カテゴリー「ディスク音楽04 独奏」の148件の記事

2014年9月 2日 (火)

小学館 モーツァルト全集のCDを夏の帰省時に持ち帰った

初秋を知らせてはくれるが、少々煩いアオマツムシが樹上で鳴き始めた。熱帯性のデング熱の感染が日本でも確認されたことがニュースになっているが、同じく熱帯性のアオマツムシはすっかり亜熱帯の南関東の風物詩になってしまっている。

1991年のモーツァルト没後200周年を記念して発刊された小学館のモーツァルト全集15巻+別巻(CD190枚組)。オランダのPhilips社のCDによる Complete Mozart Edition (こちらは180枚組。おそらく小学館の10枚はモーツァルと以外の作曲家の作品10枚分が多いのだろう)をベースにして、モーツァルト学者の海老澤敏氏を中心とした著者陣が生涯、作品論、18世紀の文化・世相などを記述・論述した浩瀚な書籍が全16巻にも上るもので、各冊が美麗なハード函の中に納められている。CDは最大4枚入りの通常のCDケース2個が薄目のカートンに入り、そのカートンが縦置きで2個ずつ(1函にケース4個で、CD最大16枚収納)が書籍に並んで収納できるようになっていて、その書籍とCDを同梱した函の厚みが各巻10cmほどある。すべて横に並べると横幅が160cmにもならんとする。

就職してからある程度経験を積んだ年齢にもなり、全巻予約すれば、分売よりも数万円も安く買えるというので、数年の刊行期間の間に転勤になったときのことも書店で相談に載ってもらい(ただ、今思えば覚書などは交わさなかった)、一括払いで購入したものだった。当時はまだ独身寮生活だったので、それなりに自由になる金銭があったので、このようなまさに言葉通り、趣味のための贅沢な買い物ができたのだが、結婚後や育児期間中では無理だっただろう。ただ、別巻(モーツァルトとその周辺)は、全巻完結後の分売だったはずで、無理して買ったような記憶がある。(結婚後に同じく発売された小学館のバッハ全集は、管弦楽・協奏曲の巻を妻がプレゼントしてくれたのだが、さすがに他の巻は買えなかったし、講談社のベートーヴェン全集はカタログを見ただけだった。)

それ以来、2000年に現在の住居に引っ越す際に、学生時代から独身時代にかけての多くの書籍類と一緒に実家に置かせてもらったまま、時折帰省したときにつまみ聞きをしただけで、「モーツァルト」本を読んだ際に、手持ちのCDコレクションにその曲が無いと、全集があれば聴けるのになどと思うことがままあった。

既にiTunesでHDDに取り込んでの音楽鑑賞に慣れてから10年近く経過していたこともあり、以前にはPCとHDDを持ち帰り、時間のあるときに実家に行ってPCリッピングをしようかというアイデアがあった。今回はクルマで帰省するので、書籍ごと15冊全て持ち帰ることも考えたが、ただでさえ物が溢れていて片付かない集合住宅では置く場所も無い。せっせとテレビ番組をBDにダビングしているが、その時に使っているBDを入れる書籍型のケースのことを思い浮かび、96枚入りを2冊購入し、すべてCDケースから移し替えて持ち帰ってきた。

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現在、48枚をiTunesでリッピングしたところ。

併せて、実家に置いてあったオカールの「モーツァルト」、同「比類なきモーツァルト」、井上太郎の「モーツァルトのいる部屋」、「わが友モーツァルト」を持ち帰った。A.アイシュタインと海老澤敏の似た装丁の大冊2冊は置いてきた。

オカールの2冊もちょうど1991年頃に買ったもので、当時は少々小難しく、ざっと読んだだけだったが、今回改めて読み直してみると、さすがに読み応えがある。とはいえ、「比類なき・・・」は独特の用語(フランス語の原書で使われている重要な概念を表す術語に、日本語として対応するこなれた言葉が無かったのかも知れない)が多く用いられ、まだ隔靴掻痒的な感じは残った。

