カテゴリー「ディスク音楽05 声楽」の42件の記事

2014年9月 2日 (火)

小学館 モーツァルト全集のCDを夏の帰省時に持ち帰った

初秋を知らせてはくれるが、少々煩いアオマツムシが樹上で鳴き始めた。熱帯性のデング熱の感染が日本でも確認されたことがニュースになっているが、同じく熱帯性のアオマツムシはすっかり亜熱帯の南関東の風物詩になってしまっている。

1991年のモーツァルト没後200周年を記念して発刊された小学館のモーツァルト全集15巻+別巻(CD190枚組)。オランダのPhilips社のCDによる Complete Mozart Edition (こちらは180枚組。おそらく小学館の10枚はモーツァルと以外の作曲家の作品10枚分が多いのだろう)をベースにして、モーツァルト学者の海老澤敏氏を中心とした著者陣が生涯、作品論、18世紀の文化・世相などを記述・論述した浩瀚な書籍が全16巻にも上るもので、各冊が美麗なハード函の中に納められている。CDは最大4枚入りの通常のCDケース2個が薄目のカートンに入り、そのカートンが縦置きで2個ずつ(1函にケース4個で、CD最大16枚収納)が書籍に並んで収納できるようになっていて、その書籍とCDを同梱した函の厚みが各巻10cmほどある。すべて横に並べると横幅が160cmにもならんとする。

就職してからある程度経験を積んだ年齢にもなり、全巻予約すれば、分売よりも数万円も安く買えるというので、数年の刊行期間の間に転勤になったときのことも書店で相談に載ってもらい(ただ、今思えば覚書などは交わさなかった)、一括払いで購入したものだった。当時はまだ独身寮生活だったので、それなりに自由になる金銭があったので、このようなまさに言葉通り、趣味のための贅沢な買い物ができたのだが、結婚後や育児期間中では無理だっただろう。ただ、別巻(モーツァルトとその周辺)は、全巻完結後の分売だったはずで、無理して買ったような記憶がある。(結婚後に同じく発売された小学館のバッハ全集は、管弦楽・協奏曲の巻を妻がプレゼントしてくれたのだが、さすがに他の巻は買えなかったし、講談社のベートーヴェン全集はカタログを見ただけだった。)

それ以来、2000年に現在の住居に引っ越す際に、学生時代から独身時代にかけての多くの書籍類と一緒に実家に置かせてもらったまま、時折帰省したときにつまみ聞きをしただけで、「モーツァルト」本を読んだ際に、手持ちのCDコレクションにその曲が無いと、全集があれば聴けるのになどと思うことがままあった。

既にiTunesでHDDに取り込んでの音楽鑑賞に慣れてから10年近く経過していたこともあり、以前にはPCとHDDを持ち帰り、時間のあるときに実家に行ってPCリッピングをしようかというアイデアがあった。今回はクルマで帰省するので、書籍ごと15冊全て持ち帰ることも考えたが、ただでさえ物が溢れていて片付かない集合住宅では置く場所も無い。せっせとテレビ番組をBDにダビングしているが、その時に使っているBDを入れる書籍型のケースのことを思い浮かび、96枚入りを2冊購入し、すべてCDケースから移し替えて持ち帰ってきた。

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現在、48枚をiTunesでリッピングしたところ。

併せて、実家に置いてあったオカールの「モーツァルト」、同「比類なきモーツァルト」、井上太郎の「モーツァルトのいる部屋」、「わが友モーツァルト」を持ち帰った。A.アイシュタインと海老澤敏の似た装丁の大冊2冊は置いてきた。

オカールの2冊もちょうど1991年頃に買ったもので、当時は少々小難しく、ざっと読んだだけだったが、今回改めて読み直してみると、さすがに読み応えがある。とはいえ、「比類なき・・・」は独特の用語(フランス語の原書で使われている重要な概念を表す術語に、日本語として対応するこなれた言葉が無かったのかも知れない)が多く用いられ、まだ隔靴掻痒的な感じは残った。

さて、「全集」の詳細は以下の通り。

「全集」でもなければ聴く機会のほとんどない、第2巻、第3巻は今のところ、ことに興味をそそられ面白いが、古くはブレンデルとマリナーのピアノ協奏曲全集を購入(これはこの「全集」を購入後、友人にプレゼントした)して楽しんだことのあるウィーン時代初期(1782-1784年)の11番から19番の協奏曲(K.413-K.459) が懐かしい。特に11番から16番は久しぶりに聴いた。モーツァルトが、「音楽の玄人にも素人にもその人なりに楽しめる」ように書いたと手紙で父に知らせ、自作自演でウィーンで大人気を博した曲だが、20年ほど経過した後で、久しぶりに聴いてもとても楽しい。

