南半球でもないのに今頃になって雪の女王に取りつかれている
サッカーのワールドカップが行われている南半球の温帯以南は、今は冬真っ盛りのはず。しかし、ここ日本は爽やかな初夏が過ぎ、梅雨も真っ最中なので、雪には最も縁遠い時期。しかし、なぜかこの雪の女王に取りつかれてしまっている。いい歳をして。
はまる、と言えば、obsession 取りつかれること、狂うこと、妄想だが、こんなことも書かれていた。 http://en.wikipedia.org/wiki/Let_It_Go_(Disney_song)
By spring 2014, many journalists had observed that after watching Frozen, numerous young children in the United States were becoming unusually obsessed with the film's music, and with "Let It Go" in particular.[34][35][36][37] Columnist Yvonne Abraham of The Boston Globe called the song "musical crack" which "sends kids into altered states."[38] A similar phenomenon was described in the United Kingdom,[39][40] where Lorraine Candy, editor-in-chief of Elle UK, wrote of a "musical epidemic sweeping the nation, relentlessly gathering up every child ... in its cult-like grip".[41] )
そこで、その取りつかれるきっかけのディズニー映画“Frozen”(邦題「アナと雪の女王」)の主題歌 “Let it go”を音符に乗るように、独自訳を作ってみた。松たか子が歌う「ありのままで」の映画公式日本語吹き替え版は、やはりプロの仕事だと感心した。
米国原作版の歌唱
さて、この印象的なフレーズ“Let it go” がどのような意味か? 各国語(25か国語版だが、44か国語もの映画版の吹き替えの歌唱がCD化されているらしい)を見ても、フランス語、ドイツ語、スペイン語などそれぞれこの慣用句を訳するのに苦労しているようだ。
ネットのシソーラスを見ると http://thesaurus.com/browse/let+it+go
日常語では、「stop blame and grant pardon」「forgive」「ignore」「never mind」「forget it」のような意味で使われるようだが、膨大なニュアンスがあることがこのサイトを見ただけでも分かる。
ビデオクリップの動画と一緒に見ると、直訳調の意味「it それを 行かせる」、同意語の中では release とかが近いのかも知れない。
とはいえ、この歌唱の中で、歌い手の心境が徐々に変化していくのが映像からも確認できるので、文脈的に訳し分けるのが難しいとはいえ、適切な配慮ではなかろうか。おそらく、英語の母語話者は、複合的な意味を受け取っているのだろう。日本語でも、「ありのまま」が現状肯定か、それとも「本来の自分」の肯定かという議論があるように。そこで、いろいろとバリエーションを付けて、訳してみた。
【歌唱用独自訳】
The snow glows white on the mountain tonight
雪の輝く夜
Not a footprint to be seen
誰もいない山
A kingdom of isolation
孤独な王国
and it looks like I'm the queen
私は女王
The wind is howling like this swirling storm inside
叫んでた。心が嵐のように。
Couldn't keep it in, heaven knows I tried
抑えてた。人知れず。
Don't let them in, don't let them see
開けちゃだめ。見せちゃだめ。
Be the good girl you always have to be
いつもいい子でね。
Conceal, don't feel, don't let them know
隠しなさい、いつまでも。
Well, now they know
隠せない。
Let it go, let it go
だけど、いいの。
Can't hold it back anymore
もう戻せはしない。
Let it go, let it go
気にはしないわ。
Turn away and slam the door
扉を閉ざすの。
I don't care what they're going to say
いいわ、非難なんて。
Let the storm rage on
吹雪よ続け。
The cold never bothered me anyway
寒さなんて平気。
It's funny how some distance makes everything seem small
離れてみれば悩みなんて。
And the fears that once controlled me can't get to me at all
怖がることもしなくていい。
It's time to see what I can do
わかったわ。すべきこと。
To test the limits and break through
限界を突き抜けて。
No right, no wrong, no rules for me
善悪も何からも
I'm free
自由。
Let it go, let it go
飛び出せ、魔法よ。
I am one with the wind and sky
空吹く風のように。
Let it go, let it go
これで、いいわ。
You'll never see me cry
もう泣きはしないわ。
Here I stand and here I'll stay
ここが私の場所。
Let the storm rage on
吹雪よ続け。
My power flurries through the air into the ground
魔法は空から大地まで。
My soul is spiraling in frozen fractals all around
心は渦巻く、雪の華のように。
