ソロモン ベートーヴェン ピアノソナタ第29番『ハンマークラフィーア』
弾くほうにも聴く方にも難曲だと思うこの曲、ピアノソナタ第29番作品106。
シュナーベル、ソロモン、ケンプ、グルダ、そして今回入手したDMPに入っていたギレリスで聴いてみようと思い、挑戦をしてみた。集中的に聴いたのはソロモンの演奏。
参照楽譜は、音楽之友社版の「ベートーヴェン ソナタアルバム3」もの。
特に聴く方にとっては、第4楽章のフーガが難曲だ。これは、弦楽四重奏曲『大フーガ』と並んで、私にとってはいわゆる理解しがたい方の音楽の類だと思う。J.S.バッハ風のフーガであるならばまだ耳が慣れているが、このピアノソナタと弦楽四重奏曲の大規模な『大フーガ』は何度聴いても、形式的感覚的な把握が困難で音楽として楽しめないままでいる。フーガという幾何学的な厳密さのある形式にも関らず、この二つの曲にはどうも息の長い旋律としてのフーガ主題が魅力的ではないようで、短い動機がどのようにフーガを構成しているものか、どうも把握できないままでいる。
◎シュナーベル 〔1935/11/3-4〕 8:45(提示部リピート有り 1:57 = リピートの1括弧直前まで)/2:38/17:56/11:05 〔ロンドン、アビーロード第3スタジオ〕
◎ソロモン 〔1952/9/15-16,11/21-22〕 10:08(提示部リピート有り 2:14)/2:30/22:20/12:37 〔ロンドン、アビーロード第3スタジオ〕
◎ケンプ 〔1964/1〕 8:49(提示部リピート無し 2:38)/2:42/16:27/12:06 〔ハノーファー、ベートーヴェンザール〕
◎グルダ 〔1967/7-8〕 9:23(提示部リピート有り 2:04)/2:15/13:35/11:21 〔ヴィーン、オーストリア放送、クラゲンフルトスタジオ〕
◎ギレリス 〔1982/10〕 12:24(提示部リピート有り 2:43)/2:53/19:51/13:38 〔ベルリン、イエス・キリスト教会〕 Decca Piano Masters CD10
このように手持ちのCDを並べてみると、所要時間の違いに結構驚かされる。
楽譜にはメトロノームテンポも書かれているが、このメトロノームが『第九』のそれと同様、ベートーヴェンの使っていた発明されたばかりのメトロノーム自体がうまく調整できていなかったのではないかと議論になっているもの。
第1楽章 Allegro 二分音符=138 2分の2拍子 変ロ長調 (提示部繰り返し指定あり)
第2楽章 Scherzo 付点二分音符=80 四分の三拍子 変ロ長調
第3楽章 Adagio sosutenuto 八分音符=92 八分の六拍子 嬰へ短調
第4楽章 Largo 16分音符=76 Un poco piu vivace - Allegro - Prestissimo - Allegro risoluto 四分音符=144 四分の三拍子 変ロ長調 (Fuga a tre voci, con alcune licenze)
この中ではとりわけシュナーベルは、細部の弾き飛ばしはものともせずこのメトロノームのテンポに果敢に挑戦していることでも聞く価値のある録音とされる。
(相当以前、midi による打ち込みが盛んだった頃に、不可能に近いと言われていたこの楽譜の指示通りの演奏を実現したと話題になったCD化されたmidiデータがあったように記憶している。)
一方、ソロモン(・カットナー)は、UK生まれのピアニスト。吉田秀和の『世界のピアニスト』にもソロモンのベートーヴェンが特別に取り上げられているほどで、腕の故障がなければ20世紀後半にも活躍したことだろうにと、惜しまれるピアニストだ。非常に硬質な音と峻厳なほどの姿勢のよい音楽を奏でる音楽家で、この大曲『ハンマークラフィーア』も、ミケランジェロ的な静かな巨大さを感じさせてくれる。
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