(CD1~12) /モーツァルト全集1 交響曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110019

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(CD13~24) /モーツァルト全集2 セレナード、ディヴェルティメント
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110027

(CD25~36) /モーツァルト全集3 管楽セレナード、管楽ディヴェルティメント、舞曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110035

(CD37~48) /モーツァルト全集4 ピアノ協奏曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110043

(CD49~60) /モーツァルト全集5 ヴァイオリン協奏曲、管楽のための協奏曲、管楽のための室内楽曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110051

(CD61~73) /モーツァルト全集6 弦楽のための室内楽曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:409611006X

(CD74~85) /モーツァルト全集7 ピアノをともなう室内楽曲、ヴァイオリン・ソナタ
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110078

(CD86~97) /モーツァルト全集8 ピアノ曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110086

(CD98~108) /モーツァルト全集9 宗教音楽〈1〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110094

(CD109~119) /モーツァルト全集10 宗教音楽〈2〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110108

(CD120~130) /モーツァルト全集11 オペラ〈1〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110116

(CD131~141) /モーツァルト全集12 オペラ〈2〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110124

(CD142~153) /モーツァルト全集13 オペラ〈3〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110132

(CD154~165) /モーツァルト全集14 オペラ〈4〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110140

(CD166~178) /モーツァルト全集15 コンサート・アリア、歌曲他
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110159

(CD179~190) /モーツァルト全集 別巻 モーツァルトとその周辺
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110167

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2014/9/22追記
The Compact Complete Mozart Edition (デッカのサイト)を発見した。

各トラックデータに録音データ、演奏者等が詳しく掲載されている、優れもの。

2013年1月 4日 (金)

年末に届いた "LIVING STEREO 60 CD COLLECTION"

2010年に発売され人気だった表題のボックスセット(アメリカ版)は、完売になっていたが、ヨーロッパ版が再発されたということをHMVで知り、昨年年末に注文しておいたのだが、数日で届いた。旧RCA(ビクター)の初期のステレオ録音の集成で、現在はソニーミュージックの一レーベルとなっていて、そこからの発売になっている。ミュンシュ/ボストン響、ライナー/シカゴ響、ハイフェッツ、ルービンシュタイン、ヴァン・クライバーンなどが主要演奏家で、まさに米国の黄金時代を象徴する録音群だと思う。彼らの人気レパートリーが主だが、意外にもラインスドルフによるイタリア・オペラのラ・ボエーム、マダム・バタフライ、トゥーランドット、それにプレヴィターリという指揮者のラ・トラヴィアータ(椿姫)が含まれていてこれが60枚の内の8枚を占めている。(と書いたが、当時のアメリカ出身の人気歌手、レオンタイン・プライス、アンナ・モッフォ、テノールのリチャード・タッカーなどの出演のためRCAがローマに進出して録音したもののようだ。メトではなくローマで1950年代、60年代に録音したところに時代を感じる。なお、トゥーランドットは、ニルソン、テバルディ、ビョルリンクなど凄い顔ぶれの歌手揃い。)

このシリーズは、ステレオ録音最初期の録音なのだが、リマスタリングが成功しているのか、聴き慣れたライナーの「オケコン」「弦チェレ」も1980年代発売の日本製の同じ音源のCDよりも相当音質が改善され、セルの録音に比べて粗さを感じていたライナーのそれが、今回のCDでは勝るとも劣らぬ緻密な音楽・演奏に聞こえるようになっているので、全体的に聴きやすくなったのは確かだろう。

すでに60年も前の録音だが、レコード録音できる音楽家がスーパー音楽家だった時代の労力と資金がたっぷり掛けられた時代の録音でもある。これはお買い得だと思う。

余談だが、この60枚の並び順には、どのような規則性があるのだろうか?少し考えたが分からない。

2012年6月20日 (水)

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ EMI録音集(11CD)

先日亡くなったディートリヒ・フィッシャー=ディースカウのEMIへの録音の集成が発売されているのを知り、購入した。 http://www.hmv.co.jp/news/article/1112060056/

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フルトヴェングラーやカラヤンもそうだったが、このディースカウの場合も、第二次大戦後の50年代は戦勝国のイギリスのレコード会社であるEMIに録音し、(フルトヴェングラーは晩年までEMI所属だったようだが)、その後次第に、西ドイツのレコード会社DGGに録音するようになったというところが共通しているようだ。相変わらず余計な余談だが。