さて、「全集」の詳細は以下の通り。

「全集」でもなければ聴く機会のほとんどない、第2巻、第3巻は今のところ、ことに興味をそそられ面白いが、古くはブレンデルとマリナーのピアノ協奏曲全集を購入(これはこの「全集」を購入後、友人にプレゼントした)して楽しんだことのあるウィーン時代初期(1782-1784年)の11番から19番の協奏曲(K.413-K.459) が懐かしい。特に11番から16番は久しぶりに聴いた。モーツァルトが、「音楽の玄人にも素人にもその人なりに楽しめる」ように書いたと手紙で父に知らせ、自作自演でウィーンで大人気を博した曲だが、20年ほど経過した後で、久しぶりに聴いてもとても楽しい。

(CD1~12) /モーツァルト全集1 交響曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110019

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(CD13~24) /モーツァルト全集2 セレナード、ディヴェルティメント
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110027

(CD25~36) /モーツァルト全集3 管楽セレナード、管楽ディヴェルティメント、舞曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110035

(CD37~48) /モーツァルト全集4 ピアノ協奏曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110043

(CD49~60) /モーツァルト全集5 ヴァイオリン協奏曲、管楽のための協奏曲、管楽のための室内楽曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110051

(CD61~73) /モーツァルト全集6 弦楽のための室内楽曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:409611006X

(CD74~85) /モーツァルト全集7 ピアノをともなう室内楽曲、ヴァイオリン・ソナタ
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110078

(CD86~97) /モーツァルト全集8 ピアノ曲
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110086

(CD98~108) /モーツァルト全集9 宗教音楽〈1〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110094

(CD109~119) /モーツァルト全集10 宗教音楽〈2〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110108

(CD120~130) /モーツァルト全集11 オペラ〈1〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110116

(CD131~141) /モーツァルト全集12 オペラ〈2〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110124

(CD142~153) /モーツァルト全集13 オペラ〈3〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110132

(CD154~165) /モーツァルト全集14 オペラ〈4〉
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110140

(CD166~178) /モーツァルト全集15 コンサート・アリア、歌曲他
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110159

(CD179~190) /モーツァルト全集 別巻 モーツァルトとその周辺
著者名:海老沢敏 監修:エリック・スミス
出版社:小学館  ISBN:4096110167

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2014/9/22追記
The Compact Complete Mozart Edition (デッカのサイト)を発見した。

各トラックデータに録音データ、演奏者等が詳しく掲載されている、優れもの。

2014年6月24日 (火)

マリア・ティーポのバッハ「ゴルトベルク変奏曲」

伸びやかで、透明感のある演奏。

グールドのピアノで慣れ親しんだ耳にも新鮮。

左右の手によるアラベスクのような細工。

CDは入手難。

2013年9月16日 (月)

ヴォイジャー(ボイジャー)のゴールデンレコード

2007年9月 4日 (火) 今日の新聞のWIKIPEDIA記事 で触れたゴールデンレコードを積んだヴォイジャー(ボイジャー)1号NASA探査機が、惑星から降格された冥王星の軌道の3倍もの距離を越え、「太陽風の影響がわかる範囲」である187億キロの距離を、この8月末に抜けたと報道された。

朝日新聞には、グレン・グールドの平均律クラヴィーア曲集の前奏曲の収録を提案したのが、日本人研究者だったとの記事が載っていた。平均律の前奏曲と言っても、フーガはどうしたのか、第1巻、第2巻計48曲中曲目は何だったのかと思い、調べてみた。

ボイジャーのゴールデンレコードのWikipedia記事

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%81%AE%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89

から、クラシックなどの収録曲等を抜粋してみたが、収録時間が帯に短し襷に長しで、グールドの演奏のどの曲なのか、収録時間を元に調べてみても、ぴったり一致するものが無い。

クレンペラーのベートーヴェンの第五にしても、手持ちのCD収録の第1楽章は8'56"なので、7'20"という収録時間は、多分提示部のリピートをカットしたものかも知れない。カール・リヒターのブランデンブルクもどの曲の何楽章であろうか?