And one thought crystallizes like an icy blast
思いは氷の風に乗って。
I'm never going back, the past is in the past
帰りはしない。過去は過去よ。
Let it go, let it go
忘れましょう。
And I'll rise like the break of dawn
朝日のように立つわ。
Let it go, let it go
これでいいわ。
That perfect girl is gone
昔の私じゃない。
Here I stand in the light of day
明るい日差しを浴びて。
Let the storm rage on
吹雪よ続け。
The cold never bothered me anyway
寒さなんて平気。
--------------
【楽曲の構成のようなもの】
【Aパート】短調
The snow glows white on the mountain tonight
Not a footprint to be seen
A kingdom of isolation
and it looks like I'm the queen
The wind is howling like this swirling storm inside
Couldn't keep it in, heaven knows I tried
(人里離れた岩山:ワルプルギス的な魔女の世界。継承すべき本当の「王国」から逃れ、雪に閉ざされた孤独な「王国」でただ一人。)
【Bパート】長調
Don't let them in, don't let them see
Be the good girl you always have to be
Conceal, don't feel, don't let them know
(王城での長い幽閉生活で言われ続けて来た、自分を呪縛する言葉)
Well, now they know
(秘密を周囲に知られてしまい、逃げ出さざるを得なかったことから、続く "let it go" のパートには一種、捨て鉢、なげやりな感情もあるように感じる。)
【Cパート】長調
Let it go, let it go
Can't hold it back anymore
Let it go, let it go
Turn away and slam the door
(このシーンの最後のアクションを思わせるが、まだそこまでの心境には至っていない)
I don't care what they're going to say
Let the storm rage on
The cold never bothered me anyway
【Dパート】短調
It's funny how some distance makes everything seem small
And the fears that once controlled me can't get to me at all
It's time to see what I can do
To test the limits and break through
No right, no wrong, no rules for me
I'm free
(氷の階段に足を踏み下ろす)
(内省的になり、恐怖から解放されたことを確認し、自由の実感を得た)
【Cパート】長調 リフレイン1
Let it go, let it go
I am one with the wind and sky
Let it go, let it go
You'll never see me cry
Here I stand and here I'll stay
Let the storm rage on
(抑圧からの解放感。自由に魔法を使える居場所を見つけた。)
(the wind and sky のフレーズ: sun, wind, sky, earth and sea というフレーズが
http://rock.rapgenius.com/Idina-menzel-let-it-go-lyrics#note-2888570
ロバート・ブラウニングの詩 にあるらしい。
A Concordance to the Poems of Robert Browning)
また、東洋的な「地水火風」を想像させる。
(「ぢすいかふう」とも)仏語。地と水と火と風。仏教で一般に色法、すなわちあらゆる物質的存在を構成する四種の元素として説くもの。地は堅さ、水は湿りけ、火は熱さ、風は動きを本質とする。四大。四大種。四界。
【地水火風空】 (「ぢすいかふうくう」とも)仏語。地と水と火と風と空。密教で四大に、無礙(むげ=さわりないこと)を本質とする空(虚空・空間)を加えて、物質構成の五つの要素とするもの。五大。五輪。
【Eパート 】長調 転調
My power flurries through the air into the ground
My soul is spiraling in frozen fractals all around
And one thought crystallizes like an icy blast
I'm never going back, the past is in the past
(魔力をコントロールして、思うがままに氷の宮殿を作るシーン。エルサが髪留めを外し、巻髪をほどき、氷の女王のドレスに変身するシーンが印象的。次のパートにつながる間奏部のオンビートの伴奏リズムに心をつかまれる)
【Cパート】長調 リフレイン2 (クライマックス)
Let it go, let it go
And I'll rise like the break of dawn
Let it go, let it go
That perfect girl is gone
Here I stand in the light of day
Let the storm rage on
The cold never bothered me anyway
----------
【直訳調対訳】
(歌い手の自分自身との自問自答がベース。自分への命令形、他人からの命令などが混じる。補足や注釈: 若い女性の口調で。オペラ、ミュージカルのアリア/劇中歌)
The snow glows white on the mountain tonight
【今夜、この山で、雪が白く輝く。【この詩では、風は吹き荒れているようだが、映像では月明りがある?】
「雪が白く輝いているわ、今夜この山は。」
【There is】 not a footprint to be seen.
