受けられた。客層の特徴は、今回の「名曲」過ぎる名曲プログラムの影響なのかも知れないとは思ったが、もしかすると近年の中高年が豊かな生活を送り、若年層が貧困にあえぐようなこの国の現状を象徴するものかも知れないなどと、ふと思った。
ミューザ川崎は、川崎駅の西口ロータリーに面したビル内にあり、アクセスが非常に便利だ。駅の改札口からホール入口までゆっくり移動しても10分もかからないほどなので、平日の19時開演でも、会社の定時を終わってからかけつけても何とか間に合う。横浜のみなとみらいホールも、東横線直通ができたので、アクセスはよくなったが、ミューザもほとんど同じくらいの利便性だということが分かった。
(2014/7/14追記・修正)
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