ベートーヴェンの第13番の弦楽四重奏曲は、元の表にカヴァティーナとあるので分かるが。

                                                                                       
作者演奏者収録時間
ブランデンブルク協奏曲ヨハン・ゼバスティアン・バッハミュンヘン・バッハ・オーケストラ 指揮者 カール・リヒター4:40
鶴の巣籠り(別名:巣鶴鈴慕) 山口五郎4:51
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータヨハン・ゼバスティアン・バッハアルテュール・グリュミオー2:55
魔笛ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトEdda   Moser (soprano) from the Bavarian State Opera, 指揮者 ヴォルフガング・サヴァリッシュ2:55
コンドルは飛んでいくダニエル・アロミア・ロブレス 0:52
春の祭典イーゴリ・ストラヴィンスキーコロンビア交響楽団 指揮者 イーゴリ・ストラヴィンスキー4:35
平均律クラヴィーア曲集ヨハン・ゼバスティアン・バッハグレン・グールド4:48
交響曲第5番 (ベートーヴェン)ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンフィルハーモニア管弦楽団   指揮者 オットー・クレンペラー7:20
ヴァイオルもしくはヴァイオリン属と管楽器のためのパヴァン集、ガリアード集、アルメーン集ならびにエア集アントニー・ホルボーンデイヴィッド・マンロウとロンドン古楽コンソート1:17
弦楽四重奏曲第13番 (ベートーヴェン)ベートーベンブダペスト弦楽四重奏団6:37    

「日本版で分からない時の」英語版で見てみると今回も詳細な情報が出ていた。

http://en.wikipedia.org/wiki/Contents_of_the_Voyager_Golden_Record

                                                                                       
PieceAuthorPerformer(s)Length
Brandenburg Concerto No. 2 in F. First MovementJ. S. BachMunich Bach Orchestra conducted by Karl Richter4:40
"Tsuru   No Sugomori" 《鶴の巣籠り》 ("Crane's Nest")Goro   Yamaguchi4:51
"Gavotte en rondeau" from   the Partita No. 3 in E major for ViolinJ. S BachArthur   Grumiaux2:55
Die   Zauberflöte, Queen of the Night aria No. 14 Der Hölle Rache kocht in meinem   HerzenWolfgang Amadeus MozartEdda Moser (soprano)   from the Bavarian State Opera, conducted by Wolfgang Sawallisch2:55
El Cóndor PasaDaniel Alomia Robles0:52
The Rite of Spring, Sacrificial DanceStravinskyColumbia Symphony Orchestra conducted by   Igor Stravinsky4:35
The Well-Tempered Clavier, Book 2, Prelude   and Fugue No.1 in C majorJ.S. BachGlenn   Gould4:48
Symphony No 5, First MovementBeethovenPhilharmonia Orchestra   conducted by Otto Klemperer7:20
"The Faerie Round"   from Pavans, Galliards, Almains and Other Short AeirsAnthony   HolborneDavid Munrow and the Early Music Consort of London1:17
Cavatina   from the String Quartet No. 13 in B flat, Opus 130BeethovenBudapest String Quartet6:37    

なるほど、第2巻の第1番ハ長調の前奏曲(3:02)とフーガ(1:50) 合計4:52なので、ほぼ一致した!

2013年6月24日 (月)

グレン・グールドの1981年ゴルトベルク変奏曲の録音と映像の微妙な違い?