【目に見える一つの足跡もない】
「足跡一つ見えない。」
【This is】A kingdom of isolation,
and it looks like I'm the Queen
【これは孤立した王国。そして私はその女王に見える。】
「ここは孤独という名前の王国ね。私はまるで女王様。」
The wind is howling like this swirling storm inside
【insideがどの語を修飾しているか?で意味が変わる】
①【howlingにかかる場合:この場所で渦巻いている嵐のように、私の心の中では風が唸っている:場所的にこの解釈は不自然】
②【swirlingにかかる場合:(ただしそうだとなぜmyではなくthisになるのだろうか?:私の心の中で渦巻くこの嵐のように
(この山の上では)風が唸っている。】
「風がうなっている。私の中で渦巻いているこの嵐のように。」
cf) 吹き荒ぶ で、 荒ぶを調べていたら、まるで let it go に対応するような古語としての意味が出ていた。
すさぶ【荒ぶ・進ぶ・遊ぶ】
(奈良時代、上二段に活用していたものが、四段にも活用するようになり、のち、四段にだけ活用し、「すさむ」に移行)
Ⅰ 〔自バ上二〕(動詞の連用形の下に付いて補助動詞的に用いる)物事の進行するなりゆきのままになる。動作、程度がはなはだしくなる。いよいよすすむ。*万葉‐二二八一「朝露に咲き酢左乾(スサビ)たるつき草の」
Ⅱ 〔他バ上二〕心のおもむくままに物事をすすめる。慰み興ずる。もてあそぶ。他の動詞と複合して用いられることが多い。*源氏‐絵合「ゑは、猶、ふでのついでにすさびさせ給あだごととこそ、おもひ給へしか」
Kokugo Dai Jiten Dictionary. Shinsou-ban (Revised edition) ゥ Shogakukan 1988/国語大辞典(新装版)ゥ小学館 1988
【I】 Couldn't keep it in;
【itは何を指すか?ここでは、敢えて「それ」でいいと思う: 私はそれを心の中に留めておくことはできなかった 】
「それを抑えつけておけなかった。」
Heaven knows I've tried 【to keep it in】
【ただ、神様だけは、私がそうしようとしてきたことをご存じだ。神のみぞ知る、つまり、だれも知らない】
「ただ、私の努力は神様だけがご存じ。」
【ここからは、歌い手がこれまで(父王?から)命じられてきた命令を回想している】
Don't let them in,
【themは何を指すか?人々だろう。inの示す場所は?心か?閉じ込められていた部屋か?】
【本心を見せてはいけない、と言う意味かもしれない?】
「誰も中に入れてはだめ。」
don't let them see
「誰にも見せてはだめ。」
Be the good girl you always have to be
【いつもそうあるべきだと義務づけられていた行儀の良い模範的な娘でいなさい】
「いつも良い娘でいなさい。」
Conceal, don't feel,
【seal 封印とは違う。隠せ、感じるな】
「秘密にしなさい。感情を持ってはだめ。」
don't let them know
「誰にも知らせてはだめ。」
Well now they know
「でももう知られてしまった。」
Let it go, let it go
【このitは、 Couldn't keep it in の itに対応する。 そのまま行かせよ。行くがままにせよ。留めるな。】
【魔力を】
「解き放て、解き放て」
【I】 Can't hold it back anymore
【このitも、 Couldn't keep it in の itに対応する hold back のback 控えて,抑えて;保留して;隠して,しまって】
【これ以上しまっておくことはできない。】
「もう、閉じ込めておけない。」
Let it go, let it go
「それを解き放て、解き放て。」
【Let's】Turn away and slam the door
【これまでの世界を拒絶し、そこに通じるドアを閉め切ろう。】
「背を向けて、ドアをピシャッと閉じるの。」
I don't care what they're going to say
【これから人が何を言おうとも気にしない。】
「何て言われても気にしない」
Let the storm rage on.