この録音は、1950年代から新しい方は1970年代のもので、ディースカウの全盛期の声が収められている。

シューベルトは、三大歌曲集のほか「鱒」「魔王」「死と乙女」「野ばら」なども収録されている。フォルテの音エネルギーの強い部分では、クリップするのが惜しく、名伴奏ピアニストのムーアのいかにも伴奏のイメージに合った伴奏が今となれば少々物足りなくもあるが、主要な歌曲がこのセットで聴けるのは便利だ。

その他シューマン、ブラームス、マーラー、R.シュトラウスも含まれており、これまであまり聞く機会がなかったヴォルフが1枚に収録されている。メンデルスゾーン、ヴァーグナー、珍しいレーヴェやリスト、コルネリウスなども含まれているのもうれしい。

このセットで、久しぶりに『美しい水車屋の娘』を聴いた。素朴な風合いの歌曲だが、第8曲 朝の挨拶 Morgengruß や第10曲 涙の雨 Tränenregen など、若い頃に聴き、歌った歌が懐かしかった。

2012年5月19日 (土)

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの逝去を悼む

今朝の新聞を読んでいた妻が、「ディスカウが亡くなった」と知らせてくれた。86歳だったという。フィッシャー=ディースカウの妻で同じく歌手だったユリア・ヴァラディによれば「安らかに永眠した」とのことだ。

F=ディースカウの歌唱を、生で聞く機会は無く、膨大な録音もたまたま縁があって入手したごく一部しか聞いていない。

ドイツリートではこのブログでも記事にしたエッシェンバッハのピアノによるシューマンの歌曲集『詩人の恋』『リーダークライス』『ミルテの花』の歌唱が一番印象に残っている。1976年の録音で、ディースカウ50歳ごろの歌唱だが、今聞き直しても高音の伸びが素晴らしく、声にも潤いがあり、知的で慎重な印象の強いディースカウにしては熱唱の部類に入り、思わず胸が熱くなる瞬間がある。

オペラでは、ベームの指揮、ポネル演出の『フィガロの結婚』映画でのアルマヴィーヴァ伯爵の演技と歌唱は見事だし、1954年のフリッチャイの『魔笛』での30代の若きディースカウのパパゲーノもユニークだった。

リストを書き出していて思い出したが、バーンスタインとウィーンフィルのマーラーの「大地の歌」の録音で、アルトで歌われることが多いパートをバリトンの彼が歌ったものも印象が強い。

宗教音楽ではリヒター指揮のバッハの受難曲とカンタータでも多く録音を残しているが、『マタイ』のバスのレチタティーヴォとアリア "Mache dich, mein Herze, rein" を聞き、その歌唱を偲びたい。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ関係の記事

2006年4月20日 (木) シューマン 歌曲集「詩人の恋」ほか フィッシャー=ディースカウ、エッシェンバッハ

2007年1月12日 (金) シューベルト『冬の旅』 フィッシャー=ディースカウ、デムス

2012年3月 7日 (水) 以前音質的に不満だった音源を聴きなおしてみて(5) アンサンブル、声楽編

2006年11月 8日 (水) シューベルト 『白鳥の歌』 シュライアー&シフ

2008年4月26日 (土) モーツァルト 『フィガロの結婚』 3種類のベーム指揮を聴く

2007年8月 8日 (水) モーツァルト 生誕200年記念の名録音による4大オペラ全曲集 10CDボックスセット

2004年12月13日 (月) ハイドン 天地創造

2006年5月18日 (木) 連休の収穫6 マーラー「大地の歌」バーンスタイン/VPO ミュージックカセット

2007年6月 2日 (土) エルンスト・ヘフリガーを偲んでバッハの受難曲を聴く(マタイ受難曲)

2008年7月 5日 (土) 『四季』を題材にした曲集より『夏』の音楽 (ハイドンの「四季」)

☆白水社/ドイツグラモフォン シューベルト歌曲集 
HP音楽の茶の間のページより。ディースカウの著書(『シューベルトの歌曲をたどって』だろうか?)にLP10枚ほどがセットになったもの。1970年代に父が購入。