久々の投稿。

今年の初め頃から最近まで、インターネットの質問回答コーナーを訪れて、たまに回答している。まったく予想もつかないような質問をする人がいて、それに対して自分なりに納得がいく内容回答するためにきちんと調べたりすると、いわゆる習慣的な「殻」のようなものから、少し自分が解放されたような気がすることもある。

グレン・グールドというピアニストについての質問は結構多い。それらを読むたびに、至極当たり前の感想ながらこの特異なピアニストは、なぜいまだに現代人を惹きつけるのだろうかと思う。クラシック音楽にそれほど親しくない人たちがこのピアニストに対しその魅力を感じるようなときには、いわゆる教養主義的・ペダンティックでスノッブな音楽鑑賞の枠組みを意識しなくてもよいようなメッセージが彼の演奏から発っせられいるのかも知れない、などとも思う。

さて、年初に購入した、古き良き時代のアメリカの至宝的な録音「RCA LIVING STEREO 60」のHDDへの取り込みが、5月の連休でようやく完了した。自分なりに納得のいく形で統一感があるようにMP3タグを編集していることもあり、その分多少時間がかかってしまった。1954年ごろから1960年ごろの録音集成なのだが、リマスタリングが素晴らしいことは措いておいても、オリジナルの演奏、録音自体が極上だったことが分かるようなCD揃いで、正直いって恐れ入ってしまった。音楽演奏や録音は、第二次大戦を経て冷戦期にあった超大国アメリカにおいて、一つのピークを迎えたのかも知れない。ハイフェッツ、ルービンシュタイン、クライバーンなどのヴィルトゥオーゾ、ライナー/シカゴ響、ミュンシュ/ボストン響の個性的な名指揮者と名楽団に代表されるこの録音集の、「オリジナル」に近い音の威力はそれほど強烈だった。

この取り込みが完了したので、さてということで、グールドのバッハ全集のDVDの6枚組をPCに挿入してInter Video というPCのバンドル動画ソフトで改めて聴き始めたのだが、そういえば、グールドによるゴルトベルク変奏曲の2回目のスタジオ録音である1981年のCDとDVDの映像(ブルーノ・モンサンジョン監督)は、同じものなのだろうかということをふと思いつき、解説のデータを読んでみた。というのも、グールドの演奏する様子をとらえた映像付きのゴルトベルクは、CDの音声のみで聴くときとなぜか印象が相当違うからだ。音のみのときは、デビュー番の1955年の自由闊達な演奏よりも、幾分か静的な印象を受けるからだ。

さて、CDのデータは以下の通り

場所:米国ニューヨーク市コロンビア30番街スタジオ

日付:1981年4月22日から25日 および 5月15日、5月19日、5月29日

プロデューサー:グレン・グールドとサミュエル・H・カーター

とある。

DVDの方は、

場所:米国ニューヨーク市コロンビア30番街スタジオ で同じだが、

日付:1981年4月22日から25日 および 5月15日、5月19日、5月29日 で同じ。

監督:ブルーノ・モンサンジョン、プロデューサー:マリオ・プリゼック (Prizek)、エクゼクティブ・プロデューサー:ハーバート・G・クロイバー(Kloiber) A Clasart production copyright とある。

各トラックのタイミングは、本当に微妙に異なるところがあるが、PCのソフトで実際にCD音源とDVD音源のタイミングを合わせて再生して聴き比べてみると、残念ながら素人が気が付くような差異はないようだ。

この1981年録音が発売された頃は、自分もまだ若き学生であり、友人の下宿か何かでこの新しい録音のことを話したような記憶がある。まさか映画として完全な演奏映像が残されているとは思わなかった。映像カメラのアングルは様々なので、映像としての編集が施されているのだろうが、これとCDの音楽が一致するということはどちらが先でどちらが後なのだろうかという疑問に対しては、その容易さの想像からおそらく映像が先で、そのサウンドトラックをCD化したのではないかとも思われる。グールド研究の面からはおそらくこの辺りの状況については詳しく記録が残され、一般向けの書籍にもそのような情報は載っているのだろうが、少々気になるところだ。

グールドは、コンサートドロップアウトを達成したのだが、テレビカメラのようなものの前で演奏することは厭わなかった。そこに不思議さがある。

このグールドによるバッハ演奏の全集には、新旧ゴルトベルクで、採用されなかったテイクも多く含まれている。この辺りに、自発的な即興性と設計・効果を意図した人工性ののぞき穴が見えるようでもある。

