小林秀雄「モオツァルト」
2006年1月26日 (木) 井上太郎「モーツァルトと日本人」で触れた小林秀雄「モオツァルト」。
高校生の頃に購入した昭和51(1976)年9月20日 23刷 (発行 昭和36(1961)年5月15日)の古い時代の文庫本で、おそらく酸性紙が使用されていたのだと思われる。茶色に変色しており、また活字のポイントも今どきの版に比べて非常に小さいので、老眼には読みにくい。
書き込みもしており、熱心に読んだものだった。
第2章
例の道頓堀で頭の中で鳴った音楽は、ト短調シンフォニイ(K.550)の「有名な」とは言え、それほど人口に膾炙していない第4楽章の第1主題なのは、意外。(譜例が引用されている)
◎小林秀雄が当時聴くことができた音源候補の一つ。
リヒャルト・シュトラウス指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団 (1926年ごろのSP録音)の第4楽章
第7章 「ロダンによるモーツァルトの肖像。」"MOZART, ALSO KNOWN AS EIGHTEENTH-CENTURY MAN Auguste Rodin 1911"
ロダン作の肖像彫刻。この有名な評論に書かれている割にはあまり知られていないように思う。
第9章 ト短調クインテット、K. 516 第1楽章 第1主題の引用。「それ(モーツァルトの tristesse)は、凡そ次の様な音を立てる。アレグロで。ゲオンがこれをtristesse allante と呼んでいるのを、読んだ時、僕は自分の感じを一と言で言われた様に思い驚いた。・・・確かに、モオツァルトのかなしさは疾走する。涙は追いつけない。涙の裡に玩弄するには美しすぎる。」
◎小林秀雄が当時聴くことができた音源候補の一つ。
レナー弦楽四重奏団, ドリヴェイラ(第2ヴィオラ) 1930年録音
第1、2楽章
https://youtu.be/cic9NC5SZtk
第3、4楽章
https://youtu.be/OXaTlKW-LnU
もう一つは、プロ・アルテ弦楽四重奏団、ホブデイ(第2ヴィオラ)1934年録音
第10章 「39番シンフォニイの最後の全楽章が、このささやかな16分音符の不安定な集りを支点とした梃子の上で、奇蹟のようにゆらめく様は、モオツァルトが好きな人なら誰でも知っている。」(K. 543 第4楽章第1主題の譜例引用)
◎小林秀雄が当時聴くことができた音源候補の一つ。
リヒャルト・シュトラウス指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団 (1926年ごろのSP録音)の第4楽章
https://youtu.be/BU4AZqlDjog?t=1084
「41番のシンフォニイのフィナアレは、モオツァルトのシンフォニイのなかで最も力学的な構成を持ったものとして有名であるが、この複雑な構成の秘密は、既に最初の主題の性質の裡にある。」(K. 551 第4楽章の第1主題の譜例引用、ドレファミ主題)
◎小林秀雄が当時聴くことができた音源候補の一つ。
リヒャルト・シュトラウス指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団 (1927年ごろのSP録音)の第4楽章
https://youtu.be/BU4AZqlDjog?t=3730
ダウンロード - hideo_kobayashi_mozart.pdf
追記
おそらくこの集成の中に小林秀雄がSPレコードで聴いたであろう録音のいくつかは含まているだろう。
K. 516 ト短調クインテットの第1楽章第1主題と、K. 550 ト短調シンフォニイの第4楽章第1主題は、似ている。前者は弱起で密やかに開始しそのまま叫ぶことなく推移し、後者は同様に弱起で密やかに上行するメロディーラインではあるがその後にフォルテの強奏が呼応するという違いはあるにせよ。
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