追記:2012年7月3日 6月22日に親戚の葬儀で帰省し、翌日の土曜日に『シューベルト 歌曲の世界』(白水社)を写真におさめてきた。『シューベルトの歌曲をたどって』は、収録されていなかった。その代わりといってはなんだが、DFD著の『シューベルトの人物像』、『わが生涯を語る』、ジェラルド・ムーア著の『フィッシャー=ディースカウとシューベルト歌曲』といった文章が収録されていた。

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2012年3月 7日 (水)

以前音質的に不満だった音源を聴きなおしてみて(5) アンサンブル、声楽編

◎アンサンブル:アルバン・ベルク四重奏団(EMI)

シューベルト 弦楽四重奏曲「ロザムンデ」「死と乙女」 ダイナミックな迫力のある名演奏だとは思うが、残響の多い録音会場や近接したマイクセッティング、録音レベルの高さのせいだろうか、楽器像が巨大過ぎ、弦楽合奏のように聞こえるのが気になっていた。DAPに取り込んで印象が変わるかと思ったが、そうでもなかった。ボリュームを絞れば、求心的な四重奏らしくはなるのだが、迫力が減退する。

◎合唱:ロジェ・ワーグナー合唱団 (EMI)

「黒人霊歌集」 以前持っていて、知人に貸してそのままになったCDでは、録音の飽和やレベル設定のミスによるようなビリつきはまったく気にならなかったのだが、今回購入した同じ(?)CDではそのビリつきがひどく感じられた。DAPに取り込んでもビリつきは残っていて少々聴くのがつらい。

◎リート:F=ディースカウ、ブレンデルによるシューベルト「冬の旅」(Philips)

今から20年以上前、初出のCDを買い、期待して聴いてみたのだが、どこか不満が残る歌唱、ピアノ演奏だったもの。DAPで聴く方が、両者の細やかな表現の綾を味わうことができる。特にディースカウのドイツ語発音がくっきりと聞こえ、ドイツ語のリスニング力が向上したように思うほど。ブレンデルのピアノは、左手の雄弁さに気付く。ただ、全体的にどこか空虚さが感じられるのは変わらないが、それはこの作品そのものが持つ味わいなのかも知れない。

2011年9月11日 (日)

ベートーヴェン 合唱幻想曲 ハ短調 作品80 ブレンデル、ハイティンク/LPO

第九交響曲の先駆的作品であり、「歓喜の主題」の先取りでもあるとされる「合唱幻想曲」ハ短調作品80を聴いた。

「幻想曲」(fantasia) というのは、自由な形式による楽曲という意味なのだが、日本語では(他の言語では分からないが)「幻想」という語感が強すぎて、「幻想」的と言われると、シュルレアリムス絵画で表現されているような現実離れをした、夢幻的な様子をつい連想してしまうきらいがある。

この曲は、以前聞いたことがあるはずだが、冒頭のピアノ独奏部は記憶に残っていなかった。しかし、歓喜の主題に似ていると言われるピアノとオケによる主部の長調の旋律や、合唱による旋律の部分はさすがに覚えていた。

このCDは、久しぶりにブックオフに立ち寄り250円/500円コーナーを眺めていて見つけたPHILIPSの名曲全集シリーズ(An Excellent Collection of Classical Music)のMP-139という型番のもので、ブレンデルのピアノ独奏、ハイティンクとロンドンフィル・合唱団(ジョン・オールディス合唱指導)の1970年代の録音のもの。メインは、「皇帝」協奏曲なのだが、その余白に合唱幻想曲がフィルアップされていたので、購入した。

ところで、このCDのブレンデルのピアノが実に美しい音に聞こえるのには驚かされた。1976、1977年のアナログ録音だが、まったくびりつきやひずみもなく、透明感があり煌めくような高音部や、ずっしりと迫力のある低音まで聴くことができ、何よりも音に芯と実在感があるのが好ましい。それに比べるとオーケストラの録音も悪くはないのだが、少し舞台奥の背景的に聞こえ、若干雰囲気的な音になっているのが惜しまれる。なお、最後に登場する合唱は、発声の息擦れの音も聞こえるほどでとても明瞭な音で録られている。

メインの「皇帝」だが、第一楽章冒頭のピアノのアイガング的な部分の解釈というか演奏スタイルが自分としてはとてもしっくり来た。慎重で学究的なイメージのブレンデルだが、この曲の外連み的なこの部分の効果を自然に迫力をもって弾き切っている。今から30年以上前の壮年期のブレンデルの充実がうかがわれる好演だと思った。しばらく聞かないでいたが、音を含めて自分はブレンデルのピアノが好きなようだ。(2008年5月31日 (土) ブレンデルのベートーヴェン『月光・悲愴・熱情』(1970年代録音)