この全集には、グールドのゴルトベルクのザルツブルクでのコンサートのライブ録音が収録されているのだが、多くのテイクの切り貼りをしていない未編集の演奏(だと思うのだが)の目覚ましさは、やはり格別なものがある。音楽における一回性(この録音自体がそれへのアンチテーゼではあるのだが)の価値を思い知らせてくれるような演奏である。

(2013年4月28日草稿、6月24日改稿)

2013年1月 4日 (金)

年末に届いた "LIVING STEREO 60 CD COLLECTION"

2010年に発売され人気だった表題のボックスセット(アメリカ版)は、完売になっていたが、ヨーロッパ版が再発されたということをHMVで知り、昨年年末に注文しておいたのだが、数日で届いた。旧RCA(ビクター)の初期のステレオ録音の集成で、現在はソニーミュージックの一レーベルとなっていて、そこからの発売になっている。ミュンシュ/ボストン響、ライナー/シカゴ響、ハイフェッツ、ルービンシュタイン、ヴァン・クライバーンなどが主要演奏家で、まさに米国の黄金時代を象徴する録音群だと思う。彼らの人気レパートリーが主だが、意外にもラインスドルフによるイタリア・オペラのラ・ボエーム、マダム・バタフライ、トゥーランドット、それにプレヴィターリという指揮者のラ・トラヴィアータ(椿姫)が含まれていてこれが60枚の内の8枚を占めている。(と書いたが、当時のアメリカ出身の人気歌手、レオンタイン・プライス、アンナ・モッフォ、テノールのリチャード・タッカーなどの出演のためRCAがローマに進出して録音したもののようだ。メトではなくローマで1950年代、60年代に録音したところに時代を感じる。なお、トゥーランドットは、ニルソン、テバルディ、ビョルリンクなど凄い顔ぶれの歌手揃い。)

このシリーズは、ステレオ録音最初期の録音なのだが、リマスタリングが成功しているのか、聴き慣れたライナーの「オケコン」「弦チェレ」も1980年代発売の日本製の同じ音源のCDよりも相当音質が改善され、セルの録音に比べて粗さを感じていたライナーのそれが、今回のCDでは勝るとも劣らぬ緻密な音楽・演奏に聞こえるようになっているので、全体的に聴きやすくなったのは確かだろう。

すでに60年も前の録音だが、レコード録音できる音楽家がスーパー音楽家だった時代の労力と資金がたっぷり掛けられた時代の録音でもある。これはお買い得だと思う。

余談だが、この60枚の並び順には、どのような規則性があるのだろうか?少し考えたが分からない。

2012年9月23日 (日)

グレン・グールド コンプリート・バッハ・コレクション

Glenn Gould: The Complete Bach Collection

6月20日にHMVでたまたま見つけて、予約注文していたこのボックスセットだが、ようやく9月21日に配達された。

立派な布張りの箱入りで、ハードカバーの上質紙の解説書付(英語と独仏語)。CDとDVDがセット。

CDの方は、半分以上ばら売りで持っていたが、DVDは全く所有しておらず、さらにゴルトベルクのザルツブルクライヴとグールドのレコードデビュー前のCanadian Broadcasting Corporation( CBC カナダ放送) でのゴルトベルクの録音(音質はよくないが)も含まれていたのが購入の決めてだった。

ザルツブルクでのライヴを聴くと、コンサートでのグールドが本当にすごかったことが実感できる。スタジオ録音でのテープ切り貼りのマジックでは無かった。また、デビュー録音とは違う声部を浮き立たせていたりして、グールドの解釈の多様性と、その反面のつかみどころの無さが感じられた。