「嵐よ、吹き荒べ。」
The cold never bothered me anyway
【とにかく、一度も冷淡さが私を悩ませたことはない】
「どんな寒さだってへっちゃらだったし。」
the cold
4 孤立,無視.
come in from [out of] the cold (孤立無援の生活から)みなに迎えられる,新しく仲間になる(ルカレのスパイ小説The Spy Who Came in from the Cold『寒い国から来たスパイ』より);正体を現す.Progressive English-Japanese Dictionary, Third edition ゥ Shogakukan 1980,1987,1998/プログレッシブ英和中辞典 第3版 ゥ小学館 1980,1987,1998
It's funny how some distance
Makes everything seem small
「少し離れると、なんでも小さく見えるって冗談みたいね。」
And the fears that once controlled me
「それに、私を捕えていた恐怖なんて」
Can't get to me at all
【get to (4) 《略式》…に感動を与える;…を悩ます,怒らせる:全然私を悩ますことはない】
「もう全然平気よ。」
It's time to see what I can do
「もうなにができるかが分かったわ。」
To test the limits and break through
「限界に挑戦して突破するのよ。」
No right, no wrong, no rules for me,
I'm free!
「私には正解も、誤りも、規則もないわ。
私は自由よ。」
Let it go, let it go
「解き放て、解き放て。」
I am one with the wind and sky
「私は風と空と一つ」
Let it go, let it go
「解き放て、解き放て。」
You'll never see me cry
【誰も二度と私が泣くのを見ることはない】
「もう泣かないわ。」
Here I stand
「ここが私の場所」
And here I'll stay
「ここが私のいる場所」
Let the storm rage on
「嵐よ、吹きすさべ。」
【ここからはアニメーションの動きの描写とシンクロしている】
My power flurries through the air into the ground
(flurry : 名詞では「突風、一陣の風、吹雪、いっせいに起こる動き」)
【私の魔力は、突風のように空中から地中に伝わる】
「私の魔力は空中から地面まで届く」
My soul is spiraling in frozen fractals all around
【私の心は、周囲の雪や霜の結晶【雪や霜の結晶は、フラクタル図形だから洒落て行ったのだと思われる】の中で舞い上がる】
「私の魂は凍り付いた結晶の中をらせんのように舞い上がり、」
(このinは中ではなく、~の状態でという意味とも取れるが、普通に中ででも問題ない)
And one thought crystallizes like an icy blast
【そして一つ一つの思いは、一陣の氷の疾風が樹氷を作るように、具体化する。】
「一つの一つの思いが、氷混じりの突風に吹かれたように結晶化する」
I'm never going back, the past is in the past
【決して戻らない。過去は過去の中にある】
「絶対戻らない。過去は過去でしかないから。」
Let it go, let it go
「解き放て、解き放て」
And 【AndではなくWhenが正しいらしい。】I'll rise like the break of dawn
「そうすれば、日の出のように私は復活する。」
「そのとき、日の出のように私は復活する」
Let it go, let it go
「解き放て、解き放て。」
That perfect girl is gone
【完璧を求められた私はもういない。】
「非の打ちどころの無い子でいるのはもうやめよう。」
Here I stand
「ここが私の場所」
In the light of day
「太陽の光の中で」
Let the storm rage on
「嵐よ、吹き募れ。」
The cold never bothered me anyway!
「どんな寒さだって私を悩ませたことはないんだから。」
お気に入りのカバーバージョン:
アフリカ風の編曲ということで、コンセプトが違い過ぎるのではないかという懸念があったが、聞いてみると違和感はなく、リード・ボーカルのレクシ・ウォーカー(Lexi Walker)という少女歌手の歌唱力に驚かされた。ただし、Whole Song のカバーではないのが惜しい。
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『Let It Go』が『ありのままで』と訳された理由
http://thepage.jp/detail/20140503-00000010-wordleaf
悪役だったエルサを変えた『Let It Go』 『アナと雪の女王』に隠された真実
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