探したら、「皇帝」「合唱幻想曲」の一枚を含む70年代のソナタと協奏曲の全集が昨年廉価ボックスとして発売されているようで、少々食指が伸びそうになっている。

Youtube
Beethoven.- Fantasie für Klavier, Chor und Orchester op 80.
Alfred Brendel : Klavier
Stuttgart Lehrergesangverein
Stuttgart Philharmonic Orchestra
Wilfried Boettcher: Dirigent

2009年5月 9日 (土)

今日は快晴だが、衒学的に言うと五月晴れではない

ここ数日、主に太平洋岸が雨だった。雨雲レーダーが手軽にインターネットで見られるようになったので、どこで雨が実際に降っているかが分かるのは面白い。

今日は、昨日までの雨とうって変わって素晴らしい晴天だ。新暦5月のこのような好天をつい「五月晴れ(さつきばれ)」と呼びたくなってしまうが、「五月雨を集めてはやし最上川」の有名な芭蕉の句のように、五月雨(さみだれ)は梅雨のことで、新暦では6月から7月にかけての梅雨前線による雨のことで、五月晴れはそのような五月雨の合間に僅かに覗く梅雨の晴れ間のことを言うのだという。

新暦の2009年5月9日は、旧暦では4月(卯月)の15日になり、卯月は季節では夏、田植え、衣替えの季節になるようだ。吹く風は、昨日までのたっぷり降った雨の湿り気をわずかに帯びて冷んやりと爽やかだが、確かに今日の日差しは強く、既に初夏の到来を思わせる。

卯月は、卯の花の咲く季節から名づけられたという。唱歌「夏は来ぬ」にも「卯の花の匂う垣根に」とある卯の花だが、これまで意識して実物を見た記憶がない。検索してみたところ数多くの画像がヒットしたが、植物図鑑・撮れたてドットコムというサイトで、ウツギとしての画像を発見した。

これから梅雨入りまでは爽やかな、初夏、卯月の季節を味わえることになる。衒学的過ぎるが、「さみだれ」という言葉の対語であるので、うっかり「さつき晴れ」と言わないようにしようと思う。

長男がブランデンブルク協奏曲のトランペットが入ったのを聴きたいというので、確か第1番か第2番だよ、と言ってCDを渡したら、第2番の方だった。私は、月並みではあるが、シューマンの『驚異的に美しい5月に』で始る『詩人の恋』を聴いてみようと思う。

2009年1月28日 (水)

ヘンデル オラトリオ『マカベウスのユダ』(マッケラス/ECO)を聴き始める

ヘンデルイヤーでもあり、過去の録音も多く再発されるだろうが、このサー・チャールズによる『マカベウスのユダ』(Archiv)もこれから発売されるデッカのヘンデルマスターワークスに入るようだ。

有名な第三幕の合唱「見よ、勝者は還る」 "See the Conqu'ring Hero Comes !"あたりを聞いてみた。『メサイア』ほどの大ヒット曲ではないが、結構音楽的に楽しんで聴けそうだ。

1977年ごろの録音で、モダン楽器によっているが、むしろ聞きやすい。

2009年1月14日 (水)

DHM16 ジュリオ・カッチーニ(1550-1618) Le Nuove Musiche

Giulio Caccini(1550-1618) カッチーニ
Le Nuove Musiche  新しい音楽/新しい音楽の書法

・『愛の神よ、何を待つのか?』
・『愛の神よ、我去りゆかん』
・『翼あれば』
・『天にもかほどの光なく』
・『気高き至福の光よ』
・『我は見ん、我が太陽を』
・『ひねもす涙して』
・『いとど優しき溜息の』
・『東の門より』
・『麗しのアマリッリ』
・『憐れみの心動かし』
・『麗しき真紅のばらよ』
・『この苦き涙よ』
・『ああ、戻り来たれ』
・『輝く麗しの瞳もて』
 モンセラート・フィゲーラス(Sp)
 ジョルディ・サヴァール(gamb)
 ホプキンソン・スミス(バロック・ギター&リュート)
 バーゼル・スコラ・カントールム
(以上、HMVの紹介サイトからの引用)

2009年のNHK大河ドラマ『天地人』の影響もあり、直江兼続(1560-1619)を主人公に据えた藤沢周平『密謀』を読み直しているところだが、ちょうどこのカッチーニは、直江兼続と洋の東西を遠く離れているとは言え、同時代人になる。