CBCへの録音は、青柳いづみこ氏のサイトに書いてあった記憶があるが、デビュー録音は、様々な解釈の可能性の中からの、選択だったことが理解できるような演奏だった。

一九五四年にCBCのラジオ放送用に録音した《ゴルトベルク》を聴くと、当時の彼が、バロック音楽です らロマンティックなアプローチで弾いていたことがわかる。  それから一年、伝説の五五年盤《ゴルトベルク》のレコーディングに際してグールドは、トスカニーニのように即物的に弾くことが流行していた五〇年代の趣味に合わせて、自分の演奏を刈り込み、浄化し、我々がよく知る形につくりあげた。  作戦は見事に成功し、グールドは一躍国際舞台に躍り出た。

DVDのモンサンジョンによるゴルトベルクは、最後のゴルトベルクと同じ時期の映像のはずだが、CDジャケットの疲れた表情のグールドとは異なり、生き生きとした表情と、素晴らしい指の魔術を見せてくれる映像で、以前Youtubeで部分的に見たことはあったが、通して視聴して感激を新たにした。

2012年6月16日 (土)

ギレリス EMI全録音 (9枚組) ベートーヴェンピアノ協奏曲(セル/CLO)など

今日は、ブルームズ・デイ。昨日までの初夏らしい爽やかな晴れ間の代わりに朝から梅雨の雨が静かに降っている。近くの水田はほとんど田植えを終え、緑の稲苗が水面からわずかに顔を出している。

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2007年7月12日 (木) セルとギレリスの『皇帝』(米EMI盤)で書いたが、エミール・ギレリスとセルの競演盤のベートーヴェン ピアノ協奏曲の全曲は以前から全曲を聴きたいと思っていたが、時折国内版で分売されるのを見かけるだけで、全集としては見かけず、ずっと聞く機会が無かった。

ところが、その記事の末尾に最近備忘録的に書いたように、2010年にギレリスがEMIレーベルに録音したものがBoxセットで発売され今も入手可能なのを見つけ、内容を確認したところ、セルとの全集のほか、ルートヴィヒ、ヴァンデルノート、クリュイタンスと録音した「全集」も含まれているという凝ったものだということが分かった。2010年がギレリスの没後25年だったようだ。他に、マゼールとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲全集(第1番から第3番)なども含まれている。
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=3860426

前に入手した『皇帝』は、中古盤のアメリカEMIのもので、残念ながら私の貧弱なリスニング環境では、強奏時の音割れやひずみ(最近「クリップ」 clipping と言うことが分かった*)が出がちだった。これはなぜかセルとクリーヴランド管によるEMIへの録音でなぜか頻発して悩みの種だったものだ。

今回のCDを入手して、早速聴いてみたところ、リマスタリングの効果かどうかは分からないがクリッピングは比較的減っている印象を受け安心した。これまで聴く機会が無かった第1番から第4番は、クリッピング的にはさらに良好な印象だ。

演奏の感想は別に書いてみたいが、いい買い物をした。楽しめそうだ。

なお、先に入手したHybrid-SACDのセル/クリーヴランド管のブラームスのヴァイオリン協奏曲(オイストラフ)と二重協奏曲(オイストラフとロストロポーヴィチ)は、CDレイヤーに関してはクリッピングの従来のCDからの改善はあまり聴くことができなかった。ブログなどを検索するとSACDについては、音質は改善されていて、クリッピングに関するコメントもないようなので、SACDレイヤーには一縷の望みがあるのではないかと期待しているのだが。

*クリッピング clipping
入力信号が規定の入力レベルを超えると、
出力信号が歪んでその波形の頭部(許容入力を越えた部分)が削り取られた状態になります。これをクリップまたはクリッピングといいます。この波形には無数の高周波が含まれているので、音がつまって、音色としては濁った感じになります。

2012年5月 2日 (水)

可逆圧縮の flac を試してみた

flac (free lossless audio codec) という拡張子の音声ファイルのことを先日コメントで触れた方がいて、どんなものだろう、ということで、 flac での ripping ができるソフトを調べてみた。

