第6回音楽大学オーケストラフェスティバル(ミューザ川崎 2015/11/28)
2014年の11月に第5回音楽大学オーケストラフェスティバルのミューザ川崎での2日目の公演を聴くことができ、その演奏にすっかり堪能して、来年の公演も聴きたいと思っていたが、その念願がかない、第6回のミューザ川崎の第1日目の公演を昨日11/28の晩秋の秋晴れ午後に聴くことができた。
今回は、このミューザの第1日目と来週12/6(日)に予定されている第2日目のチケットを8月にウェブ予約で入手したのだが、すでにその時点で、通常公演でのS席に当たる平土間席中央や2階席中央あたりはほとんど売り切れ状態だった。1回券でも1,000円。全4回通し券なら1回750円という破格のチケット価格もあり、安定した人気があるらしい。それでも今回はこのホールで初めて3階の真正面の席を長男と続き席で取ることができた。(夏の「復活」の時には、断崖絶壁のようなバルコニー席で慣れるまで少し時間がかかったが、今回は3階の最前列でもあり、前が手すりだけで見晴らしがよく、音楽だけに集中できた。)
さて、今回の私の関心は圧倒的に「春の祭典」の初実演だった。おそらく私の個人的な視聴回数では、交響曲を除くオーケストラ曲では最も多いものだ。
ストラヴィンスキー 「春の祭典」 のマイライブラリ
このほかにLPでフェドセーエフ/モスクワ放送響
これまで是非一度実演を聴いてみたいと願っていたが、プロオーケストラでもなかなか演奏機会がなく(膨大な編成や著作権が存続している?ことによる各種費用がかさむこともあるだろうが、やはり演奏上難曲であることが一番大きな理由ではないだろうか?)、時折アマチュアオーケストラが演奏するというような話を伝え聞いていたが、ついぞ機会を失していた。(アマチュア世界初演は、1970年の早稲田大学交響楽団によるものらしい。)
1913年のピエール・モントゥーによる初演での大騒動は、クラシック音楽・バレエでは大事件の一つに数えられるものであり、1950年の日本初演では故・山田一雄とN響が数回の公演で、何度も途中で停まり、最難関の「いけにえの踊り」の変拍子では指揮者も演奏箇所を見失い、無理やり曲を閉じたことがN響の80年史にも書かれているという演奏上の難曲だが、現在では上述の早稲田を皮切りにアマチュアオーケストラも(どの程度の完成度か分からないが)演奏にチャレンジするまでになっている。
とはいえ、音楽大学の学生がこのような難曲に果敢にチャレンジするのは大変興味があった。おそらく演奏曲目を決定したのは、昨年のフェスティバルが終了してからのことだろうから、じっくりと1年間かけてこの曲に取り組んだことだろう。
恒例の参加大学からのエールとして、最初に桐朋学園の学生が作曲したファンファーレが奏でられた。パーカッションが入った曲で、3階席は残響音が豊富なためか、ブラスの音がかき消されるほどのバランスだった。音響としてはバルコニー席の方がクリアかも知れない。
さて、いよいよ「春の祭典」。3,4階最上部の側面のバルコニー席はチケットが売り出されていなかったのか完全に空席だったが、そのほかは舞台後方が少なかったほかはほぼ座席を埋めていた聴衆がシーンと集中力を高めるのが分かるような始まりだった。
冒頭からのファゴットのソロが難しいことは有名だが、多くのパートがソリスティックに活躍するため、それだけでも学生にとっては難曲だと思うが、昭和音大の学生たちはよく健闘していた。指揮の齊藤一郎氏は、以前テレビでセントラル愛知を指揮する姿を見かけたことがあるが、明快で迷いのない的確な指示で学生オーケストラを引っ張っていき、指揮姿だけでも見ごたえがあった。
中で特に印象的だったのは、女性のティンパニ奏者。5種類ほどある音程の違うティンパニを本当に魔術のように両腕を揮い、この曲を引き締め、推進させていて見事だった。このコンサートの予習のために見た数年前のデュトワとN響の演奏会の録画では首席フルートがアルトフルートを吹いていたのだが、この演奏のせいか録音のせいかあまり音が通らなく、実演ではそんなものかと思っていたのだが、この昭和音大の演奏ではしっかり芯のある音が聞こえて、印象に残った。
通常のコンサートでは、腕慣らしの序曲等が演奏されるのだが、フェスティバルということもあり、いきなりこの曲を演奏するのだから、緊張感は並大抵のものでは無かったと思う。それに打ち勝ち、それこそ若い学生たちが自らを「生贄」のごとく捧げ、懸命なリーダーに従って必死になって「クラシック音楽という儀式」を行い、曲のプログラムでは選ばれた乙女はその死によって春の到来に感謝をささげるのだが、若い学生たちは自己犠牲という没入を通じて、大きな達成感を得たのではなかろうか?この曲自体、通常は目頭を熱くするような曲ではないのだが、複雑なリズムでも途中で停まるようなことなく、最後の「生贄の踊り」の変拍子を一気呵成に、圧倒的な迫力をもって演奏する音楽に、こちらも完全にのめり込み、大団円を迎え、思わず涙がにじんだ。約30分強という短い音楽ではあるのだが、物凄く濃密な体験をさせていただいた。