DHM50を入手するまでは、このカッチーニという作曲家のことはほとんど知らず、後知恵で考えてみると『麗しのアマリッリ』の題名を知っている程度だったが、今回iTunesへの取り込みの最中にたまたまつまみ聴きをしてみて、世俗的な歌詞内容らしいが、シンプルなリュートやガンバの伴奏を伴うソプラノ・ソロが、鎌倉・室町時代に流行したという小唄も恐らくこんな雰囲気のものだったかも知れないなどと思わせるような粋な感じで、つい聞き入ってしまった。シェークスピアの『ロミオとジュリエット』も成立は1594年か1595年とされるので、やはりちょうど同時代。そのせいか、あのゼッフィレッリ監督でオリビア・ハッセーがジュリエットを演じた映画の雰囲気に通じるものがあるようにも感じた。

ソプラノの独特のメリスマ唱法というのだろうか、こぶしを回すような歌い方は何とも魅力的なものだ。この今となれば、親しみやすい曲集が、当時「新しい音楽/新しい音楽の書法」と題されて出版されたというのは、このような単旋律(monody)の歌曲自体が新しいということだったのだろうか?


2008年12月11日 (木)

ジャヌカン(没後450年)とセルミジのシャンソン集

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クレマン・ジャヌカン(Clément Janequin, 1480年頃 – 1558年)

クローダン・ド・セルミジ(Claudin de Sermisy 1490年ごろ - 1562年10月13日)

シャンソン集 "Les Cris de Paris" (直訳では、『パリの叫び』だが・・・)

Ensemble Clément Janequin  ( Dominique Visse : contre-ténor, Michel Laplénie : ténor, Philippe Cantor : baryton, Antoine Sicot : basse, Claude Devôve : luth)

(harmonia mundi FRANCE HMC901072)

今年が没後450周年のクレマン・ジャヌカンと、その同時代の作曲家 クローダン・ド・セルミジのシャンソン集の録音。

ジャヌカンと言えば、アマチュア合唱団がよくやる『鳥の歌』とか『狩り』などは、私が以前属していた合唱団の先輩達は結構歌ったらしいが、私が属していた数年は残念ながら歌う機会はなかった。合唱団のロッカーには、楽譜はあったのだったが。

さて、このCDは、ハルモニア・ムンディのものだが、今年大いに売れたドイツ・ハルモニア・ムンディのものではなく、ハルモニア・ムンディ・フランスレーベルのもの。ただ、製造は made in W. Germanyとなっているのが面白い。

シャンソン(フランスの多声世俗歌曲)が19曲収録されているが、残念ながらこのジャヌカンの名前を冠した男声のみのアンサンブルによる『鳥の歌』は収録されていない。その代わりといってはなんだが、このCDを買うまでは名前も知らなかったセルミジという作曲家の曲を聴くことができる。ジャヌカンのように多声部の騒々しく忙しい音楽ではなく、リュートのみやびな響きを伴ったいかにも15、16世紀という雰囲気の落ち着いた音楽を聴かせてくれる。その反面、第5曲の"La, la maistre Pierre"のようにいかにも陽気なジャヌカン的な表現も見せる。

クレマン・ジャヌカン・アンサンブルは、カウンター・テナーのドミニク・ヴィス(日本語のホームページあり)により設立された団体で、今年30周年とのこと。上記のメンバー表によるとカウンターテナー、テナー、バリトン、バスの四重唱アンサンブル。

その点では、それより10年前に設立され今年40周年のUKのキングズ・シンガーズ(The King's Singers) はカウンターテナー2、テナー、バリトン2、バスの六重唱を基本としている。

世俗曲の歌唱ということもあるのだろう、特にカウンター・テナーには結構地声的、喉を閉めた発声も聞こえるが、有名な『戦争』(La Guerre とも La Batiile とも書かれている)などは非常に目覚しい。洗練された?フランス語の響きと、粗野な発声の対比が、意味も分からぬ歌詞から伝わってきて面白い。

15世紀末から16世紀前半を 歴史データベース on the Web で概観すると、欧州は大航海時代の幕開け、日本へは鉄砲、キリスト教が伝わり戦国時代への突入、ドイツはルターの宗教改革、イギリスはヘンリー8世からエリザベス一世の時代、フランスはユグノー教徒(1572年にはメディチ家出身のカトリーヌ・デ・メディシスによる聖バルテルミーの虐殺)、イタリアではマキアベリやレオナルド達が生きていたルネサンスの最盛期だった。

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