2011年10月 4日 (火) PCオーディオ、ネットワークオーディオに注目が集まっているらしいで取り上げた「麻倉怜士 『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』」という本にも書かれていた方式。

検索してみると、Exact Audio Copy (EACと略されるらしい)というソフトが見つかり、これで flac と 非圧縮の wav で ripping してみたものを、以前 iTunesでrippingした mp3 と聞き比べてみた。

聴き比べの前には、flac が再生可能な foobar2000 というソフトプレーヤーをダウンロードして初めて使ってみた。出力デバイスをデフォルトと、WASAPIの排他モード とで選べるようにもセットしてみた。

結論から言うと、foobar2000の再生音が iTunes や WMP よりも精緻で引き締まっていると感じられた以外は、従来のiTunesでrippingした mp3 でも、CDをそのまま無圧縮でripppingした wav でも 可逆圧縮の flac でも、圧縮方式の違いはあまり気にならなかった。

ソースとして使ったのは、ギリレスのハンマークラフィーア 1983年録音 DG の 第1楽章 所要時間 12'24"

foobar2000で確認した各プロパティーは以下の通り:

  1. mp3 サンプルレート 44.1kHz, ビットレート 192kbps, ファイルサイズ 17MB
  2. flac サンプルレート 同上,  ビットレート 478kbps, ファイルサイズ 42.3MB
  3. wav サンプルレート 同上,  ビットレート 1411kbps, ファイルサイズ 125MB

まあ、軽くて音のよい foobar2000 が使えるようになったので、よしとしよう。

2012年3月 4日 (日)

以前音質的に不満だった音源を聴きなおしてみて(4) ピアノ編

2011年10月 9日 (日)以前音質的に不満だった音源を聴きなおしてみて(3) 管弦楽, 協奏曲(TELARC)編 の続き。

mp3 192kbps でリッピングした音源を、廉価DAPとイアフォンで聴きなおしている。

これまでステレオセット、ポータブルCDプレーヤー、リッピングした音源のPCと聴いていて不満を覚える機会が多かったのは、ピアノの録音だった。

実家のピアノはアップライトだが、自分でも素人ピアノを弾くこともあり、ピアノ演奏については自分なりの好みの音色、タッチのようなものが、弦楽器や金管楽器などに比べてはっきりしていることもあるのだろうと思うが、録音されたピアノの音をオーディオを通して聴くとき、どうにも苦手な音というのがある。その典型が、これまでのリスニング環境で聴くアシュケナージのDecca録音の音色だった。これについては、以前くどいほどあれこれ自己確認をしたり、ネットでの評判を調べてみたりしたことを書いたことがあった。

ところが、廉価な品とは言え、自分的にはそれなりに満足できる音がするDAPとイアフォンの組み合わせに巡り合い、それで聴き直してみたところ、好感が持てる方に相当変わったものもあった。これは、前の記事のTELARCレーベルの印象の変化をもたらした解像度のアップに合い通じるところもあるし、更に重要なのは音色が変わったということがあるだろう。

◆アシュケナージ (Decca)
◎ショパン  エチュード、プレリュード、アンプロンプチュ、スケルツォ、バラード

音の滲みと表現してきたが、響きの広がりが聞こえるようになったためか、透明感はあまりないものの、豊かな音色として聞こえるように、印象が変化した。オーディオでの印象が最も変化した例かも知れない。その他も聴きなおしてみている。

◎シューマン ソナタ第1番、子どもの情景、森の情景

◎ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集(メータ/VPO)、ピアノソナタ8,14,23番

◎チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番、「四季」

◎ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番、パガニーニ変奏曲

そのほかデッカレーベルのピアノ録音は、DPMに大量に含まれているのを別にすると以下の単発盤をよく聴いてきたが、これらも聴きなおしてみている。

デ=ラローチャ(Decca) シューマン 謝肉祭、ウィーンの謝肉祭

ルプー(Decca) シューベルト、ブラームス、シューマン、グリーグ

グルダ(Decca) ベートーヴェンピアノ協奏曲集

2011年12月 3日 (土)