この曲は録音では、長らくブーレーズ指揮のクリーヴランド管(1969)による精緻さにおいて画期的で迫力はありながらスマートな演奏が規範的になってはいるが、私自身の好みとしては、スヴェトラーノフやフェドセーエフによるロシア的な少々原色的で豪快な演奏が好みということもあるし、最近大いに話題になったロトとル・シエクルによる初演当時のピリオド楽器による演奏のように楽器の個性がはっきりと発揮されたものの方が面白いと思う。
François-Xavier Roth Les Siècles 2013 プロムスでの演奏
その観点からも、学生たちによる熱気あふれる演奏は心に染み入った。
ただ、意外にも「ブラボー」の声は掛らず、私も叫ぶ勇気が無かったのだが、心の中ではブラボーを何回も叫んでいた。
休憩をはさんで、今度は昭和音大からのエールであるファンファーレが奏でられ、桐朋学園大学による「火の鳥」全曲版の演奏が始まった。
高関健氏という経験豊富な練達の指揮者によって高水準の「火の鳥」を聴かせてくれた。弦も管も打楽器もハープも安定していて上手であり、ホルン(という楽器はどんなプロオーケストラでも難しいものだが)もよく健闘していたという印象を持った。桐朋学園は、特に弦楽器では日本でもトップクラスの奏者を輩出していることもあり、コントラバスによる冒頭部分から強い演奏力を示していたし、コンサートミストレスやチェロのトップ(女性)も高水準のソロを奏でていた。
ただ、作品そのものへの私の興味関心は、「春の祭典」の方が圧倒的に強いため、前半ですでにほぼ満足してしまい、私の中では少々おまけ的な聴き方になってしまってしまい、申し訳ない感じだった。
終演後のブラボーは、何度もかかり、その演奏をほめたたえていた。長男も数度ブラボーを叫んでいた。
なお、蛇足だが、この演奏会と今年6月のノットと東響の「ペトルーシュカ」により、ストラヴィンスキーの三大バレエ曲を実演で聴けたことになる。
さて、来週12/6は、昨年聞けなかった東邦音楽大学 東京音楽大学 国立音楽大学の三大学。「展覧会の絵」は実演経験済だが、人気曲のシベリウス2番と、これまた長大なラフマニノフの2番が一挙に聴けるお得なプログラム。楽しみだ。(残す東京芸大は、来年聴いて見たいものだ。)
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東京芸術劇場&ミューザ川崎シンフォニーホール共同企画
第6回音楽大学オーケストラ・フェスティバル 2015
○2015年11月08日 (日)15:00 開演(14:00開場)
会場
東京芸術劇場コンサートホール
◆武蔵野音楽大学 (指揮:梅田俊明) シベリウス/交響曲 第2番 ニ長調 作品43
◆洗足学園音楽大学 (指揮:秋山和慶) ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲『展覧会の絵』
○2015年11月15日 (日)15:00 開演(14:00開場)
会場
東京芸術劇場コンサートホール
◆上野学園大学 (指揮:下野竜也)
ストラヴィンスキー/管楽器のための交響曲(1947年版)
、ペルト/カントゥス ― ベンジャミン・ブリテンの思い出に、ブリテン/シンフォニア・ダ・レクイエム 作品20
◆東京藝術大学 (指揮:山下一史)
R.シュトラウス/交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」 Op.30, TrV176
○2015年11月28日 (土)15:00 開演(14:30開場)
会場
ミューザ川崎シンフォニーホール
◇昭和音楽大学 (指揮:齊藤一郎)
ストラヴィンスキー/バレエ音楽<春の祭典>
◇桐朋学園大学 (指揮:高関健)
ストラヴィンスキー/バレエ音楽<火の鳥>(全曲版)
○2015年12月06日 (日)15:00 開演(14:30開場)
会場
ミューザ川崎シンフォニーホール
◇東邦音楽大学 (指揮:田中良和)
シベリウス/交響曲第2番 ニ長調 作品43
◇東京音楽大学 (指揮:現田茂夫)
ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲『展覧会の絵』
◇国立音楽大学 (指揮:尾高忠明)
ラフマニノフ/交響曲第2番 ホ短調 作品27
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