ジョージ・R・R・マーティン「氷と炎の歌」シリーズ
昨年末、家にあったジョージ・レイモンド・リチャード・マーティン著、岡部宏之訳の「七王国の玉座」のハードカバー上下を手にとってみた。妻が入手したものだが、表紙イラストはヤングアダルト的で少々おどろおどろしい派手なもので、まずはあまり食指が動かなかった。さらに一頁が上下二段に分割してあり、相当小さいポイントの活字がビッシリ埋まっており、遠視(老眼)にはとても読みにくいこともあった。
或る日手にとってみて読み始めたが、イントロダクションも、掴みがパッとしない始まりだった。ジェイムズ・P・ホーガンの「星を継ぐもの」ほどちんぷんかんぷんではなかったが。ただ、その後しばらく読み続けようという気にはならなかった。
その後、この大河小説を読むようになったのだが、本格的に読み始める前に、一昨年のBSで米国テレビドラマの「ゲーム・オブ・スローンズ」の無料放送の第1、2話を見る機会があった。その頃はまったく知らないストーリーだったのだが、妻は以前からこのシリーズを読み進めていたので、録画を頼まれた。それを或る日何の気なしに見たところ、ヴァイオレンス&セックスが満載で、そうとうエグイ外国ファンタジーだが、多彩さな群像劇でもあり、その続きを見てみたいと思わせるものではあった。その意味では映像から入門したようなものだ。
それから家にあった上記のハードカバーを改めて読み始めたのだが、再読を開始した時には、この本が上記ドラマの原作だとは知らなかった。読み進めるにつれて、その関係に気づき、妻に尋ねたところ、まさにその通りだという。
未だ、シリーズが完成されていないが、現在日本語訳は米国で出版されたものは全部訳されて出版されており、第3部からは初めてデジタルブックを購入して、半年以上かけて、日本語訳を読み通した。
- A Game of Thrones 『七王国の玉座』
- A Clash of Kings 『王狼たちの戦旗』
- A Storm of Swords 『剣嵐の大地』
- A Feast for Crows 『乱鴉の饗宴』
- A Dance with Dragons 『竜との舞踏』
- The Winds of Winter 『冬の狂風』(未完)
- A Dream of Spring (未完)
欧州と中近東、アフリカ北部を舞台にした中世的な混沌の世界とは、ドラマ「大聖堂」でも描かれたが、洋の東西を問わずこのようなものだったのではないかと思わせる、残酷苛烈な描写も多く、また(ネタバレではあるが)勧善懲悪や復讐劇は完全に捨て去れれているため、感情移入できるような人物が、ストーリー(出来事、歴史)の進展により、あっさりと舞台を去ることも多い。逆に、反感を覚えるような登場人物が長々と居残り続けることもあるし、次第に人物観が読み進めるにしたがって変わってくるようなこともある。
イギリスらしき島が主要舞台ではあるが、設定上はグレートブリテンよりもよほど大きく、規模は西ヨーロッパほどの南北の規模を持つ巨大な島が七王国の舞台で、その西にそれより大きい大陸が広がっている(らしい)世界である。南にはアフリカ大陸的な大陸は想定されていない。
ドラゴンが存在した世界であり、また季節の廻りは現実の地球世界とは異なり、さらに北方からは人類以外と思われる何者かによる脅威が迫る。超自然的な現象は描かれるが、「ロード・オブ・ザ・リングズ」とは異なり、魔術の存在は相当不確かだが、何らかの超自然力による殺人や死者の復活などが描かれるし、巨人も存在する。
他の名作と呼ばれるファンタジーが持っていたいわゆる道徳的、倫理的な枠組みは敢えて捨て去られており、その意味で非常に「現実的」で、リアリスティックなファンタジーとなっている。弱者は滅び、強者が生き残る、まさに弱肉強食の世界が繰り広げられる。
その意味で、最初見たり読んだりしたときは、より強い刺激を求める現代社会がこのようなファンタジーを要請し生み出したのかとも思ったものだが、よりリアルな古代社会、中世社会を描こうとすると、ある程度はこのような混沌と非倫理的、猥雑なものであり、その意味で人間の強さ、弱さが非情に描かれているのかも知れないと思う。
作者は、特別な話法を用いて、膨大な登場人物と広大な世界のストーリーを紡いでいく。この話法に慣れないうちは違和感があるが、慣れてしまうと、神の視点ではないこの話法は、とても合理的で素晴らしいと思うようになってきた。
趣味に合わない向きも多いとは思うが、興味があればWIKIPEDIAなどで調べてみてはいかがだろうか?
最近のコメント