グレゴリー・ソコロフ ライヴ・イン・パリ 2002/11/4 シャンゼリゼ劇場

ソコロフのライヴ・イン・パリのDVDが届いた。注文した時点ではHMVでは入手困難で、amazonを見たところ取り寄せ可能だったので、注文。1週間ほどで日本郵便で到着した。今朝見ると、amazonでは1点在庫となっていたが、まだ別の出品者からは新品が入手可能のようだ。また、HMVでも入手可能となっている。

すでに9年前のリサイタルのライヴ映像だが、画質、音質は大型LCDテレビで見ても問題はない。音質は、CDで聴くことができたソコロフ独特の美しいピアノの音をとらえており、ホールトーンも適度に入っている。

映像は、ロシア人的な大柄な体躯にもかかわらず、意外にもそれに比べて小さめな手が鍵盤の上で見事に駆使されるのをじっくり見ることができる。その反面、ペダルはあまり映されない。

ピアノは、Steinway & sons。英語のwikipedia か何かだったが、ソコロフは製造されてから年数の若いピアノを使用するとのことだった。ヴィヴィッドな音色の秘密はそこにも隠されているのかもしれない。

ベートーヴェン:ピアノソナタ第9番 ホ長調 Op.14-1
ベートーヴェン:ピアノソナタ第10番 ト長調 Op.14-2
ベートーヴェン:ピアノソナタ第15番 ニ長調 Op. 28「田園」
この3曲は、曲間に間を入れず連続で演奏。初期の9番と10番が見事。「田園」は、見事な演奏だが、第1楽章では短いフレージングが曲調と少し合わないか?

コミタス・ヴァルダペット Komitas Vardapet(1869-1935)
ピアノのための6つの舞曲
1.エランギ
2.ウナビ
3.マラリ
4.シューシキ
5.エト-アラッハ
6.ショロール
アルメニアの作曲家ということだ。アルメニと言えば、ヘルベルト・フォン・カラヤンの祖先もアルメニア系ということではなかったろうか?語尾がアンと付く姓は、アルメニア系に多いということだが、コミタスの場合はそうではない。

単旋律的な民俗音楽で、ちょうどバルトークのピアノ曲に通じるものがある。中近東的なエキゾチシズムが感じられる音楽で、単音ゆえのピアノの音の美しさも味わえる。あまり知られていないアルメニアのクラシック音楽への関心を高めるデモンストレーションになっているのではなかろうか?

プロコフィエフ:ピアノソナタ第7番「戦争ソナタ」
若きポリーニの画期的な録音がある作品だが、はるかにダイナミックでライヴとは思えないほどの打鍵の精度の高さだ。冷静な演奏態度ではあるが、集中力がすさまじく、初めてこの作品を聴き入ったような気がする。

―アンコール―
ショパン:マズルカOp.63-3

クープラン:ティク・トク・ショク、またはオリーブしぼり機(Le tic-toc-choc, ou Les maillotins)    (クラヴサン第18組曲ヘ短調 Ordre No.18 1722より)

クープラン:修道女モニク(Soeur Monique)  (クラヴサン第18組曲ヘ短調 Ordre No.18 1722 より)

2曲のクープランは、とても同じピアノから奏でられた音には聞こえない。すばらしく多彩なタッチのレパートリーを持ち、それを的確に使っていることが分かる。

ショパン:マズルカOp.68-4

ショパンの2曲のマズルカは憂いを籠めた近代的なピアノの音色になっている。少しリズムが重く感じるが、深い演奏だ。

バッハ/ジロティ編:前奏曲ロ短調(BWV855aによる) ギレリスのアンコールの録音を聴いたことがある。ロシアピアニズムの先輩ジロティ(シロティ)へのオマージュ的演奏だろうか? 

一家に一枚ではないが、CDで聴いたときもそう思ったが、現代ピアニズムの極致の一つのように、大げさに言えば言いたくなる凄いものだ。

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